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原発なしでも乗り切れる猛暑の夏の電力供給

8月が電力需要のピーク

 毎年、甲子園で高校野球が熱戦を繰り広げる8月上、中旬頃が、年間の電力需要のピークになるが、今年は電力不足の懸念はなさそうだ。   政府は今年5月、早々と猛暑の「6〜9月」期、企業、家庭に節電要請をしない方針を決めた。11年3月の福島原発事故以降、毎年節電要請をしてきたが、今夏は例年以上の猛暑が予想されているにもかかわらず、要請を取りやめた。夏場のピークでも電力不足は起きないと判断しているためだ。

予備率3%以上を確保

 経済産業省によると、事故前の2010年夏と比べた今夏のピーク時の電力需要(大手9社)は、気温の上昇や経済規模の拡大を考慮しても、約14%減の1億5550万キロワット程度に止まると見ている。

 電力需給バランスを判断する基準として「予備率」と呼ばれる指標がある。ピーク時の電力需要に対する供給力の余力を示す指標で、3%以上が「余裕あり」とされる基準である。戦後電力各社は予備率3%以上を目指して供給力を維持してきた。経産省の認可法人、電力広域的運営推進機関(広域機関)の最近の調査によると、全国10エリア(沖縄を含む)の予備率は東京電力管内が0.7%で唯一3%を下回っているだけで、他のエリアは3%を大きく超えている。東電管内も中部電力などの他の電力大手からの電力融通を受ければ、「受給バランスに支障が起こることはない」と政府は判断している。

企業や家庭の節電努力が大きく貢献

 原発事故後5年を経て、需給バランスが大幅に改善してきた理由は大きく分けて三つ指摘できる。第一は企業、家庭の節電努力である。多くの製造業は事故後、省エネ機器の導入を積極的に進め、工場ぐるみで節電運動を継続的に展開した。百貨店やスーパー、コンビニなどの流通業界は照明をLED化するなどで節電を図った。家庭も省エネ意識が浸透し、エアコンの温度調整、テレビのつけっぱなしの自粛、使わない部屋の照明を消すなどの日常的な努力の他に、テレビ、冷蔵庫、エアコンなどの家電類を積極的に省エネ型に切り換えた。照明もLED化が大幅に進んだ。企業、家庭の地道な節電努力の結果、ピーク時に必要な電需要の9%近くを節減できる見通しだ。

再生可能エネルギーも供給力拡大に繋がった

 第二は再生可能エネルギー(再エネ)の拡大だ。太陽光や風力などの再エネでつくった電気を電力会社が一定価格で購入する制度(固定価格買取制度=FIT)が12年7月に導入されて以来、再エネの発電所が急速に増えた。特に太陽光発電の増加は目覚ましく、日照量が多い九州地方ではこの数年メガソーラーの稼働が相次いだ。この結果、夏場のピーク需要約1600万kwを大幅に上回る余力が生まれている。

電力小売りの全面自由化で新電力も続々参入

 第三は電力の全面自由化で、新電力が台頭してきたことだ。4月1日から始まった電力小売りの全面自由化によって、ガス、石油、通信、鉄道,商社、鉄鋼、セメント、地方自治体など多岐にわたる業種が新たな電力会社(新電力)として参入してきた。

この結果、たとえば東電管内では60万件近くが新電力に切り換えた。離脱率は約2.5%で最も高い。次いで関電管内も離脱率は2%、北海道電力管内も同1.4%。その他のエリアでは離脱率は1%以下だが、新電力の参入によって電力供給が増え、その分既存の電力各社の供給余力は拡大している。

日本のエネルギー需給構造が大きく変わった

 福島原発事故から5年を経て、日本のエネルギー需給構造に大きな変化が起こってきた。現在、原発は九州電力の川内1、2号機を除いて止まったままだが、節電による需要の抑制、再エネの拡大と新電力の参入で供給力が拡大し、供給力不足は中長期的に解消に向かうと見られる。このような需給構造の変化を前提にすれば、日本の将来の望ましいエネルギー構造の姿が見えてくる。

 第一に原発に依存しなくても日本のエネルギー供給には支障が生じないことだ。現実的な対応としては、@原発の運転期間40年原則を遵守すること、A既存の原発については40年原則に基づき、原子力規制委員会の安全性チェックをパスした原発の稼働を認める、B新規原発の建設は認めない、の実行である。この3原則によって中、長期的に原発ゼロが実現する。

中長期的には石炭火力の全廃が望ましい

 第二は石炭火力の縮小だ。第一段階として化石燃料の中でCO2(二酸化炭素)排出量の最も多い石炭を最も少ない天然ガスに切り換えること、第二段階として、中長期的には石炭火力の全廃を目指すべきである。政府は老朽化した中小規模の石炭火力を廃止し、大型・最新鋭の石炭火力に集約しようとしている。この方法ではいつまでたってもGHG(温室効果ガス)の思い切った削減ができない。

原発を再エネで置き換えることは可能だ

 第三は太陽光、風力、バイオマス、小水力など再エネの拡大を積極的に推進すること。2030年のGHG排出量は13年比26%削減が政府公約だが、この達成のために電源構成の約2割を原発に依存しなければならない。だが最近の再エネ普及の勢いをみると、原発依存分を再エネですべて置き換えることは十分可能だ。今夏政府が初めて、企業、家庭への節電要請をしなかった背景には、このような日本のエネルギー需給構造の変化があることを見落とすべきではないだろう。

(2016年8月6日 三橋規宏記)

 
 
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