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環境技術軽視が墓穴を掘る〜三菱自動車の燃費改ざん事件〜

燃費効率を実際より5〜10%高く見せるための偽装

 三菱自動車が軽自動車4車種で燃費を実際より良く見せる不正行為を続けていたことが明らかになった。同社の相川哲郎社長が4月20日、国土交通省で記者会見して明らかにした。不正があったのは三菱自の「eKワゴン」、「eKスペース」と日産に提供している「デズ」、「デズルークス」の計4車種。対象車は62万5千台に達するという。タイヤの抵抗や空気抵抗の数値を改ざんし、燃費効率を実際より5〜10%高く見せるようにしていた。不正発覚のきっかけが提携先の日産自動車からの指摘だったことも情けない話で、三菱自動車の自浄能力に疑問が投げかけられている。

経営破綻の危機迫る

 三菱自動車といえば、2000年と04年に大規模なリコール隠しが発覚し経営危機に陥ったことがある。外部に知られなければ、少々の不正を働いても構わない、同社のこんな企業風土が今回の不正事件につながっていたのではないか。思い切った体質改善に取り組まなければ、消費者からの不信を招き、企業として存続することが難しくなるだろう。事実、同社が最近発表した4月の軽自動車販売は前年比44・9%減と大きく落ち込んだ。  事件発覚後、軽4車種を生産する水島製作所(岡山県倉敷市)は軽の生産を止め、全工場従業員3600人のうち約1300人が一時帰休している。このままの状態が続けば、経営破綻も視野に入ってきそうだ。

失われたガバナンス

 今度の改ざん事件が同社の企業統治(ガバナンス)の欠如にあることは否定できない。利益優先主義の旗の下で企業統治が損なわれてしまった。下部組織の失敗が上部組織に報告されない、改ざんを担当部門が不正を隠蔽する、国が定める方法とは異なる方法で燃費計算を20年以上も続けきた、など事件発覚後、企業として好ましくない行為が次々に明らかになっている。

地球環境悪化への危機感が大幅欠如

 今回発覚した不適切な燃費計算の背景として、地球環境悪化や資源枯渇など今世紀の地球が直面している危機への配慮が著しく欠けていることが指摘できるだろう。  昨年9月、独・フォルクスワーゲンがディーゼル車の排ガス規制を逃れるためデータの偽装をしていたことが明らかになった時、環境への取り組みに熱心な「あのフォルクスワーゲンが、どうして?」といった驚きの声が世界中を駆け抜けた。そして、驚きの後に、「日本でも同様のケースがあるのでは」といった不吉な予言が自動車業界の一部で囁かれていた。それが現実になってしまった。

環境と経済の対立、20世紀末頃までは経済優先だった

 高度成長期の日本を振り返ってみると、経済と環境は対立関係にあった。経済成長のためには厳しい環境規制は好ましくない、逆に環境規制を厳しくすれば成長が損なわれてしまう。企業にとっても同様で、利益拡大のためには環境コストを低く抑えたい、環境コストを増やせば利益が減少してしまう。この悩ましい利益相反関係は、マクロ政策(産業政策など)の分野でも個別の企業活動の分野でも20世紀末頃までは経済優先で展開されてきた。

環境投資を避けて不正に走った代償は大きい

 だが、経済活動のエンジン役である石炭・石油などの化石燃料の消費が温室効果ガスのCO2(二酸化炭素)を大量に発生させ、世界的に異常な気候変動をもたらすことが判明して以来、企業活動にもCO2の発生抑制が強く求められるようになってきた。自動車各社にとって今世紀を生き残るためには燃費効率の改善・向上は至上命令だった。だが燃費効率改善のためには巨額の研究開発投資が必要になる。短期的には収益の圧迫要因だ。巨額な環境投資を避けながら、厳しい環境規制をくぐり抜けるための秘策はないか。このジレンマの過程で燃費データの改ざんが行われた。フォルクスワーゲンの場合はディーゼル車が排出する窒素酸化物(NOx)の排出量を検査中だけ減少させる違法なソフトの利用だった。その対象車は世界で1100万台に達する。同社は不正車対策として約2兆円を計上しているが、実際にはそれをはるかに超えるのではないかと推定されている。

環境負荷の低減を経営の中心に据える

 三菱自動車もフォルクスワーゲンも環境コストを惜しみ、環境の重要性を軽視し、収益拡大に走り、不正行為に手を染めた。その結果は企業の存続を問われるほどの深刻な打撃を受けた。

 地球に負荷を与えるような方法でしか利益を挙げられない企業は今世紀に生き残ることはできなくなるだろう。環境負荷の低減を経営の中心に据え、環境保全、環境改善に貢献すればするほど利益があがるそんな経営がこれからの企業に求められている。

(2016年5月3日 三橋規宏記)

 
 
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