高浜原発1、2号機の延命合格
原子力規制委員会は2月24日、運転開始から40年を超えた関西電力高浜原子力発電所1、2号機(福井県)について、安全対策が新規制基準を満たすと認める「審査書案」を了承した。最長60年までの運転延期を目指す老朽原発の新基準適合の最初のケースになる。1ヶ月間の意見募集を経て今春に正式決定する。残る手続きを7月の期限までに提出し、規制委の許認可を受ければ再稼働が可能になる。
運転期間は「原則40年」がルール
原発の運転期間については、東京電力福島第一原発事故後、原子炉等規制法が改正され「原則40年」と決められた。欧米先進国の運転期間を参考にして、事故を起こした1〜4号機がいずれも運転開始から30年以上経過した老朽原発であることなども考慮したものだ。ただし規制委員会が新基準を満たすと認めた場合は最長20年間伸ばせる。この規定は受給が逼迫して停電に陥る恐れなどの対応策として盛り込まれたものだ。あくまで緊急時対策である。規制法改正時の野田佳彦首相(民主党出身)は、同規定を「例外的な場合に限られる」と指摘、田中俊一委員長も「延長は相当困難だ」と語っていた。
その時から5年近くが経過した今、この規定はいとも簡単に踏みにじられようとしている。現状の日本では電力の安定供給は十分に確保されており、停電の恐れを心配するような状況ではない。例外規定には当てはまらない。それにもかかわらず、「40年原則」が簡単に骨抜きにされ、40年を超える老朽原発の再稼働に道が開かれようとしている。
政府、温暖化対策の切り札に位置づけ
いくつかの理由が考えられる。第1は政府が2030年の日本の温室効果ガス(GHG)の排出量削減目標として「13年度比26%減」を世界に公約していることだ。この目標達成のために電源構成に占める原子力の比率を20〜22%を確保することが必要だ。運転40年ルールを厳密に守るなら、国内43基のうち、30年に運転期間が40年を超えてしまうのが25基、18基が36年を超える。30年度に約2割を原発で賄うためには40年を超える老朽原発を10基程度運転させなければならない。
老朽原発の再稼働は企業の利益に大きなプラス
第2は電力会社側の事情である。原発の安全運転のためには、安全性に配慮された最先端の技術を動員した原発の新設が望ましい。しかし深刻な原発事故後、国民の間には原発の新設には「ノー」の姿勢が強く、用地の取得は事実上不可能に近い。そればかりではない。原発新設のコストは上昇の一途をたどっており、電力会社にとっては採算がとれなくなっている。
その点、老朽原発の再稼働のためのコストは十分採算がとれる。たとえば高浜原発の場合、原子炉を覆う格納容器の補強や電源ケーブルの火災対策の強化などが対策の柱であり、新設と比べたコストは比較にならないほど少なくて済む。
老朽原発の延命は、政府と電力会社の利害が見事に一致したことで、実現したと判断してよいだろう。
延命化に伴うリスクの拡大が懸念
だが、老朽原発の延命化には危険が付きまとう。この数年、高速道路やトンネルなどの公共施設の老朽化が原因の事故が多発している。原発も例外ではない。たとえば、原発の運転が長くなると、原子炉内の機器が放射線にさらされ、もろくなる課題が指摘されている。さらに深刻な問題として、原子力の専門家が警告している原子炉圧力容器の経年劣化がある。規制委員会の審査はこの点が甘過ぎるという。圧力容器の脆性破壊が起これば取り返しがつかない大事故が発生しかねない。
40年を超えた原発には、規制委員会の監視の目が届かない様々なリスクが内包されているとの指摘もある。長期的視野を欠き、「さしあたって都合が良いから」といった安易、かつ短期的な発想で、「例外規定」を骨抜きにしてしまう手法は、リスクを将来に先送りするだけではなく、リスク発生率を高め、立地周辺住民の不安心理を増幅させるだけの愚策と言わざるをえない。
(2016年3月7日 三橋規宏記)