4月1日から電力小売り全面自由化
4月1日からの電力小売り全面自由化が目前に迫ってきた。これまで電力は東電、関電など地域独占の10大電力会社によって一方的に供給されてきた。政府は地域独占型電力供給の非効率を是正するため、2000年以降、電力の自由化を段階的に進めてきた。大口需要家向けに続き、中規模需要家向けの電力供給もすでに自由化されており、電力量の6割が解放されている。4月1日からは残りの主として一般家庭向けの小口電力の販売が自由化される。対象になるのは全国で約8500万件(主として一般家庭)。戦後60年以上続いてきた大手電力会社による電力販売の独占体制に終止符が打たれることになる。
新電力約120社が参入
電力小売りの全面自由化は、大きく二つの変化を促す。第一は供給サイドの変化。一定の条件が整えば、誰でも自由に参入し、電力供給ができるようになる。第二は需要サイドの変化。地域独占時代には一般家庭は電力会社を選ぶことができなかったが、これからは自由に選ぶことができる。自由化による競争で世界的に割高だった電気代が安くなれば、消費者にとっては歓迎である。
電力小売りに参入するためには経済産業省に登録が必要になる。昨年末の段階で登録済みの事業者(新電力)は約120社。ガス、石油、通信、鉄道、商社、鉄鋼、セメント、テーマパークなど多岐にわたる業界から参入してくる。すでに新電力各社は様々なサービスを付与し、既存の電力会社より、電気代が安くなることをテレビや新聞などで盛んに宣伝している。既存の電力会社も負けじと新料金を提示し対抗策を打ち出している。需要側の消費者も自分のライフスタイルや電力消費量の大小の違いなどによって自由に電力会社を選べるようになる。
価格だけに関心が集中する異常さ
その限りでは電力小売りの全面自由化のメリットは大きい。しかし自由化実施を直前にした今、気になることがある。供給側も需要側も「電気代が安いか高いか」のみに関心を集中させていることだ。新聞などのマスコミもそれを煽るように価格比較にしのぎを削っている。
電気の質についての議論も軽視するな
だが、電力小売りの全面自由化には、価格の他にもう一つ重要な側面がある。それは電気の質である。具体的には供給される電気がどのようなエネルギー源で構成されているかである。消費者によってはエネルギー源が何であれ価格が安ければよいという選択を優先する人も多いだろう。別の消費者は原発を使った電気はたとえ価格が安くとも使いたくないという人、さらに別の消費者は価格が高くても、太陽光や風力など再生可能エネルギー(自然エネルギー)100%の電気を使いたいと思う人もいるだろう。火力発電にしても、石炭、石油、ガスなどの原料の違いによって1kwh(キロワット時)のCO2の排出量はかなり違ってくる。環境意識の高い消費者ならその違いも知りたいと思うだろう。
電力会社は電源構成を開示せよ
このような課題に対応するためには既存の電力会社も新電力会社も電源構成を明らかにする必要がある。これらの情報が開示されれば、消費者の選択は多様化し、市場を通して好ましい電源構成が形成されてくるだろう。だが、今度の自由化にあたっては、その点についての義務付けがない。このため、価格の安い電気が石炭を主力としたものであってもそれに気がつかず、結果としてCO2の排出拡大に加担してしまうことにもなりかねない。
再生可能エネルギーが選ばれる環境を整えよ
先進主要国の中で、温室効果ガス(GHG)削減の劣等生である日本が削減効果を高めるためには、今度の小売りの全面自由化をチャンスにして、再生可能エネルギーを主電源とする電気の利用を増やしていくことが望ましい。再生可能エネルギーを増やすためには中長期的には現行の固定価格買取制度の強化・拡充、新しい送配電網の新設・整備などが必要になる。
そのための一歩として、電力自由化の根拠法となっている電気事業法に「電力各社は電源構成を明記すべきである」との義務条項を付け加えることが望ましい。
(2016年2月1日 三橋規宏記)