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ガラバゴス化の道歩む日本の石炭火力発電

今後20年間に約50基、原発20基分の新増設

 福島原発事故以降、原発で低下した電力供給を石炭火力(発電)で賄おうとする動きが強まっている。今後20年間に新設や古い施設を新しく更新する石炭火力は大小合わせて50基近くに達すると見られる。合計出力は2千万キロワットを上回り、原発約20基に相当する。

電力小売りの完全自由化や技術革新が引き金

 石炭火力回帰の動きがここにきて強まってきた背景には、直前(16年4月)に迫った電力小売りの全面自由化に備え、価格の安い石炭火力で競争に生き残りたいとする産業界の思惑が働いているためだ。この動きに追い風になっているのが、石炭火力の技術革新である。温室効果ガス(GHG)の排出量が現在普及しているものより2、3割少ない新型設備(次世代高効率石炭火力)の実用化が可能になってきたこと、さらに大量に排出されるCO2(二酸化炭素)を地中に貯留するための技術、CCS(CO2の地中貯留)技術も視野に入ってきた。このような技術革新を受けて、電力、ガス、石油、セメント、鉄鋼など多様な産業の間で石炭火力発電の新増設計画が急増しているわけだ。

石炭は天然ガスの2倍もCO2を排出

 だが、石炭火力は温暖化の原因になる大量のCO2を排出する。技術革新によってCO2の排出量が削減できたとしても、CO2を大量に排出する構造は変わらない。同じ化石燃料でも1kW時の電気をつくる場合のCO2排出量は石油の約1.3倍、天然ガスの約2倍と多い。政府は30年の日本のGHGの削減目標として「13年度比26%削減」を世界に公約している。この実現のため、30年の望ましい電源構成(ベストミックス)として、石炭火力の比率を13年度の30%から26%へ引き下げることを掲げている。しかし、石炭火力の新増設が続けば、この目標が達成できなくなる。さらに長期的に見れば、一度石炭火力が新設されれば、40年近く稼働することになり、その間、GHGの排出削減に大きな足かせになってしまう。

環境省は大型火力発電の新設に反対

 このような考え方から、環境省ではGHGの大量排出を避けるため、大型火力発電の新設を阻止する姿勢を強めている。たとえば今年6月、山口県宇部市で電力、ガス、セメント企業が共同出資し、23年以降の稼働を目指している大型石炭火力(2基出力計120万kw)について、環境影響評価(アセスメント)に照らして「是認しがたい」とする意見書を環境大臣が経済産業大臣に提出した。同様に8月中旬には愛知県武豊町で中部電力が計画している石炭火力発電(同107万kw)に対して、さらに同月下旬には千葉袖ケ浦エナジーが千葉袖ヶ浦市で計画している石炭火力発電(同200万kw)に対しても「反対」を表明している。最終的な建設の許認可権は経産省が握っているが、産業よりの同省の姿勢はいまひとつはっきりしていない。石炭火力推進企業が多い日本経団連内部では、CO2排出を環境影響評価法の対象から外すよう政府に働きかける準備をしている。

石炭火力発電縮小の世界の動きに逆行

 一方、世界に目を転ずると、日本とは逆に、欧米先進国だけではなく、世界最大のCO2排出国の中国、さらにインドも含め、石炭火力を縮小していくための動きが活発になっている。たとえば米国のオバマ大統領は8月に「グリーンパワープラン」の改定版を発表した。米環境保護局が所管する大気浄化法の枠組みの中で、30年までに発電部門の排出量(主として石炭火力)を05年比で32%減らすという内容だ。ドイツやイギリスでは、石炭火力を縮小させ、再生可能エネルギーに切り替える計画が着々と進められている。世界最大の排出国中国は、30年までに国内総生産当たりのCO2排出量を05年比60〜65%減、インドも同33〜35%減を公約している。両国とも火力発電の大部分は石炭火力だ。

原発か石炭火力かの不毛の選択からの脱出を

 世界的に石炭火力の縮小の動きが目立つ中で、日本だけが拡大を目指し、石炭火力発電の輸出にまで力を入れている姿は、外国からみると異常に見える。COP(気候変動枠組み条約締約国会議)の場でも批判の声が高まっている。欧米では石炭火力縮小の代替として太陽光や風力などの再エネの拡大に力を入れている。これに対し、再エネを軽視し、その普及が大幅に遅れている日本には、「原発か石炭火力か」の不毛の選択しかない。このジレンマから抜け出すためには、原発、石炭火力の代替として、再エネの積極的な活用しかない。安易な石炭火力の推進は、持続可能な日本のエネルギー政策の破綻と世界からの孤立を招き、危険なガラバゴス化の道に突き進む一歩になりかねない。

(2015年11月3日記)

 
 
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