バイオ燃料は三つに大別できる
石油に代るバイオ燃料を藻類から作ろうとする新しい試みがこの数年盛んになっている。バイオ燃料は大きく分けて三つに大別できる。一つはトウモロコシやサトウキビなどから作るバイオエタノール、もう一つは菜種、ひまわり、ヤシ油などから作るバイオディーゼル、3番目が今回紹介する藻類から作るバイオ燃料だ。このうち前の二つは製造技術がすでに確立されており、海外ではガソリンや軽油などと混ぜて自動車用燃料として幅広く使われている。ブラジルでは100%バイオ燃料で走る車も多い。ただ原料が食糧であるため、たとえば、トウモロコシなどが大量に燃料用に使われると、食糧向けが不足し、価格高騰を招くなどの恐れがある。その点、藻類なら食糧とのバッテングはない。
油脂の固定化率が高い
藻類がバイオ燃料の原料として注目されるようになった理由はいくつか指摘されている。第一は、燃料になる油脂(炭化水素)を大量に固定化していることだ。たとえば、東大発の大学ベンチャー、ユーグレナは油脂の含有量が大きい微細藻類のミドリムシの量産化に取り組んでいる。最終目標はバイオジェット燃料の生産だ。株式会社IHIが商業化を目指しているのは「ボツリオコッカス」。同社の分析によると、この微細藻類は乾燥重量に含まれる油脂の量が50%以上あるそうだ。このように油脂含有量の高い藻類を見つけ、培養することでバイオ燃料の生産が可能になる。
地球温暖化対策にも貢献
第二は単位面積当たりの生産性が高いことだ。たとえばヤシの実と比べると、単位面積当たり生産性は「2〜10倍も高い」(IHI)という。第三は温暖化対策に有効なこと。石油や石炭のような化石燃料を燃やせば、大気中にCO2(二酸化炭素)を排出する。バイオ燃料も燃やせばCO2を排出する。しかし藻類の場合は生育段階で光合成によってCO2を吸収する。このため、燃やした時に排出するCO2は相殺され大気中の総量は増えない。
欧米の航空会社はすでにバイオ燃料を使用
現在、世界で排出される温室効果ガス(GHG)の約の2%を航空分野が占めている。世界の航空輸送量は年率5%程度で拡大しており、国連機関のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、このままで進むと、航空分野のCO2排出量は、最悪の場合、現在の5倍近くに達する、と警告している。バイオ燃料はすでに独ルフトハンザ航空や英ブリティッシュ航空、米ユナイテッド航空など欧米企業の間では年間約1700便に利用されているそうだ。一方、日航や全日空など日本の航空会社はこれまでバイオ燃料への関心が薄く、将来の運用の計画もない。
五輪までにバイオ燃料実用化で政府が音頭
ところがここにきて日本でもバイオ燃料を積極的に活用しよう、という新しい動きが出てきた。政府は、2020年に東京で開かれる東京五輪を「環境五輪」として位置づけ、環境立国日本を世界に宣伝したいと思っている。その一環として政府はバイオジェット燃料を使って飛行機を飛ばす計画を進めるため、7月初め「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けたバイオジェット燃料の導入までの道筋検討委員会」を発足させた。この検討委員会には経済産業省、国土交通省、環境省などの政府機関の他に、航空会社、石油元売り会社、バイオ燃料製造事業者などが加わり、オールジャパンでバイオジェット燃料の開発・活用を目指す。
1リットルあたり価格、100円以下が目標
藻類を原料にしたバイオ燃料は日本が先行しています。商業化のためには、価格、量産化を可能にする培養池の設置など解決しなければならない課題が山積している。たとえば藻類から生産したジェット燃料の価格は1?あたり300円程度かかるが、商業ベースにのせるためには100円以下にする必要がある。一方、自治体、企業、大学などが協力してすでに仙台市、つくば市、鹿児島市、沖縄県石垣市などには、培養施設が建設されている。夢のある挑戦だけに成功を期待したいものだ。
(2015年10月5日記)