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原発に足をすくわれた東芝

決算報告書発表、再延期の異常さ

 不適切会計で東芝が揺れている。8月31日夜、同社の室町正志会長兼社長は記者会見で「2015年3月期の決算報告の発表を延期する。多大な迷惑をかけ、お詫びする」と苦渋に満ちた表情で語った。同社は15年3月期の決算報告を6月末から8月31日に延期していたが、間に合わず9月7日まで再延期することになった。同社のような名門企業が再延期に追い込まれることは極めて異常なことである。それだけ、不適切会計の根が深いことを示している。

不適切会計に関与した経営トップの一斉辞任

 7月初め不適切会計が判明した後、不適切会計に関与した同社の社長、会長経験者が一斉辞任した。9月下旬の臨時株主総会後に発足する経営の新体制では三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏など7人の社外取締役を起用し経営の透明度を高め、信頼回復に取り組むことになっているが、なお混乱状態から脱却できないように見える。なぜ、過去の決算で利益を水増しするような前代未聞の不祥事を引き起こしてしまったのか。この点については原因調査に当たった第三者委員会(委員長上田広一・元東京高検検事長)の調査報告が克明に解明している。

上意下達の企業体質に原因ありと第三者委員会が指摘

 それによると、利益のかさ上げや損失計上の先送りを指示した歴代3社長発言が具体的に記載されている。一方、不正を強要された現場は、不正と分かっていても、それに異論を唱えることができず、不正を承知で不適切会計に手を染めざるを得なかった東芝の企業風土に原因があったことも指摘されている。特に厳しい「上意下達」の企業風土が社内の自由闊達な議論を封じ、不正を防げなかったことが強調されている。その指摘は正しいだろう。

原発への過大投資が不正の原因

 だが、今回、不正にのめり込んでしまった真の原因は、経営トップが原発を成長事業と見なし、過大な投資に踏み切った経営戦略の失敗にあったことを見逃すべきではない。福島原発事故(2011年3月11日発生)の発生以前、経済産業省・資源エネルギー庁は「今世紀は原子力ルネサンスの時代になる」として原発時代の到来を煽った。2020年までに9基の原発を新設、30年までに14基以上の原発を新設し、電力発電量の50%以上を原発で賄うことが必要だと打ち上げた。この体制に移行することで経済成長、エネルギーの安全保障、地球温暖化対策の三つの目標が達成できるとして、同省・同エネルギー庁は10年6月に「エネルギー基本計画」を作成、その推進を産業界に呼びかけた。東芝、日立製作所、三菱重工の三大原子炉メーカーも呼応して原子力事業分野の強化に乗り出した。三大原子炉メーカーは米仏の有力原子力企業と技術、資本両面の提携強化を図り、世界市場で盤石の競争力を築き上げようとした。

6600億円で米WH(ウエスチングハウス)を買収、子会社化

 特に東芝は積極的だった。同社は06年10月に米国の巨大原子炉メーカー、WH(ウエスチングハウス)の発行済株式の77%を54億ドル(当時の為替で約6600億円)で買収し、同社を子会社化した。当時、専門家の間では、ピークを過ぎたWHの市場価値は、最大その半分の3000億円、あるいはそれ以下と言われており、「東芝は高い買い物をした」とささやかれていた。買収当時の社長が西田厚聰氏だった。原発傾斜の西田路線は当初順風満帆に見えたが、08年9月のリーマンショック、11年3月の原発事故でもろくも破綻してしまった。事故発生後、国内の新規原発の受注はゼロ、近い将来も期待できない状態である。三大原子炉メーカーは天国から地獄に突き落とされたような状態に陥り、一気に経営が悪化した。特に巨額の投資をした東芝は深刻だった。

7年間で2130億円の利益を水増し偽装

 不適切会計は、このような背景の中で、会社ぐるみで行われた。8月下旬、東芝は不適切会計対象期間の09年3月期から14年4−12月期までの約7年間に2130億円の利益が水増しされていた、と発表した。不適切会計は西田厚聰、その後を引き継いだ佐々木則夫、その後任の田中久雄の歴代3社長の下で続けられてきた。

お荷物の原子力事業からの撤退が東芝再生のカギ

 東芝のような巨大企業の経営戦略は、監督官庁の情報を鵜呑みにせず、独自の情報収集、トップの冷静な時代感覚、予想されるリスクなどを総合的に判断して実施されなければならない。このような基本姿勢を貫いていれば、リスクの大きい原発がすでに斜陽産業に向かっていることが分かったはずだし、WHの巨額買収によるリスクは避けられたはずだ。東芝再建のためには、お荷物になっている原子力事業分野の思い切った整理、撤退に踏み切る勇気、経営判断ができるかどうかにかかっているといえるだろう。

(2015年9月3日記)

 
 
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