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不十分な政府の温暖化ガス削減目標

13年比26%減を決定

 政府は先日、2030年を目標にした温室効果ガス(GHG)の排出削減目標を「13年比26%減」にすると発表した。すでに温暖化対策に熱心なEU(欧州連合)は、30年までにGHGの排出量を90年比40%削減すると公表している。これまで温暖化対策の数値目標に消極的だったアメリカも25年までに05年比で26〜28%減らすと発表している。中国も30年頃をCO2排出のピークとし、国内の消費エネルギーに占める化石燃料以外の比率を約20%にする目標を明らかにしている。

 「早く日本も、目標値を発表すべきだ」との国際世論が強まる中で、この数年、日本は目標値の公表を先延ばししてきた。しかし今年12月にパリで開催予定のCOP21(国連・気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、20年以降のGHG削減のための拘束力を持つ新たな国際的枠組み(条約)がスタートする予定であり、6月初めドイツで開くサミット(主要7カ国首脳会議=G7)は、主要排出国の目標値を確認し、COP21の成功を後押ししたい意向で、日本はこれ以上先延ばしが許されない状態に追い込まれていた。

13年基準への変更は、削減幅を大きく見せるトリック

 何年を基準にして削減目標を決めるかについては、各国の思惑が異なるが、京都議定書では90年基準を用いていた。日本は90年比6%削減、EUは同8%削減を目標値に掲げた。今回政府は基準年次を90年ではなく13年に変更した。突然の変更は削減幅を大きく見せるためのトリックだ。13年の排出量は原発事故の影響で化石燃料の消費が増えたため、90年比10%強増えている。07年に次いで排出量が多い年である。この年を基準にした26%削減は、90年比では約17%削減にしかならない。一方EUは着実に排出量を減らしてきたので、13年の排出量は90年比20%減近くまで減少した。90年より増加した日本と減少したEUを13年基準で比較すればEUの削減幅は小さくなり30年の排出量は約24%減になる。13年基準を使えば、日本もEUも30年の削減目標はほとんど同水準と政府は説明している。だが、基準年次を恣意的に変えて、見かけの削減率を膨らませる官僚の姑息な手法は、国際社会ではとても通用しない。政府目標が伝わると、国内だけではなく、海外からも、「日本の削減目標には失望した」といった声が殺到しました。

原発頼みの排出削減は限界

 日本が高い削減目標を掲げられない最大の理由は、原発頼みで排出削減を推進しようとしているためだ。ところが11年3月の原発事故で原発路線は破綻してしまった。原発の再稼働には多くの国民が反対している。政府がこのジレンマから抜け出し、高い削減目標を設定するためには、節電、省エネ機器の開発、地産地消費型のコジェネレーションの普及など需要面からの対策強化、供給面では再エネを基幹電源として活用していく路線を明確にし、原発一辺倒路線からの脱却が求められる。

周波数の統一や新しい送配電網の構築などが必要

 再エネを基幹電源にする場合の最大の難関は、東西で異なる周波数の統一や再エネ電気を大量に送ることができる新しい送配電網の構築である。周波数の統一のための費用は少なく見積もっても3兆円近く必要だ。新しい送配電網の敷設費も数10兆円に達すると見込まれている。敷設期間も10〜20年の歳月が必要との指摘もある。この際、巨額のお金と時間がかかっても、周波数の統一、再エネを大量に流せる新しい送配電網の整備を日本再生の目玉として今世紀最大の公共投資として取り組むべきだ。その間は設置後40年廃棄を前提にして安全性が確保された既存原発を臨時措置として稼働させることを考慮しても構わない。このような長期的視点を踏まえ、日本は30年にGHGの排出量を90年比30〜40%削減の野心的な目標を打ち出すべきである。

(2015年5月10日記)

 
 
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