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再エネの普及を封ずる政府の原発回帰路線

2030年の原発比率約20%

 経済産業省はこのほど「2030年時点の望ましい電源構成(ベストミックス)」の原案をまとめた。それによるとベースロード電源(化石燃料、原発など)比率は約80%、その内、原発比率は21〜22%程度、再エネは23〜25%を見込んでいる。安倍政権はすでに原発稼働の推進を掲げており、今回明らかになった経産省原案はその肉付けをしたものと言えるだろう。事故前の2010年のベースロード電源は90%、その内、原発比率は28・6%。経産省原案では30年の原発比率が10年と比べ6〜7%低下しているが、全体としてみると、事故前の原発回帰を目指していることがわかる。深刻な原発事故を起こしながら、原発比率を2割程度(現在は0%)まで引き上げることに対しては国民の多くが批判的だ。それにもかかわらず、しゃにむに原発推進に邁進する政府の目的はどこにあるのだろうか。

温暖化対策は原発しかないという思い込み

 政府は温暖化対策の切り札は原発しかなく、再エネはあくまで補助的役割しか果たせないとの強い思い込みがある。国際的なGHG(温室効果ガス)削減目標を提示、達成するためには原発推進は欠かせない、と考えている。だがこの思い込みは長期的視野に立って考えると危険極まりない。IPCC(国連・気候変動に関する政府間パネル)の報告書によると、温暖化リスクを避けるためには、2050年にはGHGの排出量を現在(2010年)の半分程度、今世紀末にはゼロに近づけることが必要だと指摘している。日本がこの目標に沿ってGHGの排出を削減するためには、13年現在9割近くを占める化石燃料を50年に半減、今世紀末にゼロに近づけなくてはならない。その代替を原発が担うとなれば、将来の原発依存度は50%を大きく超えるというショッキングな事態に直面することになる。政府はそうした事態を認識しているのだろうか。

新たな送配電網の敷設で再エネは基幹電源になれる

 次に、政府が考えているように、再生可能エネルギーは本当に基幹電源になりえないのだろうか。この点についても疑問がある。既存の送配電網を前提にすれば、再エネの電源構成比は最大3割程度がやっとだろう。だが、既存のベースロード電源を支えてきた電力系統の抜本的な改革に踏み切れば事態は大きく変わってくる。電力系統とは電力を需要家の受電設備に供給するため、発電・変電・送電・配電を統合したシステムのことだ。既存の送配電網を使えば、再エネ電気が3割以上になると、送配電機器などが故障をおこしやすくなり、最悪の場合停電の恐れがある。このことから容易に分かることは、再エネを基幹電源に育てるためには既存の電力系統を根本から造り直し、再エネ電気をフル活用できる新しい送配電網体制に組み替えなくてはならない。だが、そのためには膨大な資金が必要だ。

周波数の統一だけでも3兆円のコストが必要だが・・・

 たとえば、東西電力会社で異なる周波数の統一が必要だ。電力会社から供給される電気は交流で、電気のプラス、マイナスが1秒間に何十回と入れ代わる。その入れ代わる回数のことを周波数(単位ヘルツ=Hz)と呼んでいる。東京電力などの東地域は50Hzの周波数、中部、関西電力などの中西地域は60Hzの周波数を使用している。この周波数を統一できれば、全国ベースで電気の融通が可能になる。この周波数の統一のための設備投資費用は少なく見込んでも10兆円は必要と専門家は推計している。さらに全国的に再エネを活用できる高圧の交流送電線の施設費用は概算で1km当たり6〜7億円と見込まれている。仮に千kmの送電線を新たに敷設すれば、6〜7000億円、1万kmなら6、7兆円の費用が必要だ。送電線の敷設距離が長くなれば、さらに費用が膨らむ。

新しい公共投資として送配電網の整備に取り組め

 私企業ではとても対応できる金額ではない。危険きわまりない原発を次世代に負の遺産として引き継ぐのか、いま、お金がかかっても、次世代がクリーンで安全な電気を使えるようにこの際、新しい送配電網の敷設を新しい公共投資として位置づけ、国家百年の計として次世代に残すべきか。私たち現代世代はいま、大きな選択の岐路に立たされており、正しい判断をする勇気が求められている。

(2015年4月10日記)

 
 
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