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新エネルギー基本計画の読み方

事故前の計画は「原子力ルネサンス」を反映

 安倍政権は中長期のエネルギー政策の指針となる新しいエネルギー基本計画を4月11日の閣議で決定しました。福島原発事故後、初めての改定です。事故前の2010年6月に策定された前回のエネルギー基本計画は、これからの時代を「原子力ルネサンス」と位置づけ、原発を積極的に推進する内容でした。具体的には20年までに9基の原発を新増設(当時54基が稼働)し、さらに30年までに少なくとも5基新設し、30年の電力供給に占める原発比率を10年当時の26%から50%強に引き上げる内容です。国民の多くもこの計画を支持していました。

原発事故で基本計画は白紙に戻る

  この計画が実現すれば20年に温室効果ガス(GHG)の排出量を「1990年比25%削減する」という政府(民主党政権)の国際公約を果たすことが可能になります。ところが、それから1年も経たないうちに深刻な原発事故が発生し、このエネルギー基本計画は白紙に戻ってしまいました。放射性物質が人々の健康を損ね、農業や漁業に多大の悪影響と損害を与えることが明らかになるにつれ、原発に好意的だった国民の多くが原発に批判的になました。原発によるメリットよりもデメリットの方が大きいとして脱原発を求める声が強まりました。

事故後原発稼働、全面中止へ、それに伴う障害は発生せず

 政府も事故直後に原発の安全性を検査するため、原発の稼働を全面的に中止しました。12年6月には環境省の外局に原子力規制委員会を新設し、同委員会の厳密な審査をパスしなければ再稼働ができないルールが決まりました。ただ12年夏の関西では、電力需要に供給が追いつかないという理由で、同年7月には、緊急措置として関西電力の大飯原発(3号基、4号基)の再稼働が認められました。しかし約1年後の13年9月には定期検査のため、再び運転が中止されました。今日までの3年間、日本はほぼ原発ゼロの状態で過ごしており、それに伴う障害が発生しているわけではありません。

原発をベースロード電源と位置づける

 このような時代変化の中で、政府が新エネルギー基本計画の策定にあたって最も苦心したのは原発の取り扱いです。原発を推進したい自民党政府は、世論の動向や自民党内部の反原発グループの動きを配慮し、閣議決定を何度も遅らせ、ようやく4月の閣議決定に持ち込むことができました。

 その主要な内容は、@原子力発電を主要なベースロード電源(発電コストが低く安定的で昼夜を問わず継続的に稼働できる電源)と位置づける、A原発依存度は低下させるが、原子力規制委員会の安全性確認を前提に「再稼働」を進める、B再生可能エネルギーは、13年から3年程度、導入を最大限加速し、その後も積極的に推進する。これまでのエネルギー基本計画をふまえて示された水準をさらに上回る水準の導入を目指すーーーなどとなっています。

原子力規制委員会の弱体かを目指す

  原発依存度を低下させる部分や再生可能エネルギーの推進に力をいれている部分などは、原発反対派に配慮した内容になっているようにも受け取れます。しかし全体として見れば、原発推進への強い政府の決意がにじみ出ているようにも見えます。この点で最近特に気になることは、原子力規制委員会人事への政府の姿勢です。同委員の選出に当たっては、選出ガイドラインがあり、原発推進側からの高い独立性と中立性が定められています。安倍政権はこのガイドラインを民主党政権時代のルールだとして撤廃し、昨日の衆院本会議で野党7党の反対を押し切り、原発推進に好意的な委員の就任を承認しました。原子力規制委員会の弱体化を図り、原発審査基準を緩め、早期再稼働を進めたいとする安倍政権の露骨な姿勢が見え見えです。

(2014年6月11日記)

 
 
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