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ミツバチが発する危険信号〜ネオニコチノイド系農薬〜

蜂群崩壊症候群の主因は何か

 大量のミツバチが姿を消す「蜂群崩壊症候群」が90年代後半から今日に至まで世界各地で頻発しています。地球温暖化の影響、ウイルス説、ダニ説など様々な理由が指摘されていますが、近年、広く使われるようになった農薬「ネオニコチノイド」が主因ではないかとする見方が有力になっています。

有機リン系農薬に代って登場

 ネオニコチノイドは、90年代後半から世界で急速に普及した新型の農薬です。それまでは有機リン系の農薬が主流でした。独特の農薬臭があり、ミツバチなどの昆虫は「危険な匂い」として本能的に近づくのを避けていたと言われています。有機リン系農薬は殺虫効果が高く、80年代までは世界の殺虫剤市場を独占していました。だが害虫に耐性が出てくると、それに代る新薬への期待が高まってきました。そこで登場したのがネオニコチノイド系農薬です。

タバコに含まれる猛毒のニコチンが原料

 タバコに含まれる猛毒のニコチンを改良し人体への毒性を弱めた農薬です。害虫に対して少量で高い殺虫効果があり、効果が長期間続く残効性に優れています。無色無臭で水に溶けやすく、作物に吸収されやすいなどの特徴があります。有機リン系の農薬と比べ、少量ですむため、導入から20年程度で有機リン系に切り替わってしまいました。

日本でも90年代後半から販売され、急速に普及

 日本でも90年代後半から市販されるようになりました。農薬メーカー、農協、農水省などが推奨したこともあり、今世紀に入ったころから急速に普及しました。ネオニコチノイド系農薬は、すでに指摘したように、無色無臭のため、匂いで危険物を避けるミツバチにとっては致命的です。この農薬は昆虫の神経伝達を狂わし、殺す作用があります。分業して集団生活を営むミツバチは、巣で過ごす女王バチや幼虫の食料や水を働きバチが外から運んできます。その食料や水が農薬で汚染されていれば、大量死につながります。ネオニコチノイド系農薬の普及とミツバチの大量死の時期が重なっているため、この新型農薬が原因ではないかとの疑惑が浮上しているわけです。

フランスは自主規制に踏み切る

 ヨーロッパでは、90年代後半からネオニコチノイド系農薬の大量使用・散布後、ミツバチの大量死が急増するようになりました。特に農業国のフランスをはじめ、ドイツ、スロベニア、イタリアなどで集中的に発生するようになりました。このため、フランスでは、99年に予防的措置としてネオニコチノイド系の農薬の一部使用を自主的に中止しました。一方、12年に入ると世界を代表する科学雑誌「サイエンス」や「ネーチャー」にミツバチへの悪影響を示す証拠が掲載され、同農薬に対する疑惑が高まりました。

EU、暫定措置として同農薬の使用禁止に踏み切る

 これを受けて、EU(欧州連合)は昨年12月、ネオニコチノイド系農薬の一部を暫定措置として一部使用禁止に踏み切りました。禁止措置は当面2年間とし、この間にミツバチと農薬との因果関係を科学的に検証し、今後の対応を講ずる方針です。一方、アメリカでは06年にミツバチの大量死が確認されました。同年だけで全米22州で被害が出たため、この現象は「蜂群崩壊症候群」と命名されました。しかし米政府は農薬メーカーへの配慮から、新農薬の規制に消極的だったため、09年にカリフォルニア州は独自に新農薬のリスク評価の見直しに踏み切りました。

「疑わしきは使用せず」の原則が必要

 日本では、ヨーロッパとは逆に農薬メーカーが監督官庁の農水省に対し、ネオニコチノイド系農薬の適用拡大、残留基準の緩和を要請しています。これに対し、国際環境NGOのグリーンピースや養蜂家などから反対の声があがっています。ミツバチの大量死と新農薬の因果関係は、科学的にはまだすべて解明されたわけではありません。しかし欧米の動向から見て容疑は濃厚です。ミツバチの発する危険信号を日本でも真剣に受け止め、「疑わしきは使用せず」の原則を徹底させることが、生物多様性の維持のために必要ではないでしょうか。

(2014年4月11日記)

 
 
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