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「原発ホワイトアウト」を読んで思ったこと

現役キャリア官僚による告発小説

 新年の読み始めの本として、「原発ホワイトアウト」(講談社)を読みました。昨年秋出版されましたが、版を重ねすでに10万部を超えるベストセラーとなり、話題を呼んでいる本です。ホワイトアウトとは、極地で雪原と雲が一続きに見え、天地の識別が困難になる現象のことで、視界が極端に悪い状態を指す言葉だそうです。現役キャリア官僚による原発告発小説です。

原発推進派による反原発グループ追い落としの過程をリアルに描く

 内容としては、原発推進派の鉄のトライアングルである政財官の融合体が様々な権謀術数を駆使して、反原発グループを追い落としていく過程がリアルに描かれています。本書が話題になったのは、第一に著者若杉冽がペンネームであり、実際はバリバリの現役キャリア官僚であること、第二に話の内容が政府内部にいなければとても知ることができない政財官の癒着の構造、特に反原発派を犯罪者にでっちあげる検察の手口(国策捜査)などがリアルに描かれていること、弟三は第一と関連しますが、「超過利潤」(レント)を守るための政財官の鉄のトライアングが、国家権力の行使によって相手を蹴落としていく違法まがいの手法を暴き出し、それを大胆に告発した若手官僚の勇気に共鳴する声が高まっているためです。

送電塔がテロリストに破壊され、メルトダウンが発生、政府大混乱

 本書では、反原発派を追い落とし、再稼働に成功するが、その直後に送電塔が外国人テロリストによって破壊される、それが引き金になり福島原発事故を上回るような深刻なメルトダウンが発生し、政府が大混乱に陥るころで終わっています。

旧態依然とした密室政治の中で、原発再稼働が決められる異常さ

 本書を読んで、最も強く感じたことは、福島原発事故の反省、教訓が生かされず、旧態依然とした密室政治の中で、原発推進という国の将来に大きくかかわる重要な政策が進められていることに対する異常さです。「由(よ)らしむべし、知らしむべからず」という言葉があります。為政者は、国民を施政に従わせればよいのであり、その道理を国民に分からせる必要はない、という文脈で使われます。国民を一段下に見て、政府の施策に黙って従わせるのが政治のプロだとする為政者(政治家、官僚)の思い上がりを示す言葉です。福島原発事故は、そうした為政者の傲慢な政治スタイルが裏目に出たものといえるでしょう。

日本国民全体の声を反映させる議論が必要

 このような反省に立てば、原発の是非をめぐる議論は、事故で大きな被害を受けた福島県民をはじめ、日本国民全体の声を反映させた議論が必要なはずです。しかし現実は、事故以前に戻ってしまい、必要な情報をひたすら隠し、推進派だけが密室の中で原発再稼働を決めるという昔ながらの手法がまかり通っています。原発の是非をめぐる議論は広く情報を公開し国民の総意を反映させるための合意づくりが必要です。

ドイツの原子力倫理委員会が参考になる

 この点で参考になるのがドイツの原子力倫理委員会です。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、福島原発事故が起こった直後の11年4月に原子力倫理委員会の設置を決め、その議論の結果を踏まえ、最終的に22年までに原発をゼロにする宣言をしました。倫理委員会は17名の委員で構成されており、委員は政治家、産業界代表、宗教家、学者,NGOなど多彩な顔触れで、電力会社などの利害関係者は入っていません。日本の場合は、原発推進派を中心としたメンバーだけで、再稼働を決めています。原発の是非は原子力専門家だけで決めるべきではありません。日本でもドイツ方式を採用し、国民合意の上で納得できる結論を導き出すべきです。本書を読んでこんな感想を持ちました。

(2014年1月7日記)

 
 
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