途上国人口の16%が飢餓に苦しんでいる
日本は飽食の時代と言われますが、世界には、食料不足で飢餓状態にある貧しい人々が約10億人もいます。南アジアのバングラデッシュやサハラ砂漠以南のアフリカ諸国などの最貧国を含め、発展途上国人口の約16%が飢餓に苦しんでいます。温暖化による気候変動で、時ならぬ大干ばつや豪雨に見舞われ、近い将来、世界の食料生産が大きな打撃を受ける心配が強まっています。
年間1700万トンの食品廃棄物を排出
日本は世界有数の食料輸入国ですが、食品のかなりの部分が廃棄物として捨てられています。大量の食料を輸入していながら、一方で大量の食品廃棄物を排出しているようでは、とても世界の一流国家とはいえません。農水省の資料によると、日本では年間約1700万トン〈2010年現在〉の食品廃棄物を排出しています。
穀物輸入は、約2500万トン、そのかなりが廃棄物に?
一方、米、麦、トウモロコシなどの穀物輸入は年間約2500万トンに達します。食品廃棄物は穀物だけではなく、野菜や魚類、肉類、乳製品なども含まれているので、単純な比較はできませんが、輸入穀物のかなりの部分が結果として廃棄物として捨てられていることが容易に想像できます。
食べられるのに捨てられる食品ロスは、年間最大800万トン
1700万トンの食品廃棄物のうち、本来食べられるのに廃棄されているもの、いわゆる「食品ロス」は、年間約500〜800万トンに達すると、農水省では推計しています。食品廃棄物の中には、加工、調理過程で不要になるもみ殻や魚の骨、野菜くずのようなものがあります。これらは飼料化、肥料化、エネルギー利用などとして利用されています。問題は、加工、調理され、十分食べられるにもかかわらず、食品廃棄物として捨てられている「食品ロス」が、食品廃棄物の3割から5割近くも占めていることです。食品ロスは、食品メーカーなどの事業系から排出されるものが約300〜400万トン、食べ残しや過剰購入品の廃棄など家庭系から出るものが200〜400万トンあります。
世界の食料援助量400万トンを上回る
食品ロスは世界全体の食料援助量約400万トン(2011年)を上回っており、日本のコメ収穫量850万トン(2012年)と同程度という膨大な量になっています。
食品廃棄物の中で、特に食品ロスが大きな割合を占めるようになった理由はいくつか指摘できます。第一の理由は、「3分の1ルール」という日本の食品業界独特の商慣習が挙げられます。
「3分の1ルール」が足かせに
「3分の1ルール」とは、食品を生産して消費者が消費するまでの期限を3分の1ずつ三つに分割する制度です。具体的にはメーカーから卸・小売店への納品期限が3分の1、店頭に置く販売期限が3分の1、消費者が購入して消費するまでの賞味期限が3分の1に割り振る制度です。「鮮度のいいものを消費者に提供する」という目的で、1990年代に定着した制度と言われています。賞味期限6カ月の加工食品を例にあげれば、納品期限が2カ月、販売期限が2カ月、賞味期限が2カ月になります。納品期限と販売期限を合わせた4カ月の間に、メーカー段階では多めの在庫、規格外品を抱えています。
返品の76%が廃棄されている
一方、流通段階では納品期限切れ、新商品の発売などで店頭から撤去される「定番カット」などの理由でメーカーに送り返される商品が、年間1136億円。販売期限が切れたなどで卸売、メーカーへの返品が417億円もあります。食品業界の調査によると、メーカーに返品された商品の約74%がまだ食べられるにもかかわらず廃棄されており、デスカウント店などの他の販路への転売は、約16%にとどまっています。
消費者の大量購入にも問題
第二に消費者側にも問題があります。店頭で購入した食品についてですが、家庭で調理する段階で過剰除去(皮を厚くむきすぎたり、油っこい部分を調理せずに取り除いた部分など)、食べ残し(作り過ぎて食べ残された料理)、大量購入して冷蔵庫などに入れたまま賞味期限切れになって直接廃棄するなどによるロスです。食品ロスを削減するため食品メーカー、卸・小売店、消費者にそれぞれできる対策ははないでしょうか。
納品期限の緩和、新販路の開拓、フードバンクとの提携
事業系については、「3分の1ルール」を改め、納品期限を現行の3分の1より長めに緩和することで、返品率を大幅に削減できます。賞味期限が6カ月であれば、現行の2カ月から3〜4カ月へ拡大する方法です。一部の流通業界では納品期限の緩和によって、返品率を大幅に削減しています。食品メーカー側は返品の直接廃棄はできるだけ避け、賞味期限前の食品や規格外品を低価格で販売できる新ルートの開発にもっと力をいれる必要があります。
もったいない精神に基づく新しい食生活への転換
最近では、メーカーに返品された賞味期限切れ前食格外品を引き取り、福祉施設などへ無料で提供する「フードバンク」〈多くは非営利団体〉が活動しています。フードバンクとの協力によっても、食品ロスを減少させることも社会貢献として大切です。消費者も、計画的な購入、食べ残しがでないような適量料理などもったいない精神に基づいた新しい食生活への転換が求められます。
(2013年9月9日記)