伸び悩みの電気自動車
究極のエコカーとして、燃料電池自動車への期待が高まっています。エコカーといえば、日本生まれのハイブリッド車が有名です。ハイブリッド車は、エンジンとモーターを動力源として組み合わせた低燃費車ですが、ガソリンを使うため、温暖化の原因になるCO2(二酸化炭素)を排出します。このため、ハイブリッド車の後続エコカーとして電気自動車の開発が進められてきました。電気自動車は走行過程で、CO2を排出しません。ニッケル水素電池を使った電気自動車は重量、容積が大き過ぎるうえ、走行距離が短いなどの難点がありました。しかしリチウムイオン電池が自動車用に使われるようになり、電気自動車は、ようやく商業ベースに乗り、数年前から一部のメーカーが販売に踏み切りました。しかし、ガソリン車と比べ、一回の充電による走行距離が短く、充電時間も長いなどの問題があり、期待したほど販売が伸びていません。
水素と酸素がエネルギー源、廃棄物は水
代わって、エコカーの本命として最近注目を集めてきたのが、燃料電池車です。燃料電池車のエネルギー源は水素と酸素です。車載タンクに充填した水素と大気中の酸素を化学反応させて生みだしたエネルギーで電気をつくりモーターを動かして車を走らせます。廃棄物は、無害な水だけです。電気自動車は走行過程ではCO2を排出しませんが、電気をつくる過程で、石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料が使われているので、間接的にCO2を発生させていることになります。その点、究極の燃料電池車は、必要な水素が水の電気分解で得られるので、製造段階でもCO2を一切排出せず、環境に優しい車です。
一回の水素充填で、500kmの走行が可能
電気自動車と比べた燃料電池車の長所は、一回の水素充填で走れる距離が約500Kmで、電気自動車の2倍以上。充填時間も電気自動車が約30分なのに対し燃料電池車は約3分程度と短く、ガソリンの給油並みの時間で済みます。逆に短所は、1台当たりの価格が高額なことです。10年前に燃料電池車が注目されたことがありますが、その時は1台1億円を超える価格で、とても商業ベースに乗りませんでした。現在でも製造コストは、1台約1000万円と言われています。
トヨタ、ホンダが先行
燃料電池車は、世界的に見て、トヨタやホンダが先行しています。両社は90年代初めから燃料電池車の開発に力を入れてきました。ホンダは2002年に、日米の官公庁向けに世界初の実用車を納入するなど開発競争を先導してきました。燃料電池車の優位性に着目したトヨタは、2年後の15年に500万円程度の燃料電池車の発売に踏み切る方針を明らかにしています。ホンダも15年発売を視野にいれているようです。
欧米の有力自動車メーカーと共同開発の動きが活発化、トヨター独BMW、ホンダー米GM、日産―独ダイムラーー米フォード
トヨタやホンダが先行してきた燃料電池車開発の動きは、今年に入り一気に顕在化し、グローバル化しました。欧米の有力自動車メーカーが、相次ぎ先行する日本メーカーと提携し、基幹システムなどの共同開発に取り組む動きを強めてきました。
今年1月下旬、トヨタは独BMWと燃料電池車の開発で合意しました。その数日後、日産−仏ルノー連合が、独ダイムラーと米フォードと連携して燃料電池車の共同開発に合意しました。7月初めにはホンダが、米GM(ゼネラルモーターズ)と、同様の技術開発で提携することが明らかになりました。これで、世界の主要自動車メーカーが三つのグループを形成し、燃料電池車の開発で競い合う新たな時代を迎えたことになります。これまで、競争関係にあった日米欧の主要自動車メーカーが燃料電池車の開発で提携するようになったのは、どのような理由からでしょうか。
早期実用化で、合従連衡が進む
最大の理由は、燃料電池自動車の早期実用化が、これからの世界市場で生き残るために必要だとの認識が、世界の主要自動車メーカーの間で強まっていることです。
しかし、早期実用化のためには、膨大な開発コストがかかるうえ、インフラ整備などが必要です。単独で取り組むには資金がかさみ危険が大き過ぎます。そこで、燃料電池車の開発で先行する日本メーカーと組む「合従連合」がここにきて一気に進んだわけです。各グループとも20年に実用化を目指しています。電気自動車のバッテリーに相当する燃料電池本体のことを「セルスタック」といいます。セルは板状の形をしており、燃料電池を作る単位で、単電池とも言われています。セルを何枚も積み重ねて電気を作るわけです。たとえば、1kw(キロワット)の電気を作るためには約50枚のセルを積み重ねます。共同開発に当たっては、スタックの小型化、水素と酸素の反応を高める触媒の開発、搭載する水素タンクの本数削減、水素ステーションの建設など様々な問題があります。究極のエコカー、燃料電池車の普及は歓迎です。低価格で良質の燃料電池車の出現を大いに期待したいと思います。
(2013年7月8日記)