サンゴ礁の国でリフレッシュ、自然のリズムに合わせたライフスタイルに魅力
今年も5月の連休を利用して、南太平洋やインド洋に浮かぶサンゴ礁でできた島嶼国を訊ね、リフレッシュされた方も多かったのではないでしょうか。筆者もこの何年か海面水位の上昇で水没してしまうのではないかといわれるツバルやモルジブを取材で訪ねました。東の水平線の向こうから太陽が昇ると起き、西に沈むと一日の仕事を終える、日差しの強い日中はゆっくり昼寝を楽しむ、そんな島民の自然のリズムに合わせた生活を見ると、あくせく働く都会の生活が殺伐としたものに思えたものです。
何千万年、何百年の歳月を経て、サンゴ礁は形成される
ツバルの子供たちは、波の穏やかなサンゴの海に潜り、貝や魚を捕って食べ、海の中で排出を済ませます。くりくりした眼差しで、外国人の私に貝をくれたりする仕草がとてもかわいらしく、健康な自然児が発散する磯の香りに感動した思い出があります。サンゴ礁は、2千万年以上も前に海底火山が噴火し、その上に造礁サンゴ虫が群生し、その死骸(石灰質骨格と石灰藻など)が蓄積されます。その上にまたサンゴが成長するというサイクルを何百万年、何千万年という長い年月繰り返すことで、島の土台ができたものです。従って、サンゴでできた島嶼国では、島全体が海面すれすれで、高いところでも海抜3〜4m程度です。満潮時には、島の一部や大部分が水没するケースが頻繁に発生します。
サンゴのCO2吸収力は、陸上植物よりも大きい
そのサンゴ礁が海の生態系を維持するために大きな役割を果たしています。サンゴは動物ですが、二酸化炭素(CO2)を吸収し、酸素を排出します。正確にいえば、サンゴ自身が光合成を行うのではなく、ポリプ(サンゴ個体)の体中でサンゴと共生している褐虫藻(かっちゅうそう)という藻類(植物)の働きによるものです。一定面積当たりのサンゴのCO2吸収量は、陸上植物の10倍以上もあり、地球全体で比較すると、サンゴのCO2吸収量が陸上植物を上回ると言われています。この他に、サンゴは海を浄化する働き、多様な魚介類の生息場所の提供、天然の防波堤など様々な役割を果たしています。
温暖化で、サンゴの白化現象が急速に進む
そのサンゴが、最近急速に減少しています。サンゴ減少の原因は色々指摘されています。生活排水による水質汚染、開発による赤土の流出、海域の埋め立て、ゴミの放棄など様々な人的要因が重なり合って、サンゴの生息環境を狭めていることです。しかし、最近急激に進むサンゴの減少については、温暖化が原因だと多くの科学者が指摘しています。それがサンゴの白化現象です。サンゴは水温の上昇や強い紫外線に当たると、個体が白化して、死んでしまいます。健康なサンゴは、褐虫藻が活発に活動しているので、褐色などの濃い色をしています。しかし高い水温などのストレスが加わると、サンゴ体内の褐虫藻が元気を失い、大幅に減少してしまうため、骨格が白っぽくなります。それが白化現象です。サンゴは必要な栄養(炭水化物など)の大部分を褐虫藻からもらっているため、白化状態が数週間も続くと、サンゴは飢え死にしてしまいます。サンゴの白化現象は、1997〜98年に世界規模で発生し、注目されましたが、最近また白化現象が世界各地で目立っています。
海水の酸性化もサンゴの生長を損なう
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書でも、産業革命前と比べ、気温が2℃程度上昇すると、サンゴ礁の生態系が壊滅的な打撃を受ける、と警告しています。この他、温暖化との関係で、海水の酸性化が、サンゴの生育を損なうという指摘もあります。大気中のCO2が海水に溶け込み、酸性化することで、サンゴが炭酸カルシュームの骨格(石灰化)をつくれなくなるという懸念です。サンゴの生息環境が大幅に悪化すると、サンゴ礁でできた島も台風や波の浸食、温暖化に伴う海面水位の上昇などの影響で島の消滅や水没の恐れがでてきます。
サンゴが守る世界第9位の排他的経済水域
海に囲まれた日本にとって、サンゴ礁の盛衰は、日本の将来に大きな影響を与えます。国連海洋法条約では、排他的経済水域(EEZ)を認めています。海岸線から200カイリ(約370km)までは、所有国が優先的に漁業や海底資源の開発ができる権利です。島にも排他的経済水域が認められています。この結果、日本のEEZは、447万kuで、国土面積の約12倍、世界第9位の広さを誇っています。これを可能にしているのが、沖縄、小笠原諸島、硫黄島、沖の鳥島、南鳥島などのサンゴ礁でできた島々です。これらの島が太平洋上に点在しているため、日本は広い海域をEEZとして利用できます。
サンゴがつくりだす海の生物多様性を守ろう
しかし、将来サンゴの生息条件が失われ、これらの島の一部が消滅したり水没したりすれば、EEZは大幅に縮小してしまう危険性があります。サンゴが健全に育つ環境を維持できれば、サンゴの死骸が蓄積されて、その蓄積量は100年間に20〜30センチに達するとの指摘もあります。わずかとはいえ、サンゴ礁の面積が増えることになります。サンゴが守る経済水域を持続可能な水域にするため、海洋生物学者などの科学者の知見を積極的に取り入れ、サンゴがつくりだす海の生物多様性を守るための様々な対策、工夫が求められます。
2013年5月記