1月の北京、スモッグがなかった日は5日間だけ
中国の大気汚染が危機的状態に陥っています。中でも最も深刻なのは北京で、1月にスモッグが無かった日はわずか5日間、過去60年間で最悪の状態に追い込まれました。昼間でも太陽が見えず、スモッグに覆われた薄暗い街中を大きなマスクをして歩く北京市民の痛々しい姿が何度もテレビで放映されていたので、ご記憶の方も多いのではないでしょうか。
微細汚染物質PM2.5が原因で呼吸器障害など発生
大気汚染の犯人は大気中に浮遊する粒子状物質です。粒子状物質には大小様々ありますが、このうち特に粒径の小さい物質(粒径2.5マイクロメートル以下の物質)をPM2.5と呼んでいます。1マイクロメートルは1ミリの千分の1に当たります。人の毛髪の直径は約70マイクロメートルなので、PM2.5はその約30分の1の小さな粒子です。そのため、容易に呼吸器の奥深くや血管にも入り込み、ぜんそく、心臓疾患などを発生させ、死亡リスクを高める、と言われています。
昨年は北京など4大都市で、約8500人が死亡
北京大学が国際的な環境NGO、グリーン・ピースの協力を得て4大都市(北京、上海、広州、西安)を対象に調査したところによると、昨年1年間に、PM2.5が原因と考えられる死者が8572人、また、それに伴う経済損失は、10.8億ドル(約970億円)にも達したそうです。中国の大気汚染の原因は自動車の排ガスに含まれる粒子状物質、火力発電や工場からのばい煙、さらに厳寒だった今年の冬は市民の間で暖房用の石炭が大量に使われたことも大きく影響したようです。この他の理由として、北京市の地理的条件も大気汚染を深刻化させる原因として働いたようです。北京市は盆地で大気汚染物質がたまりやすいうえ、今冬は特に地上付近の空気が冷やされ、大気が滞留しやすい状況が生まれたことも指摘されています。
企業の操業停止などの緊急対策発動も効果は限定的
北京市では、大気汚染対策として、大量の汚染物質を排出する企業103社に対し操業停止、また20社に対し減産措置をとるなどの緊急対策を実施しました。さらに自動車については運転自粛、排ガス規制の強化などの対策を講じています。たとえば、北京市では政府公用車使用の3割削減、2月1日からは自動車の排ガス規制を一段と強化するなどの対策を進めています。しかし、そうした努力にもかかわらず、自動車総数が毎年増え続けているため、ほとんど効果があがっていません。北京市内の自動車は過去5年間で、66%も増え520万台に達しています。
PM2.5専用のマスク着用などで自己防衛
一方、大気汚染に対して、北京市民は @スモッグの濃い日は外出を控える、A外出する時は、PM2.5専用の特別のマスクを着用する、B室内に空気清浄機を設置するなど、自己防衛でピンチを乗り切ろうとしています。しかしPM2.5の影響を受けやすい子供たちはぜんそくや気管支炎で病院に駆け込むケースが増えており、市民の間に動揺が広がっています。中国の大気汚染の主原因は、急ぎ過ぎの経済発展と経済発展を支えるエネルギーとして石炭やガソリンなどの化石燃料が大量に使われていることにあります。しかも、石炭やガソリンなどの化石燃料を使用する際、排出される有害物質規制は欧米など先進国と比べると、緩々(ゆるゆる)の規制になっています。
世界規制基準の20倍以上の濃度が定着
たとえば、世界保健機構(WHO)のPM2.5規制基準によると、1立方メートル当たりのPM2.5の濃度は10マイクログラムですが、中国の基準はずっと緩やかです。今冬の北京のPM2.5の濃度は、平均してその20倍以上に達しています。日時や場所によっては、500〜800マイクログラムを超える濃度のところも少なくありませんでした。
中国の大気汚染、日本へも影響の恐れ
中国の大気汚染の影響は、東シナ海を越えて、九州、四国、山口県などの西日本地域にも及び、これらの地域の人々に不安を与えています。特に影響が懸念される福岡、長崎など九州の各県では、昨年からPM2.5の測定を強化しています。日本のPM2.5の環境基準は、1年間の平均値が15マイクログラム以下、1日の平均値が35マイクログラム以下に定められています。日によって濃度が高い日と低い日があるため、2重の基準を設けているわけです。中国の大気汚染がひどかった1月末頃には、長崎県内4か所の観測では、平均値が41マイクログラム、福岡市でも6か所の観測値の平均値は35マイクログラムを超えたそうです。これらの地域では、毎年、年間20〜30回は基準値を超える日があるそうなので、基準値を超えたからといっても、直ちに健康に影響を与えるわけではありません。
万全の監視体制が求められる
しかし、今後数値が極端に上がるようだと、健康への影響が懸念されます。冬場はシベリア気団が強いため、北西の風が吹くため、中国から日本へ大気汚染はあまり流れてきません。しかし、これから春に向け、暖かくなると、偏西風に乗って中国から黄砂とともに汚染物質が飛来する可能性が強まります。それだけに影響を受けやすい九州や西日本地域では、観測体制の強化など万全の対策が求められます。
2013年2月4日記