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GHG(温室効果ガス)削減の京都議定書目標達成、滑り込みセーフか

COP3で日、米、EU、GHGの排出量削減で合意、日本は6%削減約束

 地球温暖化を防止するための京都議定書の約束期間が来年3月末で終わります。97年に京都で開かれた気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)で、気候変動に悪影響を与える温暖化を抑制するため、CO2を中心とする温室効果ガス(グリーン・ハウス・ガス=GHG)の排出量を削減するための話し合いが行われました。その結果、GHGの排出量は、日米欧を中心とする先進工業国の経済発展に起因する部分が大きいため、日米欧が率先してGHGの排出量を抑制するための目標値を設定することで合意しました。話し合いの結果、日米EU(欧州連合)は、それぞれ90年のGHG排出量を基準にして、12年末(日本は12年度末)までに、GHGの排出量をそれぞれ、6%、7%、8%削減することで合意しました。

アメリカ抜きで、05年2月に発効

 この約束を記載した条約が京都議定書です。だが、京都議定書からは、当時最大のGHG排出国のアメリカが「温暖化よりも、経済成長が大切だ」と言って、京都議定書から離脱するなど曲折がありましたが、05年2月にアメリカ抜きで発効しました。この結果日本は、12年度末までに6%削減の義務を正式に負うことになりました。6%削減は、約束期間である08年度から12年度までの5年間の平均値で示す約束になっています。さらに、日本の場合は、6%削減の中に森林の吸収分3.8%、外国からの排出枠購入分1.6%分(外国で削減したGHGの排出量)を算入できる仕組みになっています。

リーマン・ショックが削減に貢献する皮肉

 約束期間の5年間には、削減がうまくいった年、逆に排出量が増えてしまった年などばらつきがあります。あと4カ月で最終年の12年度が終わります。目標は達成できるのでしょうか。5年間を振り返ってみましょう。GHGの排出削減に大きな効果があったのが08年秋に起こったリーマン・ショックです。リーマン・ショックで世界同時不況が起こりました。日本もその影響を受けて、08年度、09年度と2年続けて、マイナス成長に落ち込みました。このマイナス成長がGHGの排出削減に大きく貢献したのは、皮肉としか言いようがありません。

成長率を上回るGHGの排出量増加率

 日本は化石燃料依存型の経済発展なので、経済成長がプラスの時は、成長率を上回って、石炭、石油などの化石燃料の消費が増えてしまいます。化石燃料の消費が増えれば、CO2を中心としたGHGの排出量も増えます。 逆に経済成長がマイナスに転ずると、化石燃料の消費が落ち、CO2の排出量の減少は落ち込んだ成長率よりも大幅に減少します。08年度、09年度2年連続のマイナス成長になったため、両年度のGHG排出量は、90年比10%以上も削減できました。10年度はプラス成長だったので、GHGの排出量はわずかに増えましたが、3年度合わせた排出量は約10%削減を維持できました。このため、環境省では、この調子でいけば、後半の11年度、12年度がプラス成長で、GHGの排出量が多少増えても、楽々6%削減の目標は達成できると考えていました。

原発ストップで楽観論、吹き飛ぶ

 ところが、11年3.11の東日本大震災で、すべての原発がストップするという異常事態が発生しました。楽観論は一気に吹き飛んでしまいました。事故前は、発電電力量の約26%を原発に依存していました。原発は発電段階で、CO2を発生しません。だが、原発が止まってしまったため、必要な電力量を補うためには、石炭や石油,LNG(液化天然ガス)などの化石燃料に依存しなければなりません。火力発電による発電量を増やせば、CO2の排出量は当然増加します。原発が担ってきた発電量の26%を火力発電で賄うと、6%削減が達成できなくなるかもしれません。

原発10基分に相当する節電効果

 政府は、原発停止によって減少した電力供給に対して二つの対策を実施しました。ひとつは夏場の電力需要の思い切った抑制です。11年度は主に東京電力、東北電力管内の企業、住民に対して、前年比15%の節電を求めました。二つ目が火力発電の稼働です。このうち、節電は節電革命と言っても過言でないほど大きな効果をあげました。7,8月の電力消費量は、需要量が大きい月曜日から金曜日までのウイークデーで2割を超える節電が実現しました。東京電力管内では、原発約10基分の節約が実現しました。12年度の夏場は、電力不足が懸念される関西電力管内で、政府は住民や企業に対し10年比10%の節電を求めました。終わってみれば、11,1%の節電ができました。他の電力管内でも大きな節電効果が確認されました。

なんとか目標達成は出来そうだ

 この結果、11年度のGHGの排出量は実績見込みで90年比6.5%減、12年度の経済成長率は、貿易の伸び悩みなどもあり、当初政府見通しの2%台はとても見込めそうにありません。現に7−9月期のGDP成長率は前期比マイナス、10〜12月期も連続マイナス成長が見込まれており、年度全体で1%台の成長がやっとです。この景気減速によって、GHGの排出量も抑制されます。このため12年度のGHG排出量は90年比2%減程度になりそうです。この結果、5年間の平均では、約束期間の前半で稼いだ削減量に支えられて、滑り込みセーフで、約束の6%削減を上回る8%減程度が達成できそうです。

2012年11月16日記

 
 
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