国民の9割近くが脱原発を望んでいる
福島原発事故から早くも1年半が過ぎようとしています。この間、原発事故で故郷を追われた人々の帰還や放射性物質を取り除くための除染作業、汚染物質を保管するための中間処理施設や最終処分場の選定などは、遅々として進んでいません。一度事故を起こすと取返しのつかない大被害をもたらす原発について、国民の不信、不安は強まっています。新聞、テレビなどの世論調査によると、国民の9割近くが、脱原発を望んでいます。野田政権が、昨年9月中旬に「30年代に原発稼働ゼロを目指す」という方針を盛り込んだ新たなエネルギー・環境戦略を発表したのも、脱原発が新しい時代の流だと判断したためだと思います。
核のごみ問題急浮上
原発ゼロ路線を目指す議論の中で、最近急浮上してきた厄介な問題があります。核のゴミ、正確に言えば、使用済み核燃料の処理です。使用済み核燃料は、福島原発事故で周辺に飛散した放射性物質と比べると、比較にならないほどの高レベルの放射線を発します。原発から排出される使用済み核燃料は再処理工場に運ばれ、ウランやプルトニウムを取り出しMOX燃料(混合酸化物燃料)として再利用します。それ以外の廃液(ストロンチューム、セシューム、マイナーアクチノイドなどを含む)はガラスで固め固化体にします。
高レベル放射性廃棄物の安全処分に決め手欠く不安
このガラス固化体を高レベル放射性廃棄物と言います。製造されたばかりのガラス固化体は、人間が数秒触れるだけで死亡するほどの強力な放射線を発します。またマイナーアクチノイドのように半減期が数万年に及ぶものがあり、長期間、安全に保管することが求められます。しかし、長期間安全に管理する方法はまだ決め手はなく模索の段階です。
青森県六ケ所村の再処理工場はいまだに稼働せず
日本では、青森県六ケ所村に再処理工場が建設され、95年から操業のための準備をしてきましたが、トラブル続きで17年後の今日に至るまで稼働していません。そこで、使用済み核燃料の処理はイギリス、フランスに委託しており、11年末時点で、返還されたガラス固化体は2652本あります。六ヶ所村にある高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターに一時的に保管・管理されています。
さらに全国の原発には、約2万7000本(使用済み核燃料1トンから1本のガラス固化体を製造する場合)に相当する使用済み核燃料が貯蔵されています。
原発を使えば使うほど高レベル放射性廃棄物は増え続ける
原発を使用すればするほど、使用済み核燃料は増え続けます。逆に原発ゼロを目指すなら、使用済み核燃料を再処理工場に持ち込まず、そのまま最終処分すべきです。
しかし、高レベル放射性廃棄物と使用済み核燃料では物質の性格や放射線の出方が違うため、使用済み核燃料を直接最終処分する場合は、処分技術の開発をゼロからやり直さなければなりません。
原発を廃棄物処理法の適用除外にしたことに原因あり
人々の健康に大きな影響を与える危険物質、高レベル放射性廃棄物の処理が、大幅に遅れてしまった最大の理由は、原発を廃棄物処理法の適用除外にしたことです。
国内の産業廃棄物は、廃棄物処理法によって、各産業、企業が排出する廃棄物は、その種類や最終処分の仕方について厳格で細かな規制があります。この規制に従わない企業は事業の継続が認められない仕組みになっています。能力が低下し、深刻な電力不足に陥り、経済活動に深刻な影響を与えたそうです。
300メートル以上の地下に埋める最終処分場探しは難航
だが原発だけは、この法律の対象外になっています。原発の使用済み核燃料の最終処分は別途、原子力基本法の実施法である「特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律」(2000年6月実施)が適用されます。この法律の目的を実施する機関が原子力発電環境整備機構(NUMO=ニューモ)です。NUMOは、経済産業相の認可を受け、電力業界が2000年10月に設立しました。NUMOの職員はほとんどが電力会社と経産省出身者で占められています。NUMOの役割は最終処分のための適地を探し、地下300メートル以深に安全かつ確実に埋めて最終処分とすることです。しかし最終処分場の候補地探しは難航しています。
日本学術会議の大胆な提案
このような手詰まり状態の中で、日本学術会議は、9月、NUMO計画の抜本的な見直しを求める報告書を内閣府原子力委員会に提出しました。
報告書の要点は二つあります。第一は、地震や火山活動が活発な日本列島には、万年単位で安定した地層を見つけるのは、現在の科学的知識と技術能力では限界があると指摘しています。代案として、いつでも廃棄物を取り出せる施設を作り、数十〜数百年を目安に一時的に保管することを提言。その間に地層の安定性の研究や廃棄物の放射能を早く減らす技術開発に取り組むべきである、と指摘しています。
放射性廃棄物の総量規制が必要
第二は、放射性廃棄物の総量の上限を設定し、それ以上廃棄物が増えないように管理することが大切だと強調しています。福島原発事故以前には、行け行けどんどんで、原発の新増設を目指してきましたが、その過程で、使用済み核燃料は増える一方でした、これ以上、使用済み核燃料を増やし続けることは将来世代に危険なツケを大量に残すことになります。政府は日本学術会議の報告書を参考に、科学的知見に基づく安全な最終処分対策を早急に検討し、核のゴミの恐怖から国民を守るための取り組みに力を注ぐ必要があります。
2012年10月10日記