なぜ、日本人は意気消沈してしまったのか
先日、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)を出版しました。戦後70年近くが経ちますが、今の日本ほど国民全体が意気消沈している時代はありません。終戦直後の日本は、焼け野原が目立ち、極端なモノ不足で、食糧もままならない貧しい時代でしたが、戦争が終わったという安ど感から、国民の間には、心機一転頑張ろう、と明日への希望、熱気が満ち溢れていました。
東日本大震災と原発事故が追い打ち
今の日本は豊かな時代になったにもかかわらず、将来への夢が描けず、「失われた20年」といわれるほど低迷しています。巨額な財政赤字、深刻なデフレ経済、日本の実力を反映しない異常な円高、追い打ちをかけるように昨年3.11の東日本大震災とそれに伴う深刻な原発事故などの影響で、日本経済は身動きが取れないほど打ちひしがれ、疲弊しています。
日本は本当に復活できるのか?それは日本人次第です
本書の読者からは、「日本は本当に復活できるのか」、「最後のチャンスとあるがまだ間に合うのか」など様々な感想が寄せられています。
本書で私が強調したかったことは、「世の中を良くするのも、悪くするのも、結局私たち日本人のやる気にかかっている」ということです。日本人が清水の舞台から飛び下りる覚悟で、本気で日本再生に取り組むなら、日本は素晴らしい国としてよみがえることができるし、その覚悟が中途半端なら衰退の道を歩み続けることになるでしょう。それは私たち日本人次第だということです。
目指すは、「低炭素、資源循環、自然との共生を満たす社会」の構築
日本が衰退してしまったのは、高度成長時代の余韻に浸りきり、そこから飛び出す勇気を失ってしまったからです。1億人を超える日本人全体が変化恐怖症に陥り、現状維持を必死で守ろうとした結果です。今世界や日本に求められているものは、高度成長に代わって、「低炭素、資源循環、自然との共生を満たす新しい社会」の構築です。日本人がこの目標に挑戦し、成果を上げることができれば、グリーン成長を実現した国として世界に貢献できますし、日本人の自信も戻ってきます。
経済成長の駆動力を180度転換させる
それでは、グリーン成長を実現させるためにどのようなアプローチが必要でしょうか。そのためのキーポイントは、経済成長の駆動力を180度転換させることです。18世紀後半の産業革命から今日に至るまで約250年間、経済成長と化石燃料〈石炭、石油など〉との関係は、切っても切れないほど密接な関係(カップリング)を維持してきました。経済成長するためには大量に化石燃料を使わなくてはなりません。化石燃料が成長の駆動力でした。だが化石燃料を使えば、CO2排出量も増加してしまいます。
さらば、ハイカーボン・グロウス
石炭や石油などの化石燃料に支えられた経済成長のことを「ハイカーボン・グロウス」(高炭素型成長)と呼びます。ハイカーボン・グロウスは豊かな社会の実現に大きな貢献をしましたが、一方で深刻な環境破壊や地球温暖化、資源の枯渇化を引き起こし破綻しました。早急に「ハイカーボン・グロウス」から「ローカーボン・グロウス」(低炭素型成長)へ成長軌道を転換させなければなりません。
デカップリング経済のすすめ
そのためには、経済成長と化石燃料の密接な関係を引き離さなすことが必要です。両者の関係を引き離すことをデカップリングと言います。デカップリング経済は、化石燃料の消費を抑制するための設備投資やイノベーション、それに伴って発生する新規需要が駆動力になって経済成長を支える新しい発展パターンです。
具体的には、太陽や風力、バイオマスなど化石燃料に代わる新エネルギー、省エネルギー、節電分野に集中的に投資を行い、新たな需要を拡大させる。政府はイノベーションを誘発するための優遇税制や補助金、金融支援などを法律や制度面から積極的にバックアップをすることが必要です。
科学技術、観光、環境の3K立国の推進が必要
ローカーボン・グロウス社会を支えるため、本書では科学技術、観光、環境の3K立国を同時並行的に推進する戦略が必要だと提案しています。高度成長時代を支えた規格化された工業製品の大量生産分野は、低賃金を武器とする中国や東南アジア諸国の台頭で、競争に生き残ることが難しくなっています。これからの日本は、ICT(情報通信技術)や新素材、バイオテクノロジー。ナノテクノロジー、新エネルギー、省エネルギーなどの環境技術などの分野で磨きをかけ、科学技術立国を目指さなければなりません。観光立国が必要なのは、3.11大震災や原発事故で打撃を受けた東北地方を中心に、環境と防災、再生可能エネルギーの積極的な活用で革新的で持続可能な地域社会を日本列島の各地に構築し、世界中の観光客を呼び寄せる戦略が望ましいからです。環境立国は、資源循環社会を目指して、ストック(既存品)を有効に活用する社会の実現のため必要です。
グリーン成長こそ日本復活の条件
大震災でどん底を経験した私たちにはもはや失うものはありません。前に進むだけです。石油、石炭などの化石燃料、原子力に代わって、再生可能エネルギー、省エネルギー、節電、さらに防災と環境、再生可能エネルギーの自給自足を一体化した地域社会づくりにヒト、モノ、カネを集中的に投入し、それらが駆動力となって経済発展を目指するグリーン成長こそ日本復活の条件につながります。本書にはこんな願いを託しました。
2012年7月9日記