シェル―ガスで何ですか
最近、新聞やテレビのニュースで、シェールガスという言葉が盛んに登場するようになりました。シェールガスって一体何ですか、なぜ今、注目を集めているのですか。普通の天然ガスとどこが違うのですか。環境経済論の授業の中で、こんな質問が最近、多くの学生から寄せられています。
頁岩と呼ばれる岩盤層に含まれている天然ガスのことだよ
シェールガスとは、頁岩(けつがん=シェール)と呼ばれる固い岩盤層に含まれている天然ガスのことです。通常、天然ガスは油田地帯や炭田地帯で産出されるため、主要生産国もロシア、中東、さらにマレーシアやインドネシアなどの東南アジア地域などに偏在しています。これに対し、今、話題になっているシェールガスは、従来の生産地とは全く違う頁岩に含まれているため、新型天然ガスと呼ばれているわけです。
埋蔵量は、北米やアジアに集中
採掘可能な埋蔵量は北米やアジアに集中しています。かつては開発が難しいとされていましたが、水の圧力で地層にひび割れをつくって採掘する技術が開発され、採算コストが低下し性、商業ベースに乗るようになりました。2000年代に入ると、アメリカやカナダで商業生産が本格化し、10年にはアメリカの天然ガス生産量の23%を占めるに至っています。
シェールガス革命と呼ばれるようになった
これまで、欲しくても手に入らなかったシェールガスが大量に取り出せるようになり、利用価値が一気に高まったため、シェールガス革命と呼ばれています。
日本がシェールガスに大きな期待を寄せているのは、温暖化対策に有効だからです。昨年3月の福島原発事故の影響で、現在、稼働可能な原発50基が全部止まっています。そのため、昨年夏同様、今年の夏場も節電が必要ですが、それでも需要ピークを賄う供給量はやはり不足気味です。
化石燃料の中ではCO2排出量が少ないのが魅力
原発による電力不足を補うためには、当面、火力発電の供給量を増やさなければなりません。しかし石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を使えば、二酸化炭素(CO2)を大量に排出し、温暖化を加速させてしまいます。だが、同じ化石燃料でもCO2の排出量はかなり違います。たとえば、1kwh(キロワットアワー)の電気をつくるために排出されるCO2量は、石炭火力を100すると、石油は約80、天然ガスは約半分の50程度で済みます。だから、温暖化対策を考えれば、天然ガスを利用する方が望ましいわけです。
日本がシェールガスに期待する理由
天然ガスを日本に輸入する場合は、液体のLNG〈液化天然ガス〉に加工して運んできます。日本がシェールガスに注目するのは、LNGの輸入ルートを多様化させ、輸出国が競争するようになれば、これまでよりも安い価格で購入できるようになるからです。日本は今、マレーシアやインドネシアなどのアジア諸国、中東のカタールやアラブ首長国連邦などからLNGを輸入していますが、その価格はアメリカ国内で売買されているガス価格の5倍程度も高くなっています。アメリカから購入できれば、輸送費などが上乗せされても、今より安い価格で購入できるようになります。
福島原発以降、LNG依存が急上昇
福島原発事故後、原発の代わりの火力は、LNGに大きく依存しています。国内の総発電量に占めるLNG発電の割合は、昨年4月の38%から今年1月には47%に上昇しています。これに伴ってLNG使用量は、10年度約7千万トン、11年度8千万トン、12年度はさらに9千万トンに増える見込みです。シェールガスの量産によって、LNGの価格が下がれば、電気料金の値上げ抑制にもつながるかもしれません。シェールガス様様(さまさま)といったところです。
環境破壊や健康への悪影響が懸念
しかし、一方でシェールガスの開発については、環境や健康への悪影響も指摘されています。たとえば、井戸に水を流し、水の圧力で地層にひび割れをつくる「水圧破砕」技術。地下2〜3千メートルにある頁岩にひび割れ、亀裂を走らせるために使う水には、地層を溶かしたり井戸の摩擦を減らしたりする化学物質が添加されています。水圧破砕で使われる化学物質の中には健康に有害な物質が含まれています。それが地下水に流れ込み、飲料水を汚染する心配があります。事実、米環境保護局(EPA)は、ワイオミング州の飲料水から有害化学物質が検出されたことについて、「水圧破砕が地下水の汚染に関連している」という報告書を出しています。
地震多発の原因説も浮上
オハイオ州では、「シェールオイルの井戸周辺で地震が多発している」として、州内にある5つの井戸の操業を停止させた、というニュースも伝えられています。イギリスでは、イングランド北東部のランカシャー沿岸で今年4月と5月に起きた地震は、「水圧破砕技術によるシェールガス採掘が原因で起きた可能性が高い」との調査結果が発表されています。新型天然ガスとして期待されるシェールガスですが、光の部分だけにスポットライトを当てるのではなく、環境や健康に悪影響を与える影の部分にもしっかりメスを入れたバランスのとれた開発が望まれます。
2012年6月16日記