原発全廃に踏み切るドイツ
ドイツ政府は、昨年3月、福島原発事故が引き起こした大惨事を深刻に受け止め、2022年までに17基ある同国の原子力発電を全廃する方針を決めました。福島原発事故が発生した直後に安全に不安のある8基の稼働を停止し、検査中の原発を合わせるとすでに13基が運転停止、現在稼働している原発は4基に過ぎません。
世界に先駆けて固定価格買取制度を導入
脱原発と温暖化対策に熱心なドイツは、化石燃料に変わる代替エネルギーとして再生可能エネルギーの風力発電、太陽光発電、バイオマス発電などの普及に力を入れてきました。そのため、再生可能エネルギーで発電した電気を発電コストよりも割高な価格で一定期間購入する固定価格買取制度を世界に先駆け、2000年に導入しました。その結果、再生可能エネルギーの普及が急速に進みました。日本も遅ればせながら、7月から固定価格買取制度をスタートさせます。
再生可能エネルギーの約7割はバイオマス
ドイツの再生可能エネルギーの供給は、11年現在、全エネルギー供給の12.2%を占めています。政府はこの割合を20年には20%、50年には50%まで引き上げる野心的な目標に掲げています。ドイツ政府が、再生可能エネルギーの中で、最も期待しているのがバイオマスです。先ほどの11年現在の比較では、バイオマスの割合は8.2%で、再生可能エネルギーの約67%を占めています。
地場のエネルギーとして豊富に存在
バイオマスは農村地域に豊富に存在している地場のエネルギー源です。ドイツは工業国と思われがちですが、実は国土面積の47%を農地が占めるEU有数の農業大国です。農業生産額はフランスに次ぐEU第2位で、EU全体の13%を生産しています。
バイオマスの種類としては、ムギワラ、腐葉土、肥料、食品残滓、間伐材、家畜の糞尿、下水汚泥など多岐にわたっています。
二つの国立大学が共同研究
この地域資源であるバイオマスを活用して、農村地域が必要とするエネルギーを100%賄うための研究が、二つの国立大学(ゲッティンゲン大学とカッセル大学)の共同研究として、2000年にスタートしました。この研究のリーダー、ゲッティンゲン大学教授のマリアンネ・カーペンシュタイン・マッハン女史が先日、来日した機会に話を聞く機会がありました。
05年にバイオエネルギー村1号誕生、すでに68の村が転換
彼女の話によると、バイオエネルギー村の第1号は、05年に完成。現在ドイツ国内には68のバイオエネルギー村が誕生し、さらに30の村が建設中か計画中だということでした。エネルギーの地産地消として、ドイツで急速な広がりを見せていることが分かります。
バイオエネルギー村創設の目的は?
バイオエネルギー村創設の目的として、共同研究は@バイオマスを利用したエネルギーの自給、A農村での雇用促進、B農業者の副収入源確保、C環境に配慮した資源の生産方法、技術の開発、D地域のアイデンティティの確立などを掲げています。
公募で候補地を募集、17の村が応募
約2年間の研究成果を踏まえ、プロジェクトを実施するため03年に候補地の公募を行い、大学周辺の17の村が応募しました。この中から4つの村が第2次選考をパスし、さらに住民の熱意、農業者の意欲などを考慮し、ユーンデ村が選ばれました。
ユーンデ村の人口は約760人
ユーンデ村は、ドイツのほぼ中央に位置するニーダーザクセン州にあります。
人口約750人の小さな村で、日本でいえば、村の中にある一つの集落といった位置付けです。農家数は10戸(酪農8戸、養豚2戸)、農地面積1,300ヘクタール、森林面積800ヘクタール、村民の多くは近くの都市、ゲッティンゲンに通勤しており、農家と非農家が混住しています。
発電所など三つの施設を設立
ユーンデ村では、バイオエネルギー村として三つの施設を設けています。中核になる施設が、バイオガスを活用した発電所(コジェネレーション=熱電併用システム)です。コジェネレーションは、発電の際の排熱を熱エネルギーとして回収し、有効に活用する仕組みで、冬が長く熱需要が大きい北欧ヨーロッパではコジェネレーションの導入が早くから進んでいました。その技術を利用しています。発電出力は680kw、エネルギー源は家畜糞尿やエネルギー作物をバイオガスに転換させています。
地域暖房施設や送水管の敷設も
二つめの施設が、地域暖房施設です。冬場を除けば、ユーンデ村が必要とする電気と熱エネルギーは発電所でほぼ賄うことができますが、寒さが厳しい冬には、暖房用熱需要が大きく増加します。地域暖房施設は主として木材チップを燃料として利用します。三つ目の施設が、発電所や地域暖房施設から各家庭にお湯を運ぶための長さ5.5kmの送水(湯)管の敷設です。
施設費は約400万ユーロ(約4億2000万円)
三つの施設の建設費約は約400万ユーロ(約4億2000万円)。このうち、3割は国の補助金で賄えますが、残りの300ユーロは、村や住民の負担になります。
これだけの負担を覚悟で、ユーンデ村は、バイオエネルギー村の建設に踏み切ったわけですが、「脱化石燃料、脱原発の試みということで、住民意識は高まり、結束も強まっている。エネルギー代も、中長期にみれば、割安になる、課題もたくさんあるが、地域の連帯感が強まっており、新しい実験の始まりとして評価できるのではないか」とマッハン教授は、控えめなコメントしてくれました。
大震災で被災した農村復興に参考になりそうだ
大震災で東北の多くの農村が被災しました。被災した農村の復興は、元の姿に復元させるだけでは、夢がありません。被災した農村が低炭素、脱原発を基調とした新しい村起こしの先頭に立ってほしい。そのためには地元に豊富にあるバイオマスエネルギーの積極的な活用が不可欠です。ドイツのバイオエネルギー村づくりの実験は、日本にも参考になるのではないでしょうか。
2012年5月12日記