紙の本を電子端末で読む書籍が流行
皆さんは、電子書籍という言葉を最近よく耳にしませんか。一般的には紙の本を専用の電子端末で読めるようにしたものを総称して、電子書籍と言っています。数冊の紙の本を持ち歩くと、結構かさばるし、重くもなります。その点、電子端末には、何百冊、何千冊分もの紙の本を収容できるので、持ち運びが楽だし、満員の電車の中でも簡単に自分の読みたい本を呼び出して読むことができるので便利です。紙の本を電子端末に移し替える作業は簡単でコストも安いので、多くの出版社は紙の本を出版すると同時に、電子端末で読める電子書籍の販売に乗り出しています。しかし文字柄や挿絵などは紙の本と全く同じものなので、電子端末で読んでも紙の本と比べそれほど違いが感じられません。
同僚教授の協力を得て、日本最初の多機能型の電子書籍に挑戦する
今回私が挑戦したのは、紙の本を電子書籍化したものではなく、パソコンで書いた原稿を直接電子端末に入力して作成した多機能型の電子書籍(日本語版)です。このタイプの電子書籍は、外国ではかなり普及しているようですが、日本では最初(第1号)ではないかと思っています。紙の本をコピーしただけの電子書籍とは異なり、電子端末の長所をフルに活用できます。文字書体の選択、多色表示、クリックひとつで挿絵を大きく見ることができるし、用語解説も読めます。必要なwebページへ飛ぶこともできます。まさに多機能型の電子書籍です。何社かの出版社に多機能電子書籍の出版企画を持ち込みましたが、経験がない、情報技術に精通した人材がいないなどの理由でうまくいきませんでした。結局、私の所属する大学の情報担当の大矢野潤教授に相談し、彼の力を借りてようやく、完成させることができました。
物語を読んで環境問題の基礎知識を学んでほしかった
本書は、炭素の化身である炭素姫と偶然出会った5人の登場人物が、炭素姫の願いをかなえるためそれぞれができる温暖化対策を話し合い、具体的な行動を考えるというストーリーです。温暖化の原因である二酸化炭素(CO2)は悪者扱いされていますが、実は人間社会にとってCO2はなくてはならない物質です。CO2の薄い膜が地球表面を覆っていなければ、地球は冷え切って人間が住めなくなってしまいます。植物が光合成によって大気中のCO2を吸収し、人間が生きていくための食糧や果実などの有機物を作っています。CO2がなければ、人間は生きていけません。適量のCO2が、地球を循環している時代には、人間とCO2の関係は良好でした。問題は、過度に化石燃料に依存し、炭素の自然な循環を損ね、大量のCO2を排出し続けていることにあります。CO2は悪者ではなく、自然のルールを壊して、大量にCO2を排出し続けている現代社会のあり様にこそ問題があるわけです。環境問題を学ぶ高校生や大学生が気楽にこの物語を読んで、環境、特に地球温暖化問題の基礎知識を身に付けてほしいと願って書き上げたのが本書です。挿絵は、私が勤務する大学の女子学生に描いてもらいました。環境問題を学ぶ最初のテキストとして読んでもらえれば、幸いです。
カラフル,あんず文字、挿絵など魅力たっぷりの電子書籍に仕上がった
完成した多機能電子書籍、「炭素姫を救うのは誰か」を見ると、とても新鮮な感じがしました。まず、紙の本では小説や物語は縦書きで読むのが普通ですが、今回は思い切って横書きにしました。画面全体がカラフルで明るい感じがします。炭素姫など登場人物の挿絵はダブルクリックすると大きく表示され、多色表示の効果が100%発揮されます。書体は、あんず文字を使っています。手書きに近い字体です。何人かの学生に見てもらいましたが、若者向きで親しみが持てると好評でした。物語の中に出てくる専門用語は、クリックすると用語解説が出てきます。関連するwebページに飛ぶこともできます。付録として、ユーチューブの動画を付けておきました。音声を交えて動画が楽しめます。多機能電子書籍の特徴がフルに発揮されています。
炭素姫との偶然の出会いから登場人物が温暖化対策に知恵を絞る物語
本書は炭素姫との偶然の出会いから5人の登場人物が、炭素姫の願いを受け入れて、それぞれの立場から温暖化対策への取り組みを考えるというストーリーです。プロローグは炭素姫との偶然の出会い、1章から7章までは5人の登場人物が温暖化対策についてそれぞれの立場からのアプローチ、最後のエピローグは、プリンセスカーボン国の建国宣言で構成されており、普通の新書程度のボリュームになっています。地球環境、温暖化問題に関心のある高校生や大学生、小中高大の環境担当の教師の皆さん、さらに子供を持つお母さん、お父さんたちにも基礎テキストとして読んでいただきたいと思っています。物語を読みながら地球環境、温暖化問題の基礎知識が自然に身に付くように工夫しました。
無料で公開、ダウンロードできる準備をしています
多くの人に読んでもらえるように、本書は無料公開し、電子書籍用の電子端末にダウンロードできるように、ホームページの立ち上げの準備をしています。ダウンロードできる体制を整えるまでには、多少の準備と時間が必要です。その前に本書に興味をお持ちの皆さんには、パソコンで見られるように、近く短期連載をしますのでご覧ください。具体的には、プロローグからエピローグまで、各章を毎週1回のペースで連載します。連載が終わった頃には、全体を電子端末にダウンロードして、電子書籍として読めるように体制を整えたいと思っています。パソコン画面で見るのと電子書籍で見るのとの違いを感じていただければ幸いです。
初版の欠点、未完成な部分は、今後改善する予定です
本書は、初めての試みだけに、初版を読み直してみると不十分な部分が多々あります。たとえば、用語解説です。本書の用語解説は、数年前に文部科学省の補助金で作成、出版した「サステナビリティ辞典」(三橋規宏編著、海象社)を使っていますが、辞典に出ていな用語については、まだ解説を書いていません。既存の解説も古くなり、修正が必要な用語もあります。本書を読んだ学生や知人からは、挿絵をもっと多く取り入れてほしい、との要望がありましたが、初版では対応できていません。また、webページに飛んだ後、元のページに戻るステップをもっと簡単にする必要があります。折角の多機能電子書籍なので、バック・グラウンド・ミュージックをところどころに入れたらどうか、という提案もありました。この他、誤字、脱字、文字の打ち間違いなどパソコン入力段階でのケアレス・ミスがまだあるかもしれません。
また、本書をお読みいただいた読者の方からも、様々なアイデア、提案があると思います。積極的にお寄せください。
多機能電子書籍の良さは、簡単に修正や改良点を加えることができることです。版を重ねることで、完成度を高めていきたいと思っています。
4月9日から、ウェブサイトで先行リリースいたします。
多機能電子書籍「炭素姫を救うのは誰か」
2012年4月8日記