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放射能汚染と生きていく時代

ややこしい言葉の理解が第一歩

日本は、東京電力福島第一原発事故で発生した放射能汚染という忌まわしい問題と今後かなり長い期間付き合っていかざるをえません。「原発安全神話」で洗脳されてしまった私たちは、放射能汚染など起こらないと信じ切っていたため、放射能汚染に対する知識をほとんど持ち合わせていませんでした。しかし、これからかなり長い期間、この問題と付き合っていかなくてはなりません。そのためには、いくつかのややこしい基本用語を理解することから始めなくてはなりません。

放射能とは、放射線を出す能力のこと

放射性物質とは、放射線を出す物質のことで、放射能とは放射線を出す能力のことです。放射能は時間が経つに連れてその能力が低下します。能力が半分になるまでの期間を「半減期」と呼んでいます。今度の事故で大量に放出されたヨウ素131の半減期は約8日、セシウム137は約30年です。特に食品に含まれる放射性セシウムは、被ばく量が多くなると人体に様々な悪影響を与えます。半減期が30年と長いので、被ばくによる健康への影響も長期にわたるため、万全の対策と注意が必要です。

放射性セシウムの食品新基準4月1日からスタート

厚生労働省は、4月1日から食品中に含まれる放射性セシウムの新基準をスタートさせます。昨年3月に策定、実施した暫定基準は甘過ぎて、健康対策として信用できないとの苦情、批判が続出しました。新基準は、それに応えて策定されたもので、暫定基準の4分の1から20分の1に数値を引き下げるなど厳しく設定しました。これでようやく、チェルノブイリ原発事故後、ウクライナ政府が過去の経験を生かして97年に定めた基準値に近い数値になりましたが、「遅きに失した」の感は否めません。もし1年前にウクライナ基準を参考に厳しい基準値を定めていれば、国民の食品に対する不安や警戒感はこれほど大きくならないで済んだのではないでしょうか。

年、1ミリシーベルトに設定

食品の放射能汚染を理解するためにもうひとつの厄介な用語は、ベクレル、シーベルトといった聞きなれない単位です。ベクレルは放射能の強さを示す単位、シーベルトは放射能による人体への影響を表す単位です。

新基準では、放射性セシウムの年間許容被ばく線量を1ミリシーベルト(暫定基準では5ミリシ−ベルト)に設定しました。設定に当たっては、まずすべての人が摂取し、代替が難しい飲料水について、世界保健機構(WHO)の水道水の基準値に合わせて10ベクレル(1キロ当たり、暫定基準値は200ベクレル)にしました。

10ベクレルの水を1日2リットル、1年間飲み続けると、被ばく線量は0.1ミリシーベルトになります。許容線量の1ミリシーベルトから飲料水の0.1ミリシーベルトを除いた0.9ミリシーベルトを一般食品に割り振るという方法で一般食品の許容できるベクレルを決めました。

一般食品は100ミリベクレル

その結果、野菜や穀類、肉、魚、卵などの一般食品は100ベクレル(暫定基準値500ベクレル)、子どもが多く飲む牛乳や乳児用食品は50ベクレル(同200ベクレル)などとなっています。一方、一部食品は混乱を避けるため、経過措置がとられています。コメは、9月末まで暫定値を適応、新基準は12年産のコメが出始める10月1日から適用します。牛乳も10月1日から、大豆は来年1月1日から適用されます。経過措置とはいえ、コメや牛肉、大豆などは暫定基準のものを消費者は購入するでしょうか。

内部被ばくでDNAが破壊される危険性

ところで、被ばくについては、外部被ばくと内部被ばくがあります。体の外側にある肌などの被ばくが外部被ばく、食品や吸い込みなどによって放射性物質が体内に取り込まれて被ばくするケースが、内部被ばくです。もちろん内部被ばくの影響の方が深刻です。

体内に取り込まれた放射性ヨウ素やセシウムが遺伝子の近くに滞留すると、遺伝子(DNA)を破壊します。生物は進化の過程で壊れた遺伝子を修復させる優れた機能を備えています。しかし大量の被ばくをうけると、修正にミスが生じます。これが突然変異です。ミスが修正されずに遺伝子が増えていくと、ガンなどの様々な病気の原因になります。

細胞分裂の盛んな赤ちゃんや子供への影響は大きい

分裂の盛んな細胞を多く持つ赤ちゃんや子供が被ばくすると、傷ついた遺伝子を持つ細胞がどんどん増えるため、その影響は大人と比べ非常に大きくなります。チェルノブイリの原発事故で放射能をあびた子どもたちの甲状腺がんの発症率を14歳以下と15〜18歳で比較すると、14歳以下の子供の発症率が圧倒的に高くなっています。甲状腺がんの発生は、被爆から数年の歳月がかかっていますので、福島で被ばくした子供たちが心配です。

また、被ばくによる病気ですが、日本では、ガンや白血病ばかりが強調されていますが、被ばくによる病気はもっと多方面に及びます。チェルノブイリのケースでは、ガンや白血病は全体の1割程度で、心臓病が最も多く、脳障害、血管系障害、免疫力の低下など様々な病気が発生しているそうです。

政府に万全の対策を期待する

私たち日本人は、これからかなり長い間、放射能汚染と付き合っていかなければなりません。内部被ばくによる病気も多岐にわたると思います。「ガン、白血病以外は放射線被ばくによる病気ではない」などと簡単に結論を出すべきでありません。チェルノブイリの症例などを参考にして、放射能汚染が健康に与える直接、間接の影響、様々な病気の因果関係などを総合的に調査、研究し、政府は国民の健康維持のために最善の努力をしてもらいたいものです。

2012年3月7日記

 
 
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