13年以降の国際的な枠組みは、暗礁に乗り上げる
13年以降の温室効果ガス(GHG)削減の国際的な枠組みづくりについては、この数年、真剣に議論されてきましたが、各国の利害が激しく対立し、暗礁に乗り上げたままです。制約を伴う国際条約不在で、各国の自主規制に任せざるを得ない状態が10年近く続けば、温暖化が加速してしまう恐れが強まります。
COP17では20年に新しい削減の枠組み発効で合意したが・・・
昨年11月下旬から12月中旬まで南アフリカのダーバンで開かれたCOP17(気候変動枠組み条約第17回締約国会議)では、新たな枠組みを15年までに採択し、20年にはアメリカや中国を含めた主要排出国が参加する新しい枠組みを発効させることで合意して閉幕しました。この間、EUは、13年以降も京都議定書を延長させることになりました。しかし世界全体の排出量の15%程度を占めるに過ぎないEUが、13年以降の排出削減を決めても、世界のGHGの排出削減に与える影響は微々たるものです。
空白の10年代に危機感高まる
この結果、少なくとも13年から20年までは、EU以外の国のGHG排出抑制のための国際的な制約がなくなります。いわば、法的強制力不在の「空白の10年代」に突入するわけです。この間、中国やインド、さらに経済が発展期にある他のアジア諸国、ブラジルなどのGHG排出量は増加し、温暖化がさらに高まる可能性があります。
国連の下部組織で、気候変動と温暖化との関係を専門に調査・研究・分析しているIPCC(気候変動に関する政府間パネル)によると、気候変動を安定させるためには、50年までに世界のGHG排出量を現在より半減させる必要があります。世界のGHG排出量は毎年増え続けており、09年現在、CO2換算で約290億トンに達しています。この増勢をできるだけ早い段階でピークアウト(頭打ち)させ、その後減少に転じさせなければなりません。そのために、先進国は20年までに「90年比25〜40%削減することが必要」とIPCCは指摘しています。
このように、10年代は、世界の温暖化対策の節目になるきわめて重要な時期に当たるわけですが、その肝心な時期に排出抑制のための国際条約不在という困った状態に陥ってしまいました。
中国はアメリカを抜き、世界トップの排出国へ
GHG削減のための国際的な枠組みづくりに失敗した理由として、各国の利害、とりわけ先進工業国と途上国との厳しい対立が指摘できます。90年の世界のCO2排出量は、アメリカがトップで全体の23%を占めていました。排出量の半分以上は日米EUなどの先進工業国が占めていました。だが20年後の09年になると状況は大きく違ってきます。経済発展が著しい中国の排出量が世界全体の24%を占めトップに躍り出ています。インドも世界の排出量シェアを3%から5%へ増加させています。一方、アメリカは18%までシェアを低下させています。
このため、09年には、途上国の排出量が先進工業国をわずかに上回りました。20年には途上国の排出量シェアがさらに60%近くに達し、先進工業国を大きく上回ると多くの専門家は予測しています。
このような変化を踏まえると、世界のGHGの排出抑制のためには、大量排出国の中国やアメリカ、インドなどが参加する国際的な枠組みが必要になります。しかしアメリカは、新しい枠組みには、中国やインドなどの大量排出国が入ることを条件にしています。中国やインドは、温暖化の原因をつくったのは先進工業国なので、13年以降も先進工業国だけが削減義務を負う京都議定書を延長させるべきだ、との基本姿勢を貫いています。
日本は13年以降の京都議定書には不参加
日本の立場は、京都議定書の削減義務国の排出シェアが26%まで落ち込んでしまった現状を踏まえれば、アメリカや中国などの大量排出国が加わらない京都議定書には限界があるとして、13年以降の京都議定書の延長には、参加しないとの決定をしています。
一方カナダは昨年末に批准国として初めて、京都議定書脱却を表明し、現行の削減義務も放棄しました。ロシアも13年以降の延長には加わりません。
諦めずにCOPの場で対立の溝を埋める努力を
13年以降のGHG削減のための国際的枠組みづくりの話し合いは、09年のCOP15(コペンハーゲン)、10年のCOP16(メキシコ・カンクン)、そして昨年のCOP17と3年連続で、真剣に討議してきたが、結局、各国の考え方、思惑が激しく対立し、一本化できずに終わってしまいました。ただCOPは毎年開かれます。次回のCOP18は今年末に中東、カタールのドーハで開かれます。COPの場を通して、一刻も早く対立の溝を埋め、削減のための国際的な枠組みで合意ができることを期待したいものです。
各国の自主的取り組みに期待するほかない
それまでは、主要排出国は、09年のCOP15の後、国連に提出したGHGの削減目標をそれぞれの国の責任で自発的に取り組むことに期待するほかありません。
各国が掲げた排出目標のうち、中国とインドは排出量原単位の改善を掲げています。排出量原単位とは、GDP1単位を生産するために排出されるGHG排出量のことです。中国では排出量原単位を05年比で40〜45%削減、インドは同20〜25%削減するという内容です。これまで排出削減の義務化に強く反対していた中国、インドが排出量原単位の削減の形にせよ、GHGの排出削減に大きく踏み出してきたことは評価できます。空白の10年代、両国が原単位の改善に地道に取り組み成果をあげることができれば、ダーバンで合意された主要排出国を網羅した新しい削減のための国際的枠組みを20年に発足させることも現実味を帯びてきます。
原発依存の温暖化対策は破綻した
空白の10年代、日本は何をすべきでしょうか。日本は09年9月に民主党政権が発足した時に、温暖化対策について、20年までに「GHGの排出量を90年比25%削減する」という目標を公約として発表しました。この公約は、現在も生きています。日本は25%削減のための切り札として、原発依存を高める方針を決めていました。30年までに原発を14基新設し、電力供給に占める原発のシェアを50%以上〈現状は約30%〉に増やす計画を立てていましたが、昨年3月の原発事故で、この計画は白紙に戻ってしまいました。
日本は、25%削減に最大限の努力を
10年代の日本は化石燃料もダメ、原発もダメという厳しいエネルギー制約の中で、20年にGHG25%削減目標に挑戦しなければなりません。これはピンチに見えるかもしれませんが、実はまたとないチャンスでもあります。太陽光や風力発電、蓄電池、ヒートポンプ、電気自動車などの分野でブレークスルーにつながるイノベーションを誘発する絶好のチャンスです。また昨夏経験した節電革命を引き金にしてスマートグリッドの敷設などによる分散型エネルギーの有効利用にも道が開けてくるでしょう。10年代を日本再生のチャンスに結び付けるためにも、25%削減に最大限の努力が必要です。
2012年2月9日記