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京都議定書の約束、6%削減をクリアできますか

今年が約束期間の最終年

 今年は温室効果ガス(GHG=グリーンハウスガス)の排出削減目標を定めた京都議定書の約束期間の最終年にあたります。日本は今年末までにGHGの排出量を90年比6%削減する約束を果たすことができるでしょうか。深刻な原発事故で、頼みとしてきた原発の電力供給は大幅に減少します。その分、火力発電で補えば、CO2の排出量が増えてしまいます。原発事故前までは、「目標達成は十分可能」と見ていた環境省も、今年のエネルギー使用状況が読み切れず、目標達成が可能かどうかは微妙な情勢でやきもきしています。

COP3で京都議定書の枠組み決定

 地球温暖化による気候変動の脅威を防ぐため、国連加盟のほとんどの国の代表が、97年12月、京都に集まって、温暖化防止のための国際会議(COP3=気候変動枠組み条約第3回締約国会議)を開きました。この会議で、温暖化の原因は、先進工業国が石炭や石油などの化石燃料を大量に消費して経済を発展させ、大量のCO2などのGHGを排出させたことが主因であることが確認されました。
 このため、先進工業国が責任をとる形で、まずGHGの排出削減に取り組むことになりました。具体的には、先進工業国のうち、EU(欧州連合)、米国、日本は、90年を基準にして、GHGの排出量をそれぞれ、8%、7%、6%削減することで合意しました。この目標数値は、08年から12年までの5年間の平均値にするというルールも決めました。
 この内容を盛り込んだ条約が京都議定書です。

アメリカは京都議定書を離脱

 この時の米国は温暖化対策に積極的な民主党のクリントン大統領でした。しかし2000年11月の大統領選で、温暖化対策に消極的な共和党のブッシュ大統領が就任すると、翌年の01年3月に「温暖化対策よりも景気対策の方が大切だ」として、米国は京都議定書から離脱してしまいました。このため、京都議定書は、日本とEUなどのヨーロッパ諸国が中心になって進めることになりました。京都議定書は05年2月に発効し、日本の6%削減は国際条約上の正式な義務になりました。

京都議定書目標達成計画の作成

 日本は、COP3が開かれた翌年の98年に地球温暖化対策推進法を制定しました。この法律は、京都議定書が発効した場合には、直ちに京都議定書目標達成計画を作成し、実行することを定めています。日本は、目標達成計画に従って、GHGの削減に取り組みましたが、中々効果が上がりませんでした。
 たとえば、約束期間の1年前の07年度のGNHの排出量は基準年比8.7%も増加してしまいました。6%削減のためには、7年度比14.7%も削減しなければなりません。これは大変なことで、政府は頭を抱えてしまいました。

リーマンショック不況で、GHGの排出量が大幅減少

 ところが、約束期間に入った08年に予期しなかった出来事が起こりました。リーマンショックの発生です。リーマンショックが引き金になった世界同時不況の影響で、08年度の日本の経済成長率はマイナス4.1%に落ち込んでしまいました。 日本のGHGの排出量は、経済成長率が高くなると、それを上回るスピードで、増加します。逆に成長率がマイナスになると、それ以上のスピードで,GHGは減少します。
 08年度のGHGは、経済成長率がマイナスになった結果、基準年比1.5%増まで減少しました。09年度の成長率もマイナスだったため、GHGの排出量は、基準年比マイナス4.2%まで減少しました。マイナス6%削減まであと一歩のところまできました。
 10年度は経済成長率がプラスに転じたため、GHG排出量も増加しましたが、基準年比ではマイナス0.4%でした。このため、約束期間前半の08〜10年の3カ年は、森林吸収分と京都メカニズムの活用で、6%削減をクリアしました。

11年度は節電効果に期待

 残る11年、12年度の排出量がどの程度になるかで、6%削減の約束が達成できるかどうかが決まります。このうち、11年度は、原発事故の影響で、経済成長率はマイナスに落ち込む見通しです。これまでの経験では、マイナス成長になれば、GHGはそれ以上にマイナスになるはずですが、今回は事情が違います。
 原発事故で、原発の電力供給が大幅に減少してしまいました。不足分を石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料で補うことは可能ですが、そうすれば、CO2の排出量は大幅に増えてしまいます。そこで、政府は、電力需要の抑制に踏み切りました。年間で最も需要が増える夏場の電力需要を抑制するために、政府は電力使用制限令〈電気事業法27条〉を発動しました。東京電力および東北電力管内の事業所および一般家庭に電力使用量を前年夏比15%削減するように要請しました。この結果、昨年7,8月の2カ月間の電力消費は、前年夏比、土日を除くウイークデーで、2割以上節電することに成功しました。
 11年度は火力発電の利用を増やしましたが、節電効果も大きかったため、全体としてGHGの排出量はそれほど増加しなかったと思われます。

今年も昨年並みの節電が実施されれば、なんとかなるかも

 従って、最終年の今年が勝負の年になります。昨年夏並みに、15%程度の節電が可能ならば、京都メカニズム(外国からの購入分)と森林吸収分を合わせて、なんとか公約の6%削減を達成できるのではないかと思います。

2012年1月6日記

 
 
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