プロフィール
出版・刊行物
B-LIFE21
- 環境コラム
環境樹について
 
 

菜の花で放射性物質の浄化に挑戦

菜の花プロジェクトの藤井代表、チェルノブイリ訪問

 先日、菜の花プロジェクトネットワーク代表の藤井絢子さんからメールを頂きました。放射能で土壌が汚染されたロシア・チェルノブイリを視察してきたという報告でした。同地では、菜の花を使った土壌の浄化に取り組んでいます。その成果や問題点などを踏まえ、福島原発事故で汚染された飯舘村などの土地の浄化・再生に貢献できないか、というのが、藤井さんのチェルノブイリ訪問の動機でした。

菜の花で、自立型の地域循環型社会づくりに取り組む

 滋賀県・環境生協の理事長を務めた藤井さんは、生活排水などで汚染された琵琶湖の浄化運動に長年取り組んできましたが、その運動の一環として、菜の花プロジェクトを全国展開してきました。春は満開の菜の花畑で観光客を引き寄せ、花が終わった後は、菜種を刈り取り、菜種油を採取する。菜種油は学校給食用や地元住民に分配します。使い終わった廃食油は加工して、植物燃料(バイオディーゼル)にして、琵琶湖の漁船や遊覧船、自治体の公用車、農業用のトラクターなどに活用します。藤井さんたちは、菜の花を通して、地域自立型の循環型社会づくりを目指しています。2010年現在、全国47都道府県で、約160の地域・団体が菜の花プロジェクトに参加しています。

菜の花栽培で放射性セシウムを吸収できるかも・・

 藤井さんは、今度の深刻な原発事故で汚染された地域の土壌を浄化させる方法はないものかあれこれ情報を集めていたところ、菜の花やヒマワリなどが、汚染物質を吸収・固定化させる性格をもっていることを知りました。しかもチェルノブイリではそのための実験が行われているという耳寄りな情報も舞い込んできました。そこで早速現地に飛び、自分の目で確認してきたとのことです。植物は生長のために土壌中のカリウムを吸収しますが、菜の花やヒマワリは植物の中でもカリウムの吸収量が多いことで知られています。カリウムと放射性物質のセシウムとは化学的性格が似ているため、菜の花がカリウムと間違えてセシウムを吸収してしまうようです。

小麦に含まれる放射性物質が半減

 チェルノブイリでは菜の花の特性を利用して、日本のNPO法人「チェルノブイリ救援・中部」(名古屋)が地元の大学と連携して、浄化実験に取り組んでいます。
 まだ、実験段階で、正確な分析結果は出ていませんが、一部に期待できる内容も確認されています。菜の花は、小麦などと同様に同じ土壌で毎年栽培すると、「連作障害」が起きます。そこで最初の年に菜の花を植え、翌年に小麦を植えるなど栽培する植物を変える必要があります。チェルノブイリ救援・中部や地元大学の共同実験によると、菜の花を植えた後の土壌に小麦を栽培したところ、収穫した小麦に含まれる放射性物質の量は、何もしていない場合の半分程度に抑えられるそうです。菜の花が放射性物質をかなり吸収したことを裏付ける有力な証拠と言えそうです。さらに、ここで獲れた菜種でバイオ燃料を作りましたが、放射性物質は検出されませんでした。

茎や葉、菜種の搾りかすに残る放射性物質の処理に難問

 一方、問題もあります。菜の花が吸収した放射性セシウムは、茎や葉、菜種の搾りかすに残留しており、最終的にこれらの処理をどうするか、という厄介な問題があります。また、菜の花が放射性物質を吸収する場合でも、土壌の違いや放射性物質が表土に近い部分にあるのか、深いところにあるのかなどで、吸収力にかなりの違いがあるはずですが、その点についても科学的な解明が必要です。このように、菜の花で放射性物質を吸収・浄化し、土壌を再生させるためには、まだ不確実な部分が少なくありませんが、全体的に見れば菜の花が、一定の浄化効果を持っていることは確かなようです。

農水省も浄化効果の検証に乗り出す

 農水省も大きな関心を寄せています。放射性物質に汚染された農地や牧草地の土壌改良に菜の花やヒマワリが役立つならこんな有難い話はありません。
 同省では、今度の原発事故で汚染された福島県・飯舘村などの計画的避難区域で、地元自治体や文部科学省と連携し、実際に菜の花やヒマワリを栽培し、浄化効果を検証する方針を打ち出しました。

菜の花プロジェクトの挑戦に期待

 藤井さんの菜の花プロジェクトも、農水省などとの連携を強め、必要な情報を集めながら、この秋には汚染地域の一部の土地を借り、実験的に菜種栽培に取り組む予定だそうです。学者や専門家の協力を得て、菜の花がどの程度放射性セシウムを吸収するかなどの実証的分析をし、好ましい結果が得られれば、汚染地域全域に菜の花畑を広げ、農地の再生に貢献したいと夢を語っています。成功を期待します。

2011年6月12日記

 
 
    TOP


 
 
©2000-2011 zeroemission Inc, tadahiro mitsuhashi