とめどもなく広がり続ける被害
東京電力福島原発事故の被害がとめどもなく広がっています。大気、土壌、海洋への放射性物質の大量放出にはまだ歯止めがかかっていません。放射能汚染を受けた原発立地周辺の住民は住み慣れた土地を追われ、事実上の強制避難を余儀なくされています。事故が人々の健康や精神に与える影響、さらに農業や漁業への打撃、風評による被害などを合わせると、今度の事故の被害総額は10兆円を大きく上回ると見られています。戦後、政府は「原発は安全」と言い続け、日本のエネルギー政策の中心に原子力を位置付けてきましたが、今度の事故で、原発の安全神話は、木っ端みじんに砕かれてしまったと言っていいでしょう。
第二、第三の事故発生の可能性もある
今度の深刻な原発事故で明らかになったことは、原発の安全神話など存在しないこと、一度(ひとたび)事故が起こると、その被害は甚大で、とても一企業では手に負えないこと、86年に起こったチェルノブイリの原発事故からも明らかなように、汚染された土地の現状回復には何10年という長い歳月がかかることなどあまりに犠牲が大き過ぎることです。地震国日本で、これまで通り原子力依存のエネルギー政策を続ければ、第二、第三の深刻な原発事故が発生することは避けられそうもありません。
今度の教訓を生かして、「さらに安全な原発を」は、いまや説得力がない
これに対し、原発推進派は主張するでしょう。火力発電は大量のCO2を排出するし、期待される太陽光発電などの新エネルギーは規模が小さい。なんだかだと言ってみても、原子力に依存しない限り、国民生活や産業が必要とする電力は供給できない。「大丈夫! 原発の安全度は極めて高い。たまたま想定外の大津波という天災に襲われたため大事故になったが、今度の教訓を生かして対策をとれば、二度と深刻な事故は起こらない、防げる」と。しかし、推進派の主張はいまや完全に説得力を失っているように思う。自然の猛威に対して安全神話などあり得ない。原発なんてもういらない、先祖代々守ってきた土地で静かに農業や漁業で暮らしたい、放射能汚染におびえる暮らしはもうたくさんだ、電力不足は省エネ努力でも十分対応できる、など被災地の人たちを中心に日本人の反原発のうねりはかつてなく高まっています。
浜岡原発の停止、原子力依存の政府のエネルギー政策の見直しなど新しい動き
政府も時代の空気が大きく変わり始めたことを意識し始めたように感じられます。菅直人首相は、先日中部電力に対して、浜岡原発(3〜5号機)の全面停止を要請しました。同社もこれを受け入れ、停止に踏み切りました。専門家の間では、東海地震の発生確率は、「今後30年以内に87%」という高率になっており、今度の大津波クラスにも耐えられるような対策が講ぜられるまで、停止を続ける予定だそうです。「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」の譬えではありませんが、用心にこしたことはありません。さらに、菅首相は、先日の記者会見で、総電力に占める原子力の割合を30年までに50%に高めるという政府のエネルギー計画を「いったん白紙に戻して議論する必要がある」と述べ、戦後日本が国策として進めてきた原発推進路線の見直しを提起しました。
原発のフェイズアウトへ向け、一次的に国有化を進めよ
日本のような地震国では、原子力発電は危険が大き過ぎます。冒頭でも指摘したように、一度事故を起こすと、被害は甚大で多方面にわたり、一企業ではとても対応できません。現在日本では54基の原発が稼働中ですが、これらの原発を各電力会社から切り離し、国が一括管理し、中長期的にフェイズアウト(段階的に廃止)させる政策を進めるべきです。具体的には、寿命がきた原発を廃炉にして、最終的には原発の全廃を目指すという明確な政策目標を国民に示すことが、政府としての説明責任の取り方といえるでしょう。
この夏、15%の節電を成功させ、原発不足分を賄おう
電力需要がピークになる今年の夏、政府は東京電力、東北電力管内の企業や一般家庭に対して昨年夏比一律15%の節電目標を定め、推進するための対策を決定しました。東電管内に限ると、今夏の電力供給不足は約620万kwです。原発1基の平均出力を100万kwと仮定すると、節電によって原発約5基分を賄える計算になります。「節電効果、恐るべき」です。
日本人の優れた転換能力に期待
具体的な節電対策ですが、大口需要家に対しては、操業、営業時間の調整シフト、休業日、夏季休業の分散化、自家発電設備の導入・活用、職場でのクールビズの徹底、中小企業や一般家庭に対してはエアコンや日中の照明などの節電などきめ細かな対策の実施を求めています。3月11日の大震災の直後、計画停電が実施された際、多くの消費者や企業は大胆な節電に乗り出し、計画停電を止めさせることに成功しました。日本人の優れた転換能力からすれば、15%の節電を乗り越えることは可能でしょう。
世界に冠たる省エネ型社会づくりで世界に貢献しよう
15%の節電に成功すれば、節電が原発依存度を減少させる有力な武器になります。夏場だけではなく、それ以降も持続可能な形で15〜25%程度の節電に成功すれば、原発依存を大幅に低下させることが可能になります。中長期的には、太陽光や風力、バイオマス、小水力、ヒートポンプ、コジェネレーション(熱電併給システム)などの分散型エネルギー、さらに電気自動車や蓄電池などの総合的な開発・普及を推進していくことが求められます。今度の深刻な原発事故を好機として、日本は原発に頼らない社会、節電と太陽エネルギーを両輪とする世界に冠たる低炭素、省エネ型社会の構築を目指して、世界に貢献したいものです。
2011年5月15日記