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トノサマガエルとホタルの引退で考えたこと

四季の変化に恵まれた日本の風土

日本のように四季の変化に恵まれているところでは、季節の移り変わりが身近な動植物を観測するだけで結構分かり、楽しめます。マンション屋上の我が家の小さな庭でも、マンリョウの赤い実が熟れる1月頃になると、どこからともなくヒヨドリ数羽がやってきて、数日で鉢植えの赤い実を平らげてしまいます。2月下旬から3月初めにかけては、決まったようにつがいのメジロがサザンカの蜜をついばみにきます。メジロの訪問を見ると、「春がすぐ近くまでやってきた」と寒かった冬との決別に心が弾みます。
昨年9月には、ヒマワリの実を求めて数羽のカワラヒワがやってきました。一体どこでヒマワリの所在を突き止めたのか分かりませんが、数日せわしく通ってきました。

気象庁では60年近く観測を続けている

実は、気象庁では1953年からこの生物季節観測をやっているので、もう60年近くの歳月が経ちます。現在全国90余の気象官署で実施しています。季節の変化の遅速や気象の影響(気温の高低、雨量の過少など)が植物や動物の状態に大きな影響を与えます。植物については、発芽、開花、満開、紅(黄)葉、落葉、動物については、鳥や昆虫などの初見、初鳴きなどを観測しています。

温暖化はサクラの開花やイチョウの黄葉、落葉にも影響

植物の変化は特に気温と密接な関係があります。たとえば桜の花芽は春先の気温の上昇によって生長し開花するので、その時の気温が高ければ咲く時期も早まります。逆にカエデの紅葉やイチョウの黄葉は、秋になって気温がある一定温度を下回ると色づき始めます。したがって気温が高ければ色づきが遅れ、低ければ早まります。例えば、一昔前の東京ではイチョウの黄葉が9〜10月、落葉が10〜11月頃でしたが、ヒートアイアンド現象の影響で近年は、東京都心の一部では、イチョウの黄葉・落葉が年を越えてしまうケースさえ目立っています。

動植物22種を定期的に観測

気象庁では、日本全国に分布し、一律に観測できる「規定種目」として、植物では、ウメ、ツバキ、タンポポ、サクラ、ヤマツツジ、ノダフジ、ヤマハギ、アジサイ、サルスベリ、ススキ、イチョウ、カエデの12種類、動物ではヒバリ、ウグイス、ツバメ、モンシロチョウ、キアゲハ、トノサマガエル、シオカラトンボ、ホタル、アブラゼミ、ヒグラシ、モズの11種類、合わせて23種類を継続的に観測しています。このほか各地の気象台では地域特性にあった生物を独自に選んで「選択種目」を観測対象に加えているケースもあります。

温暖化の影響は植物の方が大きい

温暖化の影響についてみると、植物への影響が相対的に大きいようです。サクラなどの開花時期が早まる一方で、カエデやイチョウの紅葉、黄葉、落葉時期は逆に遅れがちになっているそうです。このあたりの季節の変化は私たちの身近な日常生活の場でも観測できます。たとえば、私の所属する大学では、大学沿いの道にサクラ並木があります。古参職員の話によると、かつては4月初めの入学式の頃に満開だったそうですが、最近では3月下旬の卒業式の頃に満開になり、入学式の時には、あらかた散ってしまっているそうです。一方、動物の場合は、ウグイスやアブラゼミなどの初鳴きなどがやはり温暖化の影響で早まる傾向にありますが、植物と比べると気温の影響はそれほど大きくないようです。動物の場合は、気温以外の生息環境(森や田畑の開発、河川工事に伴う流水の変化など)の影響の方が大きいようです。

今春からトノサマガエルとホタルが対象から外れる

気象庁では、生物季節観察の23種について、見直しのための調査をしてきましたが、その結果、トノサマガエルとホタルを今春から観察対象から外すことを決めました。観察対象となる動物は「30年間に8回以上観測」できることが条件になっています。東京では世田谷区の東京農大周辺で観測していますが、ホタルは東京管区気象台に残る記録では88年以降、トノサマガエルは89年以降、一度も観察されていないということです。トノサマガエルやホタルが東京から姿を消してしまったのは、温暖化の影響もあるでしょうが、水田やきれいな水環境などが失われてしまったことが大きな原因だと考えられます。

身近な自然をもっと深く観察しよう

最近では、ホテルなどが夏の風物詩として、長野県などのホタルの産地で人工的に育てられたホタルを敷地内に大量に放って、ホタル狩りを楽しむイベントが盛んに行われていますが、白けた気持ちになる方も多いのではないでしょうか。気象庁によると、第二、第三の引退が出てくる可能性もあるようですが、素晴らしい日本の四季を守り、これ以上、自然環境を悪化させないためにも、身近な自然をもっと観察し、自然に対する関心を深めていくことが必要ですね。

2011年 3月7日記

 
 
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