日本語では地球工学と訳されています
皆さんは「ジオエンジニアリング」という言葉を聞いたことがありますか。「はてな?」とクビをかしげる方が多いのではないでしょうか。実は私も最近までこの言葉を知りませんでした。日本語では、地球工学と訳されています。
たとえば、地球温暖化の影響が手に負えないほど深刻になってきた場合、緊急対策として、人工的に地球を冷やしたり、温暖化の悪影響を取り除くため、地球環境を改造する技術の総称です。
身近な例では、人工降雨もその一つ
市身近な例をあげれば、人工的に雨を降らせる人工降雨もその一つです。穀倉地帯が大旱魃で、雨が降らず収穫の大幅な減少が予想されるような場合、人工的に雨を降らせる技術はアメリカや中国などではかなり早くから研究が行われており、すでに何度も実験に成功しているそうです。08年の北京オリンピックの時は、開会式に雨が降らないように中国政府はこの技術を駆使して細心の注意を払ったことが報道されましたが、この程度の改造なら特に批判されることもないでしょう。
危険な劇薬のにおいがしますね
ところが、最近、アメリカやヨーロッパの科学者、技術者の間で、研究、調査、実験が進められているジオエンジニアリングは、緊急対策とはいえ、危険な劇薬のにおいがします。そのいくつかの例を紹介しましょう。
たとえば、@地球の上空150万kmの宇宙に巨大な反射鏡を設置して、太陽光を遮断する、A成層圏に硫酸エアロゾル(雲を白くして太陽光を反射させる)を注入して地表付近の温度を下げる、B海にCO2を吸収させるため、硫酸鉄を散布して藻類の光合成を促進させる・・・など様々なアイデアが提案され、書籍も出版されています。
変わったアイデアとしては、地球外へ太陽光を反射させるため砂漠や北極の氷河を大きな特別のカバーシートで覆う提案もあります。
温暖化が止められないという危機意識が背景にあるようです
それでは、今、なぜ、急にジオエンジニアリングが欧米の科学者の関心を呼ぶようになったのでしょうか。最大の理由は、もはや通常の手段では,温暖化を食い止められないという危機意識が彼らの間で強まっていることです。現状のままで推移すると、地球表面の気温上昇は、2060年頃には産業革命前と比べ、4℃を突破する可能性が強まっていることです。気温上昇と気候変動の関係を研究している国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の最新の報告書(07年2月発表)によると、気温が今より5℃近くまで上昇するのは、今世紀末頃としていましたが、その後の変化を見ると、「温暖化のテンポはずっと速まっており、60年ごろに4℃を突破するのではないか」と欧米の科学者の多くが心配しています。4℃突破は、最悪の場合、現代文明を崩壊させてしまうほどの気候変動をもたらしかねないと考えられています。
第3段階の「緊急対策」として登場
これまで世界の地球温暖化対策は、2段階で考えられてきました。第一段階は、CO2を中心とする温室効果ガスの「削減対策」です。環境税やCO2の排出量取引制度の導入などです。しかし温暖化のスピードが速く、各地ですでに異常気象による被害が続出してきたため、第二段階として「適応対策」が強調されるようになりました。たとえば、温暖化によって近い将来海面水位の上昇、台風の凶暴化による被害の拡大などが予想される地域では、住宅をつくる場合、海岸線からずっと離れた場所につくる、しかも凶暴化する台風に耐えられるようながっしりした構造の住宅をつくるなどです。
これに対して、温暖化の進行はさらに早まっており、気候変動を防ぐため「緊急対策」の必要性が指摘されるようになりました。これが第三段階です。その手段として人工的に地球を冷やすための技術に脚光が集まるようになりました。それがジオエンジニアリングです。
不確定要素が多過ぎますね
しかし、人工的に地球を冷やす技術が地球の生態系や私たちの生活にどのような影響を与えるかについては、不確定要素が多過ぎます。たとえば、大気中に雲を大量に作り出し、硫酸エアロゾルを散布し、雲を白くさせれば、地上から青空が見えなくなってしまうかもしれません。地上に照射される太陽光が少なくなれば,植物の生育にも悪影響がでてくる心配もあります。海に硫酸鉄を撒いて、藻類の光合成を活発化させ、CO2を吸収させることに成功しても、その行為が海の生態系や漁業などにどのような影響を与えるのかも分かりません。
国際的な厳しい監査、管理が必要です
温暖化が切羽詰った段階にきた場合、「なんでもあり」の形で、対症療法的に、科学技術でしゃにむに対策を講ずることには大きな不安を感じます。民間企業がビジネスとして取り組み、地球環境を大規模に改造するような事態になれば、大きなリスクを伴います。人類の共有財産である地球環境を守るためにも、ジオエンジニアリングが一人歩きしないように、その実験、実施に当たっては、国際的な厳しい監視、管理が必要だと思います。
2010年10月11日記