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中国・成都のごみ事情報告

発展の中心は内陸部にシフト

中国・四川省の省都、成都のごみ事情を取材してきました。成田空港から上海浦東国際空港まで約2時間半、浦東空港から成都の双流国際空港まで約2時間半といった感じで、時間的には、上海は東京と成都のちょうど真ん中になります。
 今年GDP(国内総生産)の規模で、中国が日本を抜き、米国に次ぐ世界第2のGDP大国に躍り出ることが確実視されていますが、それを裏付けるように、中国経済には発展へのエネルギーが満ち溢れているように思います。これまで中国経済は上海や広州など沿岸部中心の発展でしたが、最近では発展の中心が内陸部にシフトしつつあます。そうした内陸都市の代表でもある成都の経済成長率は、この数年二ケタ台を維持しており、中国全体の8%前後を上回っています。市内中心部では、高層マンション、オフィスビルの建設ラッシュが続いており、マンション価格も一貫して上昇しています。10月には成都で最初の地下鉄も開通の予定だそうです。

「卓越企業」に選ばれた成都イトーヨーカ堂

市内中心部の繁華街は、伊勢丹をはじめ新興のイトーヨーカ堂やユニクロなどの日本企業も進出しています。特にイトーヨーカド堂は、日本製の電気製品や化粧品、高級衣料などが人気で、土日には様々なファッションで身を飾った多くの若者が押し寄せ、身動きがとれないほどの盛況ぶりです。成都イトーヨーカ堂は、同国政府から中国のサービス業の近代化に貢献した「卓越企業」に選ばれています。
 私にとって、成都訪問は今度で2度目です。最初の訪問は2000年3月で、同市の石炭火力発電から排出される有害物質、SOx(硫黄酸化物)やNOx(窒素酸化物)を硫安や硝安などの化学肥料に転換させる技術を荏原製作所が提供し、その成果と問題点を検証取材するためでした。当時の成都は、街全体が古色蒼然としており、老朽家屋やビルが目立ちました。人々の服装も労働服のような粗末な感じのものが目立ち、自転車で職場に向かう人々の顔色も貧しさ故か暗く見えました。空港も貧弱で、フライトの発着表示版も不正確で、頻繁に変更され、ローカル空港そのものでした。

喧騒と活気溢れる都市に変貌

それからちょうど10年目の訪問になります。この間の変貌は急激で、「まったく別の都市にきた」というのが第一印象です。堂々とした国際空港、街中に溢れる出る自動車、高層ビル群、ショッピングを楽しむ若い女性の群れ。明日への期待を胸に「マンションを買って一山当てたい」、「明日は富裕層の仲間入りをしたい」と情報とビジネスチャンスを求め、忙しく駆け回る若者たち。この喧騒と活気はもはや上海などの沿岸部と変わらないようです。

1日で7000トンの一般廃棄物を排出

現在、成都の人口は約1060万人、一人当たりGDPは400ドルを超えています。これが消費ブームの源泉になっていると思います。日本も消費ブームに火がついたのが東京オリンピック前後であり、一人当たりGDPが4000ドルを超えたのは60年代後半であり、この時代とどこか似ているように見えます。
 経済発展、それを支える消費ブームは、プラスの面だけではありません。豊かさの裏側には大気・水質汚染や有害化学物質の排出による様々な公害病の発生、さらに廃棄物急増などの負の側面も大きくなっています。
 成都では1日に約7000トンのごみ(一般廃棄物)が発生しており、その大部分が埋め立て処分されています。埋め立て処分現場を2ヵ所訪ねました。最大の埋め立て処分場は、成都市の東側の山中にあります。中心部から車で東方向に30分ほど走ると、緩やかな山道に入ります。ごみを捨てたばかりの空の大型トラックと頻繁にすれ違うようになり、処分場が近づいてきたことが分かります。蛇行を繰り返す山道をさらに登り10分ほど走ると、小高い山の頂にさしかかりました。そこから谷間を見ると、鉛色をした大きな湖のような空間が目の中に飛び込んできました。「こんなところに湖があるはずがない」と車を止め、目を凝らすと、それは緩やかなカーブを描いて波打つ大きなスキー場(ゲレンデ)のようにも見えました。それが目的地の処分場でした。埋め立てたごみの上に黒いゴムのシートを被せてあり、それが光線の当たり方によって満々と水を湛えたダム湖のように見えたのでしょう。

世界最大の廃棄物処分場?

 しかし近くから見ると、湖というよりも、人工の大きなゲレンデといったほうが適当なように思います。谷間一面を覆うゴムシートが上から下へ波を打つように広がっており、ゴムシートの上を流れた落ちた水跡が、スキーの軌跡のように見えます。処分場の周りの山は緑の樹木で覆われており、最終処分場になった谷間一帯もかつては緑いっぱいの場所だったに違いありません。
 同市の環境部門の責任者によると、最終処分場の面積は、約7万ヘクタール(1ヘクタールは100m×100m=1万u)だそうです。中国には大きな最終処分場がいくつかあると聞いていますが、これだけの面積を持つ最終処分場は、中国最大、いや恐らく世界最大の処分場ではないでしょうか。

最貧層のごみ拾いに心が痛む

処分場に立つと異臭が鼻を突き、思わずハンカチで口を覆いましたが、その間も大型のごみトラックが次々とやってきてごみを降ろし、トラクターが投げ出されたごみを前方に押し出していました。処分場には貧しい姿の女性が何人もいて、降ろされるごみの中からビニールシートや発泡スチロール、空き缶などの資源ごみを拾って背負いカゴに投げ入れている姿に胸が痛みました。

 経済発展期の成都では、貧富の格差が急速に拡大しているそうです。最裕福層から最貧層まで所得別に見ると、20階級位に分けられるのではないかと地元の友人が解説してくれました。悪臭漂うごみ処分場で黙々とゴミ拾いをしている人々がいる半面、高級車のベンツに乗り、大きなマンションに住み、一流ホテルで豪華な食事を楽しむ中国人も多数生まれてきています。10年前には考えられもしなかった驚異的な経済発展が作り出した貧富の格差拡大は、弱肉強食の市場経済を前提としている限り避けて通れない現象だとの指摘もありますが、国造りの難しさを改めて考えざるを得ませんでした。

ごみビジネスに熱心な欧州、韓国企業

現在、成都のごみの大部分は、ほとんどが埋め立て処分されていますが、ごみが増え続ければいかに大きな処分場でも、やがて受け入れが不可能になる時がきます。成都市にとって頭の痛い問題ですが、この悩みを解決するためのごみビジネスを同市に提案し、成功させている欧州、韓国企業があります。
 同市では、2年前からドイツ企業の提案を受け入れ実験的に廃棄物発電に取り組んでいます。一般廃棄物を焼却処理することで、ごみの大幅な減量が可能になるうえ、焼却時の熱エネルギーを使って廃棄物発電をつくれば、電力不足解消に役立つ。中央政府も廃棄物発電に乗り気で、補助金による支援をしています。
 2年前に稼動した廃棄物発電1号基は、1日に1200トンのごみを焼却できます。来年春に稼動する2号基の焼却能力は1800トン、3号基、4号基も数年内に次々と稼動させる予定で、4年後には成都のごみの大半を焼却処理するメドがたったそうです。
 一方、韓国企業は、既存の処分場から出てくるメタンガスを使ってメタンガス発電などの有効利用について成都の環境部局に提案しているそうです。

日本企業の奮起に期待

これに対し、日本企業からのアプローチはゼロだそうです。日本企業のごみ焼却技術、廃棄物発電技術は実績もあり、技術も世界最高水準にあります。中国は、廃棄物処理分野に限らず、下水汚泥処理分野など静脈産業分野で深刻な問題を抱えており、それらの問題解決のためには積極的に資金を投入していく姿勢のようです。欧州企業に負けずに日本企業も積極的に潜在需要の大きい中国の静脈産業をビジネスチャンスとして捕らえ、挑戦してほしいと思います。
 日本企業の中国の静脈産業についての情報は、極めて乏しく、どこにどのようなビジネスチャンスがあるのか把握できていないように思います。過去に中国とのビジネスを経験した企業の中には、規制が厳しく、人間関係の構築が難しい中国とのビジネスに警戒的なところも少なくないと思います。
 しかし、時代は大きく変化しています。静脈産業を軽視すれば、中国の経済発展の足かせになります。静脈産業分野で優れた技術を持つ日本企業は、中国にとっても歓迎されるでしょう。中国への直接進出にためらいを持つようなら、中国の内情に詳しく、信頼できる台湾資本や香港資本と提携して進出する方法も考えられるでしょう。 日本企業の奮起を期待します。

2010年9月21日記

 
 
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