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科学技術の巨大信仰の落とし穴
〜英石油大手BP社のメキシコ湾沖 原油流出事故の教訓〜

原油まみれのペリカン

原油まみれになったペリカンの映像が何回もテレビに写し出されたので、ご記憶の方も多いと思いますが、英石油大手BP社のメキシコ湾沖の原油流出事故の波紋が広がっています。汚染海域が日本の首都圏をすっぽり包み込んでしまうほど広がり、海洋生態系や地元漁業に与えた影響ははかり知れないものがあります。

1日、最大6万バレルの原油が流出

爆発事故が起こったのが4月20日、なんとか蓋を閉め、流出がほぼ止まったのが7月15日、1日最大約6万バレル(約169リットル)の原油が3ヶ月も流出し続けました。わが国の原油輸入は、日量換算で約400万バレルだから、合わせるとそれを上回る原油が流出し海を汚したことになります。

BPの経営に大きな打撃〜株価暴落、配当見送り、長期債務格付けの大幅引き下げ〜

その影響がもろに出た同社の4−6月期決算によると、最終損益は約1・5兆円の大幅赤字、また流出事故に絡む原油回収や漁民への賠償負担などで今後予想される費用として、約2・8兆円を特別に計上しました。さらに事故の責任を取る形でヘイワード最高経営責任者(CEO)も辞任に追い込まれました。株価は暴落、株式配当も当面見送り、長期債務格付けも大幅に引き下げられるなど、同社は存続が危ぶまれるほどの打撃を受けました。 生態系や漁業などに与えた損失がどの程度になるのかは今後の調査にかかっていますが、同社が見込んでいる2・8兆円をはるかに上回る金額になるのではないかと推定されています。

起こるべきして起きた事故、第二、第三の流出事故の可能性も

今度の流出事故は「起こるべきして起きた事故だ」と指摘する専門家もいます。1500メートル(m)の深海で井戸を掘り、原油を採取する海底油田の開発には大きなリスクが伴います。水深1500mの世界では水圧が約150気圧もあり、低温で真っ暗闇の世界です。事故が起こってもロボットによる遠隔操作に頼らざるをえません。科学技術の巨大化は、海底油田の開発を可能にしましたが、安全対策面はまだまだ完全とはいえず、考えられないようなリスクを伴います。 現在、2500〜3000mでの海底油田開発も続けられており、いつまた第二、第三の原油流出事故が発生するかわかりません。オバマ米大統領は、5月下旬、緊急措置として、1500m以上の海底での新規開発認可の6ヶ月間停止を発表しました。

科学技術の巨大化信仰が豊かさをもたらしたのは事実だが・・・

歴史を振り返ると、産業革命以降の経済発展は、技術の巨大化によってもたらされたと言っても過言ではないと思います。資源の大量掘削・採取、製品の大量生産、物資の大量輸送、生産・輸送時間の大幅短縮などは、科学技術の巨大化によって実現しました。その結果、20世紀の繁栄がもたらされましたが、同時に繁栄の後にブラウン・フィールド(荒廃地)を残してきました。


アスワン・ハイ・ダムの教訓


巨大技術は多くの人々に明るい夢を与えてくれますが、半面負の側面への配慮は著しく貧弱で、劣っています。エジプトのアスワン・ハイ・ダムは、1960年代に、ソ連の先端技術を駆使して、ナイル川上流につくられた巨大水力発電です。電力の大量供給に成功しましたが、洪水がなくなり、ナイル河口の穀倉地帯が塩害などで痩せてしまいました。そこでエジプト政府は、ダムの破壊を試みましたが、頑丈にできているため、破壊をあきらめたそうです。


巨大技術の暴走を許すな


巨大技術でつくられたものは、弊害が明らかになっても、簡単に取り壊すことができませんし、今回の原油流出事故のような被害が起こると、復元不可能なまで自然を壊してしまいます。科学技術の巨大化こそ「人類の進歩である」という誤った信仰と決別すべき時代がやってきました。
 地球の限界が明らかになってきた今日、リスクの高い巨大技術の暴走を許すべきではありません。利用には厳しい規制が必要です。地球と共存できる環境負荷の少ない身の丈にあった小ぶりの技術を積極的に活用する時代がやってきています。このことを私たちは肝に銘ずべきではないでしょうか。


2010年9月10日記

 
 
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