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- 環境コラム
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不況のお陰で、温室効果ガス6%削減が達成できる
この国の歪(いびつ)さを嗤う

6%削減が視野に入ってきた

まず不可能と思われていた京都議定書の公約―温室効果ガス(GHG)の排出量を12年末までに90年比6%削減するという約束―が達成できそうな見通しになってきました。産業界や国民の省エネ努力の成果なら大歓迎ですが、さにあらず。これを可能にさせたのが不況という神風のお陰だといえば、あまりに神がかり過ぎて素直に喜ぶわけにはいきません。

成長と化石燃料、CO2は仲良し3羽ガラス

18世紀後半、イギリスで始まった産業革命以降の世界の経済発展は、石炭、石油などの化石燃料に全面的に依存してきました。高い経済成長を実現するためには化石燃料を大量に使うことが必要だったし、化石燃料を大量に使えばCO2の排出量もどんどん増え続けます。経済成長と化石燃料とCO2の結び付きは切っても切れないカップリング(結合)の関係にあるわけです。この関係を前提にすれば,CO2の排出量を削減するためには、成長率を落とし、化石燃料の消費を抑制するしかありません。しかし、成長率を急激に落とせば、経済は大不況に陥り、失業者が急増するため、国の政策としてはとても選択不可能です。

アメリカ発の世界同時不況が、日本の公約を可能にさせた?

だが、その不可能を可能にさせた不思議な世界をいま、日本は経験しています。08年9月のリーマンショックを引き金にしたアメリカ発の世界同時不況がその救いの神になったのです。輸出依存型の日本経済は、輸出が大打撃を受け、日米欧先進国の中では経済成長率が最も大きく落ち込みました。08年度の日本の経済成長率(実質)は前年比3・7%減、それに伴ってGHGの排出量も同6・4%減と90年以降の最大の落ち込になりました。09年度の経済成長率は同2%減です。GHGの数字はまだ発表になっていませんが、前年比5%前後の減少が見込まれるため、一時的に京都議定書の6%減を達成できるかもしれません。((図参照)


10〜12年の成長率は、年率2%前後でも、目標値の達成は可能

日本経済は9年を底に10年から景気は上昇に転ずるとものと見られますが、上昇の勢いは弱く、12年までの3年間の経済成長率は、年率2%程度がやっとです。それに伴ってGHGの排出量も再び増加に転ずると予想されますが、08年、09年の経済の落ち込みが大きかったため、それほど増えないと思います。このシナリオ通りに進めば、12年末までに京都議定書の6%削減は達成できる見込みが強いといえるでしょう。

甘えの構造が頭をもたげる恐ろしさ

このため、産業界の一部から、万々歳の声が洩(も)れ伝わってきます。これまで必死で取り組んできた省エネ努力をいったん棚上げし、民主党政権が掲げる20年にGHGを90年比25%削減する目標を骨抜きにしようとする動きが水面下で活発になっています。20年頃にはまた新しい神風が吹くだろうから、環境税やCO2の排出量取引制度の導入などは急ぐ必要はないという甘えの構造が頭をもたげてきています。


デカップリング経済への転換を急がないと大変だ


13年以降、日本経済の回復が軌道に乗れば、再び化石燃料消費が増え、それに伴いGHGの排出量も急速に増加に向かうでしょう。不況という神風に助けられ、エネルギー多消費型の産業構造や化石燃料依存型のエネルギー構成比の転換はほとんど進んでいません。経済成長と化石燃料、CO2の密接な関係はまだしっかり温存されたままです。日本は目先の楽観論に幻惑されることなく、高い経済成長と、化石燃料消費およびGHGの排出削減を同時に実現できるデカップリング経済への転換を急がなければなりません。


2010年7月12日記

 
 
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