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クロマグロ規制とワシントン条約

ワシントン条約会議を機に、漁獲証明書提出を全マグロ類に拡大へ

農林水産省は、ワシントン条約締約国会議などの場で、最大のマグロ輸入・消費国である日本に資源管理の徹底を求める国際的な世論の強まりに対応するため、クロマグロなどの高級種の輸入に提出を求めている漁獲証明書の対象をメバチ、キハダなど全マグロ類に拡大する方針です。

クロマグロの8割を日本が消費

ご承知のように、3月にカタールの首都、ドーハで開かれたワシントン条約締約国会議は、絶滅の恐れがあるとして、大西洋・地中海産のクロマグロの輸出を禁止するように求めていたモナコの提案を反対多数で否決しました。この結果、高級なトロがとれるクロマグロの禁輸はひとまず回避され、マグロ好きの日本人の中には、ほっと胸をなで下ろす向きも多かったのではないでしょうか。  クロマグロは、別名本マグロとも言われ、マグロの中でも、トロ部分が多く、すしネタや刺身に利用される最高級の食材です。日本は世界のクロマグロの8割を消費する国(年間約4万トン)ですが、その6割が大西洋・地中海産といわれています。 ところが、これらの海域のクロマグロが乱獲によってこの数年急減しています。たとえば、大西洋におけるクロマグロの生息数は、ピーク時の30万トンから8万トン前後まで急減しているそうです。

巻き網漁による幼魚の大量捕獲で、生息数減少

生息数減少の最大の理由は、なんといっても過剰漁獲です。その中でも特に問題視されているのが、地中海での「蓄養」です。巻き網漁で小型のマグロ(幼魚)を大量に獲り、いけすに囲い込み、大量にエサを与え、脂身(トロ)を増やして出荷します。日本はこの蓄養マグロの大部分を輸入しています。  クロマグロの絶滅を危惧する地中海の小国モナコは、環境保護団体の支援を受け、昨年10月に絶滅の恐れのある動植物の取引を禁止するワシントン条約の対象にクロマグロを加えるべきだと同条約事務局に提案しました。

禁輸求めるモナコ提案、賛成20票、反対68票の大差で否決

ドーハで開かれたワシントン条約締約国会議でモナコ提案が3分の2以上の賛成を得れば、日本への輸入は全面的に禁止されます。投票前の予想では、フランスなどEU(欧州連合)加盟国の大部分やアメリカなどがモナコ提案を支持していることもあり、賛成が優勢と見られていました。だが、いざ、ふたを開けてみると、モナコ提案は、賛成20票、反対68票の大差で否決されてしまいました。反対したのは日本や中国、韓国などのアジア漁業国やアフリカなどの途上国でした。これまでの国際会議では発言力の大きいアメリカやEU諸国が会議の主導権を握るケースが目立ちましたが、今回は、その構図が崩れてしまいました。


持続可能な漁業資源管理のルール強化が必要


反対の理由は、同海域のクロマグロについては、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)という組織が、漁業資源を管理しているので、同委員会の管理機能を強化させ、漁獲量を厳しく制限するなどの資源保護の対策をとるのが本筋ではないかという指摘です。  絶滅の恐れのある野生動植物を保護するワシントン条約を適用するのは筋違いで、漁業資源を持続可能な方法で維持・管理していくための対策を真剣に追求することが、他の様々な魚種の漁業資源を守るためにも必要だと判断したためです。  漁業資源を持続可能な方法で管理していくためには、厳しい規制を実施して過剰漁獲を是正しなければなりません。厳しい規制によって、クロマグロの刺身の値段が上がっても、少しぐらい我慢する覚悟が必要です。それが、クロマグロを持続可能な方法で食するための絶対的な条件だからです。


モナコ提案を重く受け止めるべきだ


ワシントン条約には、象やクロサイ、トラなどの絶滅の危機にある野生動物が対象になっていますが、それと同列でクロマグロを扱うのは筋違いのように思います。モナコがそれを承知で、禁輸対象として提案したのは、この数年の過剰な乱獲によるクロマグロの減少に危機感を抱いたからにほかなりません。このことは重く受け取らなければなりません。  日本の水産会社の中には、「完全養殖」の事業化に取り組み、成功する企業も登場しています。たとえば、マルハニチロは、卵を人口孵化して成魚まで育てる手法を確立し、13年から出荷する計画です。  漁業資源の安定的な資源確保のためには、政府、企業、消費者の実効性のある総合的な知恵の発動が求められます。


2010年4月24日記

 
 
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