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地球温暖化対策基本法をザル法にするな

地球温暖化対策基本法案、国会へ提出

政府は先月12日開いた閣僚会議で地球温暖化対策基本法案を決定(閣議決定)し、国会に提出しました。これから本格的な審議を開始し、今国会での成立を目指しています。基本法は20年までに温室効果ガス(GHG)の排出を90年比25%削減するという数値目標を達成するための法律です。

4つの落とし穴に注意

法案には中期目標(20年までに25%削減)のほかに、長期目標として50年には80%削減を目指すことが明記され、一次エネルギー供給に占める太陽光発電などの再生可能エネルギーの割合を10%(20年)に引き上げる目標も掲げられています。また、目標達成のための施策として、@温室効果ガス(GHG)国内排出量取引制度の創設、A地球温暖化対策税の導入、B新エネルギー発電の全量買い取りと固定価格買い取り制度の創設などが盛り込まれており、成立すれば画期的な法律になります。 しかし、法案をつぶさに検討してみると、随所に落とし穴が用意されており、せっかくの基本法が抜け道だらけのザル法にされてしまいかねない危険性もはらんでいます。

落とし穴1 国際枠組み条項

第1の落とし穴は、第1条の国際的枠組み条項です。「すべての主要な国が参加する公平なかつ実効性が確保された・・・国際的枠組みの下に取り組むことが重要・・・」の部分です。この条項を悪意に解釈すれば、地球温暖化防止の国際的な枠組みができなければ、この法律は無効である、という受け止め方もできます。たとえ、国際的な枠組みづくりが遅れても、日本としては、基本法を着実に実施していくのだとの決意が必要です。

落とし穴2 経済条項

第2の落とし穴は、3条7項に記載されている経済条項です。「地球温暖化対策は、経済活動及び国民生活に及ぼす効果及び影響について事業者及び国民の理解を得つつ、適切な財政運営に配慮しながら、行われなければならない」と書いてあります。この条項を楯にして、経済活動に影響が大きい場合は、温暖化対策を後退させてもよいと捻じ曲げて解釈されかねないことです。かつて公害対策基本法の中に、「経済の健全な発展との調和が図られるようにする」との規定がありました。経済開発と環境が対立した場合、開発が優先されると解釈され、国会審議で大論争になりました。この点も十分な警戒が求められます。


落とし穴3 脅かされる総量規制


第3の落とし穴は、13条の「国内排出量取引制度の創設」の部分です。排出量取引制度の創設は、市場メカニズムを利用して、GHGの排出量を削減するための手法です。そのためには政府が総量規制に沿った削減枠を定め、削減コストが高い企業は、低い企業から排出枠を購入することで、少しでもコスト削減につなげるための制度です。この点について13条7項では、「・・・一定の期間における温室効果ガスの排出量の総量の限度として定める方法を基本としつつ、生産量その他事業活動の規模を表す量の1単位当たりの温室効果ガスの排出量の限度として定める方法についても、検討を行うものとする」と書かれています。難解な文章ですが、総量規制だけではなく、GHGの原単位も検討する余地を残していることです。1単位のGDPを生産するときに排出するGHGをいくら改善しても、GDPの総量が増え続ければ、GHGの排出総量も増えてしまいます。あくまで総量規制を貫く覚悟が肝心です。


落とし穴4 原子力条項


第4の落とし穴は、16条の原子力条項です。16条には、「国は、温室効果ガスの排出の抑制に資するため、・・・特に原子力に係る施策については、安全の確保を旨として、国民の理解と信頼を得て、推進する」と書かれています。温暖化対策の一つの手段として原子力発電は重要な役割を担っています。しかし、原子力に全面的に依存してしまい、再生可能なクリーンエネルギーの開発がおざなりにされてしまっては困ります。多様なエネルギー源の一つとして原子力を位置づけていく視点が必要です。


基本計画の中で明確な姿勢を打ち出せ


地球温暖化対策基本法が成立し、実施されれば25%削減への道筋がはっきり見えてきますが、同時に同法をザル法にしかねない様々な落とし穴が用意されていることは、以上に見てきた通りです。同基本法は理念法であり、実際に同法の理念を実現するためには、基本計画の作成が必要です。12条ではこの点について、「政府は・・・地球温暖化対策に関する基本計画を定めなければならない」と規定しています。基本計画には、「政府が総合的かつ計画的に講ずべき地球温暖化対策」が具体的に書き込まれることになっています。 同法を低炭素社会構築の切り札となる法律として育てていくことができるか、ザル法にして葬り去られるかは、これから作成される基本計画の中身次第だといえるでしょう。

2010年4月3日記

 
 
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