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民主党の環境政策、中長期的視点からの整合性が必要

民主党政権に期待

民主党の鳩山由紀夫首相が誕生しました。同首相は、選挙中に掲げたマニフェスト(政権公約)を着実に実施していくとの強い決意を表明しています。50年を越える自民党の長期政権の下で、政治、経済、社会など様々な分野で制度疲労が目立っていただけに、脱官僚、政治主導を掲げた鳩山内閣に対する国民の期待も高まっています。 しかし、マニフェストに記載されている民主党の環境政策に限ると、全体的にまとまりを欠いているように見えます。高く評価できる部分と、逆に首を傾げたくなる政策が混在しています。政権政党として早急に矛盾点を調整し、中長期的視点に立ち、環境政策全体の整合性を図る必要があります。

温暖化ガス、20年までに25%削減は歓迎

環境政策として、高く評価できる点は、第1に温室効果ガス削減の中期目標を20年までに25%削減(90年比、05年比30%削減)、50年までに60%超削減(同)するとした点です。特に20年目標では自民党の15%削減(05年比、90年比では8%削減)を大幅に上回り、EU(欧州連合)と遜色がない意欲的な目標です。第2にキャップ&トレード方式によるCO2の国内排出量取引市場の創設、地球温暖化対策税(環境税)の導入検討などを明記していることです。これらの対策が早期に実施されれば、低炭素社会へのソフトランディングも夢ではなくなります。

暫定税率廃止や高速道路料金の無料化は、CO2の排出量を増やす

一方評価できない点もあります。ガソリン税や軽油取引税などの暫定税率廃止や高速道路の段階的無料化です。特に高速道路の無料化については、物流コストの引き下げなどにより地域と経済を活性化させるとして、マニフェストの目玉の一つになっています。暫定税率の廃止や高速道路の無料化は、確かに自動車の利用を増やす上でかなりの効果が期待できるでしょう。しかし環境の視点からみると、いくつかの問題があります。まず、現在、日本の自動車の大部分はガソリン車であり、バスやトラックなどの商業車は軽油を燃料とするディーゼル車です。いずれも化石燃料なので、利用が増えればそれだけCO2の排出量が増えてしまいます。明らかに、温暖化対策に逆行します。

鉄道や高速バスなどの公共輸送手段への悪影響も懸念

また、鉄道、バス、フェリーなどの公共輸送手段への悪影響も懸念されています。自民党政権下で実施された土日祝日の高速道路料金の1000円への値下げの結果、高速道路バスや新幹線の利用が減り、海上輸送を担ってきたフェリーの経営にも大きな打撃を与えていることなどは反省材料にしなければなりません。


グリーン化政策の視点を入れ、ワンセットで実施せよ


今回の世界同時上況からの回復策として、世界的に注目されているのがグリーン・リカバリー(緑の回復)です。徹底的な環境重視の政策を展開することで、景気回復と低炭素社会移行を同時に達成しようとする試みです。そのためには、グリーン化政策とワンセットで実施すべきです。たとえば、暫定税率で得られる税収は道路およびその関連分野にしか使えません。そこで暫定税率を廃止する代わりに、地球温暖化対策税を導入します。温暖化対策税で得られる税収は、新エネルギーや省エネルギー分野に振り向けることができます。暫定税率を廃止し、温暖化対策税に切り換えることによって、新エネや省エネ分野へ資金を還流させることが可能になり、イノベーション(技術革新)を促進させる効果が期待できます。


受益者負担の原則の時代は終わった


 一方、高速道路料金の無料化についても様々な仕掛けが考えられます。たとえば、無料化の最長距離を300km以内に限定すれば、貨物などの長距離輸送はCO2の排出が少ない鉄道や船舶などを利用するようになり、CO2の排出削減にも良い効果が期待できます。中長期的には、発想の転換が必要です。これまでの高速道路料金は、受益者負担の原則に基づいています。高速道路を利用すれば、一般道路より目的地に早く到達できます。その便益を受ける受益者が高速道路料金を負担するのは当然だという考え方です。しかしこの考え方だと、東吊高速や中央高速などはすでに建設に伴う減価償却を終えているので無料化するのが当然です。それにもかかわらず、高速道路料金が廃止されないのは、そのお金でさらに地方の高速道路づくりや借金の返済に充てられているためです。 その点からいえば、無料化という民主党の主張は一理あります。


汚染者負担の原則で高速道路料金の無料化を考える


しかし時代は大きく変わり、CO2の排出をいかに減らすかが世界的な課題になる時代を迎えています。そこで、高速道路利用に当たっては、汚染者負担の原則を新たに導入すべきです。具体的には、電気自動車やハイブリッド車のようにCO2の排出量が少ない自動車に限って完全無料化することです。逆に排出量の多い車については、課徴金として一定の通行料を課すようにします。つまりCO2という汚染物質の排出の少ない車は無料化し、多い車には料金を負担させる制度です。このような新ルールができれば、電気自動車やハイブリッド車などの無公害車や低公害車の普及が急速に進むことが期待できます。


低炭素社会を目指すグリーン・リカバリーと連動させれば、大きな効果が期待


元々、民主党の暫定税率廃止や高速道路の無料化は、選挙対策用の色彩が強かったように思います。しかし政権党になった今、「公約は公約《などと硬直的に対応するのではなく、修正が必要なら恐れず修正することです。暫定税率廃止や高速道路無料化は、それだけを単独で実施するのではなく、グリーン化政策と一体化させ、連動させて実施すれば、低炭素社会を目指すグリーン・リカバリーの効果も大きいと思います。

2009年9月18日記

 
 
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