過疎化が進む佐渡島
「トキの田んぼを守る会」の農家の人たちと交流するために、久しぶりに佐渡を訪れました。新潟港からジェットホイル(高速船)に乗ると、一時間ほどで佐渡の両津港に着きます。時速約80キロの速さで、波ゆれもほとんどなく、まるで高速道路を自動車で走っているような感じでした。佐渡は、農水産業以外目だった産業がないため、過疎化が急速に進んでいます。人口も最盛期の昭和25年(1950年)には、12万5千人を越えていたのが、今ではその約半分の6万5千人程度まで減少しています。高齢化も進んでおり、65歳以上の高齢者の割合は34・2%で全国平均の19%と比べると2倍近くも老人の割合が高くなっています。
04年3月、10市町村が合併して佐渡市誕生、トキの放鳥で話題集める
なんとか、沈滞した佐渡を再生、活性化させる方法はないものだろうか。こんな願いを込めて04年3月、10市町村に分かれていた佐渡の地域が合併・統合し、新たに佐渡市として生まれ変わりました。佐渡再生のシンボルがトキです。昨年9月、増殖に成功したトキ10羽を放鳥し、話題を集めました。佐渡市では、「朱鷺と暮す郷」づくりを掲げ、「人とトキが共に生きる島づくりを農業から創造する」を目標にして地元農民とコラボレーション(協働)を組みました。
農薬と化学肥料使わない田んぼづくりに挑む
私が02年に佐渡を訪れた時には、トキが餌場にできる生き物一杯の田んぼをつくるため、農薬と化学肥料を一切使わない米作りを目指し、田んぼを耕さず、冬に水を張る「ふゆみずたんぼ」の実験に取り組みはじめた10数人の農民有志と意気投合しました。彼らを支援するため、彼らがつくる「トキひかり」を年契約で購入するグリーンオーナーになり、今日に至っています。彼らは、その後「トキの田んぼを守る会」をスタートさせ、生き物一杯の田んぼづくりに先駆的な試みを展開してきましたが、市町村合併で佐渡市が発足した際、佐渡再生の切り札として、この考え方が採用されました。
佐渡産コシヒカリの認証制度スタート
その具体的な政策が、07年12月に発足した佐渡産コシヒカリの認証制度です。認証基準は、@佐渡市で栽培された米であること、A栽培者がエコファーマー(環境配慮の農業者)の認定を受けていること、B栽培期間中、農薬、化学肥料の使用を基準比5割以下にすること、
C「生き物を育む農法」により栽培された米であること・・・の4条件です。
この4条件を満たす佐渡産コシヒカリは、「「朱鷺と暮す郷」のマークを付けてJA佐渡が販売することになりました。
「朱鷺と暮す郷」の入った米袋には、「生きものを育む農法で栽培しています」、「佐渡市が認証するコシヒカリだけのマークです」などといった文言やマークが印刷されています。
「トキの田んぼを守る会」の会員は、農薬、化学肥料を一切使いませんが、それはあくまで理想で、多くの農民は、そこまで徹することができません。そこで、農薬や化学肥料の使用を基準比五割以下なら認証の対象にしています。この程度の農薬使用なら、生き物一杯の田んぼが保てます。
9月に20羽のトキ放鳥
ドジョウやタニシ、メダカ、カエルなどの田んぼの生き物が一年中生息できるためには、収穫時に田んぼから水を落としても、水生小動物が生きられるように田んぼの片隅や水路の一部に江(深み)や溝さらにビオトープをつくり、水を溜め、緊急避難ができるような対策が必要です。冬季は「ふゆみずたんぼ」にして、水を張り続けます。
認証制度の導入に当たって、当初懐疑的だった農民も、市側の熱心な説得に耳を傾けるようになりました。08年には、255名の農民が参加し、冬季湛水、江の設置など生き物を育む田んぼづくりに取り組みました。その面積は435ヘクタールに広がりました。市としては当初、100ヘクタール程度を見込んでいたので、その4倍の広がりに驚きを隠せませんでした。
「朱鷺と暮す郷」米の人気上々
「朱鷺と暮す郷」米の人気は上々で、大手スーパーを初め、販売を希望する声が全国から来ているそうです。売り上げの一部は、朱鷺募金に寄付することになっており、08年米の売り上げの中から、130万円を寄付に振り向けることができました。
今年(09年)は、520名、880ヘクタールの認証希望者があり、佐渡市の水稲作付け面積の14・4%までトキの田んぼが拡大しました。
トキの餌場になる田んぼが増えれば、トキの野生復帰もしやすくなります。佐渡トキ保護センターによると、現在トキは全部で150羽近くいます。所管の環境省では、9月29日に、昨年の2倍の20羽のトキを放鳥する準備をしています。
人工繁殖したトキを野生に復帰させるためには、エサのとり方、飛行力、天敵からの逃げ方など順化のための訓練が必要です。
放鳥で観光客の増加も期待
今回の訪問では、放鳥を控え、トキへの刺激を避けたいということで、直接順化ケージの中のトキをみることは出来ませんでしたが、あらかじめケージに設置されているカメラを通して、ケージ内のトキの様子をテレビ画面で見ることができました。
昨年放鳥したトキは、数が少なく、新潟方面に向かったトキもおり、地元の人も滅多に飛行を目撃できません。今後、トキの田んぼが増え、放鳥したトキが地元に定着するようになれば、外からの観光客も期待できます。トキを軸にした島の活性化への取り組みは、今大きく羽ばたき始めました。
2009年8月25日記