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緊急出版、「グリーン・リカバリー、日本再生の新シナリオ」の紹介
キーワードは、成長とCO2のデカップリング!

世界同時不況のあおりで、戦後最悪の景気低迷

今回は、最近出版した新著、「グリーン・リカバリー、日本再生の新シナリオ」(日本経済新聞出版社)を紹介させていただきます。
 昨年秋、100年に一度といわれるようなアメリカ発の大不況が日本にも押し寄せ、日本経済は戦後最大のピンチに直面しています。先日政府が発表した09年1−3月期の国内総生産(GDP)の速報値(実質ベース)は、年率換算で15・2%減と戦後最大の落ち込みになりました。その結果、08年度全体でも3・5%減と大幅な減少率になりました。今年度の経済成長率は政府見通しでは3・3%減ですが、実際には4%を超える大幅なマイナス成長になる可能性が強く、来年度(10年)もプラス成長が見込めそうにありません。三年連続のマイナス成長になれば、戦後の日本では初めてのことです。

構造不況の性格濃厚、対処誤ると泥沼状態へ転落

日本を直撃した今度の不況は、通常の循環型不況とは異なり、構造不況の性格を強く持っています。循環型不況の場合は、在庫調整が終われば景気は底を打ち、一、二年もすれば回復に向かいます。しかし構造不況の場合は、対処を誤ると、泥沼状態に陥り、停滞からの脱出が難しくなります。不況の性格を冷静に分析し、適切な対策が必要です。 本書は、このような問題意識で、今回の大不況を乗り切るための処方箋を具体的に提案したものです。

20世紀の繁栄支えた石油文明が破綻

まず、最初に指摘したいことは、今回の不況の性格です。一言でいえば、二〇世紀の繁栄を支えてきた石油文明が行き詰まり、破綻した結果起こってきたもので、過去の不況とはまったく違った対策が必要です。石油や様々な資源をどんどん使って経済を発展させ、有害物質を自然界に撒き散らす資源収奪型、環境破壊型の成長路線が地球の限界の壁に突き当たり、にっちもさっちもいかなくなってしまいました。人々のライフスタイルもこれまでの浪費型から節約型に大きく転換せざるを得なくなります。これからは、産業用の道路や大型火力発電所をどんどんつくっても景気浮揚効果はほとんど期待できません。アメリカの大手自動車メーカーが得意としていたガソリンをがぶ飲みして走る大型車の時代は永遠に戻ってこないでしょう。


オバマ米大統領、グリーン(環境)を景気対策の重要な柱に


第二に指摘したいことは、資源収奪型、環境破壊型の発展で傷ついた地球を修復し、資源を循環させるための新たな需要を顕在化させることです。具体的には、環境保全、資源循環、省エネ、新エネ、省資源、自然再生などの分野で眠っている潜在需要を掘り起こし、それを顕在化させ、新しい需要を爆発させることが必要です。アメリカではオバマ新大統領のグリーン・ニューディール政策が動き出しており、グリーン(環境)が景気対策の重要な柱になっています。

土日祝日の高速道路料金の引き下げは、CO2の大量排出で、温暖化を加速

日本でも、グリーンをキーワードにした景気対策が強調されていますが、その内容をみると顔をしかめたくなるものもあります。低公害車を普及させるための補助金などは一定の評価ができます。しかし、たとえば、二兆円の定額給付金の支給などは問題です。これは、一種の減税ですが、国民一人当たりに換算すると1万2000円程度です。これを使って大いに消費を盛り上げてください、というわけですが、かなりの部分が貯蓄に回り、景気浮揚効果はほとんど期待できません。2兆円の財源があれば、省エネランプを購入して、必要とするすべての家庭に無料で配布する方がよほど時代の要請に適い、景気にもプラスになるはずです。税金を使った、土日祝日の高速道路料金の引き下げは、ガソリン車の利用を増やし、温暖化の原因の二酸化炭素(CO2)を大量に排出させてしまいます。グリーンをキーワードにした景気対策とは、明らかに矛盾、逆行しています。

成長とCO2のデカップリングが必要

本書のタイトル「グリーン・リカバリー」は、その名前の通り、環境部門にヒト、モノ、カネを集中的に投入することで、不況からの脱出を図ることに主眼を置いています。
 本書では、今度の不況を、「全治10年」の重症と診断し、前半の5年間は、緊急対策期間、後半の5年間はリハビリ期間です。緊急対策期間には集中治療が必要です。
 集中治療としては、経済成長と化石燃料との間の緊密な関係を引き剥がす(デカップリング)ための手術が求められます。これまでの経済発展では、経済成長を高めるためには、化石燃料の消費を増やさなければなりませんでした。それがCO2の排出量を増加させ、温暖化を加速させます。しかし、これからは、化石燃料の消費を削減させる一方で、経済成長を高めるという新しい発展パターンへ移行すること必要です。スウェーデンではすでにデカップリングに成功しています。今日本に求められている景気対策は、このデカップリングです。

必要な財源は、特別会計の埋蔵金と永久国債で賄う

化石燃料の消費を削減させる様々な対策分野(省エネ、新エネ技術の開発・普及、環境税やCO2の排出量取引などの新制度の導入など)に年間10兆円の新規財源を投入し、潜在需要を爆発させ、そのエネルギーで、プラス成長を実現させる戦略です。必要な財源は、特別会計の埋蔵金や永久国債の発行によって賄います。
 年間10兆円、5年間で50兆円の財政支出をデカップリングの実現に集中的に振り向ければ、年率2%程度の成長が可能になります。その後の5年間のリハビリ期間中にデカップリングを定着させれば、日本はこれまでの化石燃料一辺倒の時代から、質の高い低炭素社会へ向かう新しい時代のスタートラインに立つことが可能になります。今回の不況克服に当たっては、短期的な対策だけではなく、2050年頃までを視野に入れた構造変化を織り込んだ中長期的な景気対策が望まれます。

2009年5月24日記

 
 
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