パリのエッフェル塔も、LEDでイルミネーション
世はまさに省エネ,CO2削減の時代。照明の世界でも、白熱灯や蛍光灯に代わって、LED照明がじわり存在感を増しています。パリ名物エッフェル塔のイルミネーションも、今年のクリスマスシーズンは、初めてLED照明が登場します。
発光ダイオードは、電気を流すと発光する半導体素子で、LED(エルイーディー)と呼ばれています。Light(光る)、Emitting(出す)、Diode(半導体)の頭文字です。ちょうど太陽光発電と逆の原理になっています。太陽光発電は、半導体素子に太陽光(エネルギー)を当て、電気に転換(発電)しますが、発光ダイオードは、逆に電気を光に変えるシステムです。
電気消費量、CO2排出量は白熱灯の約10分の1
LEDは、電球が光るのではなく半導体そのものが光るので、玉切れの心配はなく半永久的に使えます。白熱灯や蛍光灯は、熱をおびますが、LEDは、半導体素子なので熱をおびず、きわめて省エネ、従ってCO2の排出削減にも役立ちます。
LEDは、蛍光灯と比べると、電気消費量、CO2排出量ともに半分程度、白熱灯と比べると、ともに十分の一程度で済みます。
クリスマスツリーの光源として欠かせない存在に
LEDは、数年前からクリスマスツリーのデコレーション用電球の代わりに使われるようになっており、ご存知の方も多いと思います。白熱電球と比べると、全体にクールな感じがしますが、省エネの効果が大きく、いまや一般家庭の中にも入り込み、クリスマスツリーの光源として欠かせない存在になっています。
最近では、白熱灯や蛍光灯に代わって、常夜灯、壁面照明、ネオンサイン、スポットライトなどの分野で普及が目立ちますが、さらにその利用範囲が増えています。
たとえば、和歌山県では、交差点などに設置されている交通信号機をLED信号機に切り換えています。
交通信号機として、急速に普及
これまでの信号機は、天気が良い日など太陽光が乱反射して、点灯現象が視認しにくくなります。このため、交差点では赤信号なのに青信号と錯覚し、直進して交通事故を引き起こすケースが多発するなど問題になっています。この点,LED信号は、視認性が高く、事故防止対策にも効果的です。同県では、すでにLED信号設置箇所は360ヵ所あります。09年度内に、県内の信号設置交差点1673ヵ所の33・3%にあたる557カ所をLED信号に切り換える予定です。
従来の信号機と比べ、価格は1・5倍から2倍しますが、消費電力が従来の4分の1程度で済むため、今回のLED化で年間200万円の電気代が節約できるそうです。
LED信号機の設置は、全国的にも進んでおり、全国の交差点信号機の約23%を占めるまで普及しており、LED整備率は今後、急速に高まりそうです。
イカやサンマの集魚灯としても導入の動き強まる
LED照明は漁業でも利用され始めています。イカやサンマは明かりで集めて捕えます。「エサは電気」といわれるほどで、照明のための燃料費がかさみます。宇宙衛星で撮影した夜間の日本列島を見ると、海岸沿いに、ひときわ目立つ明かりの帯が目立ちますが、この帯がイカやサンマを集めるための集魚灯です。
サンマ漁船では、燃油の半分近くが集魚灯に使われる
漁船のエネルギー使用で最も多いのはエンジンですが、イカやサンマ漁船の場合は、集魚灯に燃料費のかなりが使われます。たとえば、サンマ漁船は、白熱電球をつけたさおを船外に突き出してサンマを集めます。明るいほどサンマが集まるといわれており、各漁船は明るさを競うため、燃油の3分の1から半分近くを集魚灯に費やしています。08年7月には、原油価格が暴騰し、1バレル(59リットル)当たり価格が、前年の2倍以上の147ドルまで高騰しました。
燃料費の高騰で苦境に立たされた全国二〇万隻の漁船が一斉に出漁を取り止め、政府に対策を求めたのもこの頃でした。その後、リーマン・ショックで世界同時不況が起こり、原油価格は下落しましたが、いつまた高騰するか分かりません。
1回の操業で集魚灯に使う燃油は、20分の1程度節約も
こんな苦い経験もあり、漁民の中には、白熱灯に代えて、消費電力の小さいLEDに切り換える漁船が出てきました。まだ実験の段階ですが、集魚灯の消費電力は、10の1程度で済みます。1回の操業で集魚灯に使う燃油は、20分の一程度まで節約でき、CO2の排出削減にも役立ちます。
価格が白熱灯よりも高いのが難点
一方、問題点もあります。第1に白熱電球と比べ、暗くなります。この点については、点滅や色の調整がしやすいLEDの長所を生かして、どのような条件を整えれば、サンマやイカが集まるかなどの研究が必要です。第二はLEDの価格がまだ高いことです。この点については、量産化による価格低下が必要であり、漁船が設置する場合は、補助金や低利融資、減価償却の優遇措置などの政府支援が求められます。
野菜工場の光源としての実験も始まる
このほか、LEDの変わった利用の仕方としては、野菜工場があります。
LED照明を使って、付加価値の高い野菜づくりへの挑戦です。天候に左右されないために安定的な供給が可能です。赤色は光合成を促進させる、青色は野菜の形づくりに役立つとか色の組み合わせを変えることで、消費者受けのする商品価値の高い野菜を栽培することが可能です。すでにいくつかの野菜工場で実験が始まっており、成長産業に発展する可能性が濃厚です。
今後、利用範囲は多方面に広がりそうだ
美術館では、絵画のスポットライトとして利用されています。白熱灯などによるスポットライトだと、作品に熱を伝わり、劣化の原因になりますが.LEDではその心配がありません。省エネ,CO2削減の効果が大きい光源として、照明の世界にLED革命と呼べるような変化をもたらしており、今後、利用範囲は、さらに多方面に広がりそうです。
2009年10月26日記