プロフィール
出版・刊行物
B-LIFE21
- 環境コラム
環境樹について
 
 

生物多様性を守ろう、来年 名古屋で国際会議(COP10)開催へ

生物の絶滅数、年間約四万種も

地球の持続可能性を守るために、温暖化防止と生物多様性の維持は、車の両輪といえるほど重要な役割を担っています。このうち、温暖化防止対策は、京都議定書が発効したこともあり、地球規模で動き始めていますが、生物多様性を維持するための国際的な枠組みはまだ十分とはいえません。国連の評価報告書によると、世界の生物の絶滅速度は、20世紀に入って以降、それまでの千倍以上に加速しており、1日に100種以上、年間約4万種が絶滅していると指摘しています。

生物多様性条約、93年発効、191カ国が参加

生物の絶滅を防ぐために、92年の地球サミット(国連環境開発会議)に先駆けて、「生物多様性条約」が採択され、地球サミットでは署名が始まりました。日本は翌年の93年5月に18番目の締約国として条約を締結し、同条約は同年12月に発効しました。 条約の目的は、@生物多様性の保全、A持続可能な生物資源の利用、B遺伝子資源から得られる利益の公正かつ衡平な配分――などが掲げられています。現在191カ国・地域が参加していますが、アメリカは加わっていません。

日本、07年に第3次生物多様性国家戦略を閣議決定

生物多様性条約は6条で、締約国に対して、生物多様性の保全と持続可能な利用について、国の施策の目標と取り組みの方向を定めるよう求めています。 これを受けて、わが国では95年に生物多様性国家戦略を決定しました。続いて、02年には改訂版に当たる新・生物多様性国家戦略、さらに07年11月には第3次生物多様性国家戦略を閣議決定し、今日に至っています。

生態系回復の100年計画を作成

最新の第3次国家戦略をみると、生物多様性とは「いのちと暮らしを支える」重要な役割を演じていると位置づけ、長期目標として、国土の生態系を100年かけて回復する「100年計画」のグランドデザインを提示しています。そのために4つの基本戦略が必要だとして、@生物多様性を社会に浸透させる、A地域における人と自然の関係を再構築する、B森・里・川・海のつながりを確保する、C地球規模の視野を持って行動するーを掲げています。


温暖化による生態系崩壊の危機を強調


初回及び新・基本戦略では、生物多様性には、三つの危機が存在したと指摘しています。第1の危機は人間の活動や開発よる自然環境の破壊、第2の危機は逆に人間活動の縮小による自然の荒廃。人手不足や人口の高齢化によって、過疎地が増え、里山や森林が荒れた状態で放置されることが原因の自然破壊です。第3の危機は外来生物の進出による危機です。外来種の進出で、在来種が絶滅してしまうなどによる自然生態系の破壊です。 第3次基本戦略は、以上の3つの危機に加えて、4番目の危機として地球温暖化による自然環境の破壊を挙げています。急速な温暖化に植物が適応できず、古来の自然が破壊される危機です。

昨年5月、生物多様性基本法が成立

政府は、基本戦略に沿って、生物多様性施策の推進を図るため、昨年5月に生物多様性基本法を制定し6月6日から施行しています。同法は、生物多様性の@保全、A利用、B予防的順応的取組方法、C長期的な観点、D温暖化対策との連携の5つを基本原則にしています。

国際的枠組み作りは難航気味

以上のように、生物多様性条約の発効に伴い、日本国内では、施策の基本的な考え方や政策体系の枠組みが、ほぼできあがりましたが、国際的な保全の枠組みはあまり進んでいません。渡り鳥などに象徴されるように、生物多様性の保全のためには、国際協力が欠かせません。しかし国情の違いや先進国と途上国の利害が複雑に絡み合っており、国際的な枠組みづくりは難航しています。

生態系の劣化による損失、2050年に最大508兆円?

昨年(08年)5月下旬、ドイツ・ボンで生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)が開かれました。この会議で、ドイツ政府とEU委員会は報告書「生態系と生物多様性の経済学」を発表しました。その中で、「森林生態系の劣化による経済的損失は2050年に1・35兆〜3・1兆ユーロ(約221兆〜508兆円)に上がる」と試算しています。 食糧や水、医薬品や遺伝子資源など人が生物から受け取る様々な恩恵を生態系サービスと呼びますが、それを金額で現わすと、巨大な金額なることが分かります。

米国、遺伝子資源の利益配分に難色、同条約に批准せず

それだけに、生態系サービスから得られる価値をどのように配分するかをめぐっては、各国の利害が対立して国際的な合意がまだ得られていません。たとえば、先程アメリカが条約に参加していないと指摘しましたが、同国が問題にしているのが遺伝子資源から得られる利益の衡平な配分です。遺伝子資源の豊富な途上国側からいえば、遺伝子資源からの利益の一部を途上国に配分して欲しいわけです。だが遺伝子資源を使い、巨額の資金を投入して開発した医薬品などの利益を途上国に配分すれば、アメリカに多いバイオ産業の収益が損なわれると、アメリカは主張しています。このため、遺伝子資源の利益を分け合うルールを法的義務として制定すべきだとする原産国とそれに反対するアメリカが対立しています。

米国、遺伝子組み換え生物の国境を超える移動規制にも不同意

また、遺伝子組み換え生物の国境を超える移動について一定の規制を定めたカルタヘナ議定書(生物多様性条約19条に基づく条約)については、現在日本を含む147国が参加していますが、遺伝子組み換え食糧の大量生産国のアメリカやカナダは規制に反対で議定書に加入していません。

来年名古屋で開くCOP10では、議長国日本に期待

来年(10年)10月には、名古屋で生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が開催されます。そこで、遺伝子資源による利益の衡平な配分についてのルールづくり、カルタヘナ議定書の効果的実施方法などが中心的な議題になります。議長国日本の手綱裁きに期待が寄せられています。

2009年1月21日記

 
 
    TOP


 
 
©2000-2009 zeroemission Inc, tadahiro mitsuhashi