第11回2004年度明治大学寄付講座

ゲスト:谷口 正次氏(国連大学ゼロエミッションフォーラム産業界NW代表 理事)(2004.12.6)
テーマ:「地球環境破壊は資源収奪型文明によるもの」
−資源生産性の高い経済社会をめざして−

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川上に目を向けてグローバルなシステムを変えよう

 これは、「循環型社会」の現状と問題点を私が図にしてみたものです。日本は、発展途上国の森林破壊や生態系破壊、大気、水質、土壌の汚染、砂漠化や土壌侵食、このようなものを犠牲にして大量のエネルギーや工業原料資源、木材などを6億7,000万t輸入し、工業製品を1億t輸出しています。木材は輸入しています。リサイクルは2億t、産業廃棄物は4億4,000万t出しています。都会と農村は断絶が起こっています。日本の農山村社会は、棚田は消滅し、バイオマス資源はどんどん増えていっているにもかかわらず林業は衰退し、農業は衰退し、食糧自給率は低下し、超高齢化と過疎化が進んでいるにもかかわらず、一方の都市部では人口の都市集中、過密化、大気・水質・土壌の汚染、ヒートアイランド現象、最終処分場の決定的な不足というようなことが起こっていて、循環型社会という言葉を盛んに使うわりには、農山村社会と都市社会の循環が全く途絶えて、循環系不全に陥っています。一方で資源の調達先である途上国に大きな環境負荷を与えています。

 日本に限らず先進国は皆、このパターンになっています。要するに、グローバルな仕組み、これをある環境経済学者はSocial Metabolism(社会的な新陳代謝)と言っています。先進国と発展途上国ではSocial Metabolismがあまりにアンバランスになっているというのです。南北問題と言われているのが、ここの問題です。資源産出国の環境を犠牲にして、先進国の文明を維持しているわけですから、これをSocial Metabolismという考えでとらえて、新陳代謝が悪いことは、環境正義(Environmental Justice)に反することだというのです。ある環境経済学者とはスペインのバルセロナ自治大学のマルチネス・アリエ教授です。そして、教授によると、先進国は発展途上国に対して環境的負債(Environmental Debt)を負っており、先進国はそれを外部不経済として無視している。先進国は発展途上国の環境問題は国際的なNGOが騒いでいるだけだという感じで、国際大資本は、環境負債を返済せずに平気で仕事をやっているというわけです。また、先進国からGreen House Gases:GHGs(温暖化ガス)を排出すると、これは、地球全体に負荷を与えているわけですから、これをGreen House Gases Debt(カーボン負債)と言っています。そのような負債が資源面であるにもかかわらず、それを全く無視している経済学が問題ということです。

これは、ビジョンと戦略ですが、要するに、なんとかSocial Metabolismを改善しなければならない。社会的な新陳代謝を変えなくてはならない。

 私の言いたいことは最初に申しましたように、資源の生産性、つまり「川上にもっと目を向けようよ」ということであります。川下の処理をやっていても環境問題は解決しない。それもグローバルにシステム的な視点で、何が起こっているかということを考えて、行動すべきだということです。

ノキアがタンタルの購入を断念したような
本当の意味のCSRが求められている

 それから、CSRという観点から一言付け加えさせていただきたいと思いますが、現在、盛んにCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という言葉が使われています。「CSRとは何ですか」と聞くと、Corporate Governance(企業統治)や、あるいはCompliance(法令遵守)などと言います。そのようなことは当たり前の話で、CSRの次元ではありません。例えば、ある大商社が最近、ディーゼルの排気ガスの処理装置で変なことをやりました。あれは法令を破ったわけですが、あのようなレベルの問題はCSRの次元ではありません。

 私が言いたいCSRとはこのようなことだと、一つだけ例を挙げます。アフリカにコンゴ(旧ザイール)という国があります。ここは、資源がたくさんあるところです。そこに、パソコンなどのコンデンサーに使われるタンタル(Ta : Tantalum)という希少資源があるのですが、そのタンタルがコンゴのルワンダとウガンダの隣接地域で発見されたのです。これは、中国・新疆ウイグル地区などの非常に限られたところにしかないもので、金よりも価値が高いといわれるくらいの大変貴重な資源です。ところが、その鉱山の地域が、国民を虐殺したり、人権を無視したり、抑圧したりする反政府軍が占領している地域だったのです。フィンランドの携帯電話のノキアという会社は、そこからそのタンタルを買っていました。知らないで買っていたのですが、それを環境団体から指摘されて、「CSRの観点から買うべきではないと思う。会社としては大変困るが、買うことはやめます」と言って、最近やめました。これこそがCSRと言えるのではないかと思います。

 しかし現実には、企業が資源を調達する際にも「商社が持ってくるのだから、どんな環境破壊をやった資源であろうがそのようなことは問題ない。安ければ買うよ」という姿勢でいながら、「我が社はCSR推進室をつくって一生懸命やっています」というところがほとんどです。グローバルな視点から企業として何をどうすることで責任を果たすべきか、ということを根本的に考えないで、今のトレンドだからと言ってCSRという言葉を使い、循環型社会形成推進といってCSR推進室をつくり、環境本部をつくって、「我が社は環境にやさしい企業」と言って、矮小化されたグリーン調達などで満足していても、それは何の意味もありません。そのような環境本部を担当する部長さんたちは、経営会議に参画することなどほとんどありません。皆さんファッションか何かのつもりでやっているだけだと思います。ですから、まだ本当の意味でのCSRをいうような段階ではないというように思っています。

 少し辛口のことを申しましたが、誰も言わないので敢えて私が言わせてもらっているわけでございます。本当はそれではいけないのです。ここであと20分くらいありますので、質問を受けたいと思います。どうも、ありがとうございました。






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