第1回2003年度千葉商科大学寄付講座
地球環境時代の企業・人・政府

第1回:三橋規宏氏(2003.10.1)

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 企業の社会的責任とトリプルボトムライン

 企業経営のあり方も変わってきています。日本の経営者の中には、アメリカかぶれの経営者が少なくありません。「会社とは何か?」「株主のためのものです」、「会社の目的は何か?」「株主のために利益をあげることです」、このようなアメリカ経営学を信奉している経営者がけっこういます。しかし21世紀、地球が限界に達した今、企業は利潤追求、株主の利益のためにだけ行動するということは許されない時代になってきているのです。「無限の地球」を前提としてきたアメリカ的な経営思想というものは、大量生産と共に過去に捨て去る時代に来ているのです。それにもかかわらず、アメリカ型の経営が良いのだと言っている日本の経営者がまだかなり多いのは、残念なことです。このような人たちはきっと後で後悔するか、企業を倒産させてしまうかのどちらかだと思います。

 「トリプルボトムライン」という言葉が最近使われ始めています。要約するとこれからの企業、は経済的側面だけではなく、環境的側面、社会的側面、この三つの側面をバランスよく調和させる経営、これが21世紀に生き残るための企業の条件であるという考え方です。この三つの側面を調和させる企業経営の理念のことを「トリプルボトムライン」と言っています。環境的側面というのは、今や環境の時代と言われることで改めて説明する必要はないと思います。

 社会的側面とは何か。よくアメリカの企業などは、発展途上国で未成年労働者を長時間働かせて安い製品をつくって売るという企業がありますが、そのような企業はことは許されなくなります。経営がグローバル化する中で、人種差別、男女差別、あるいは年齢差別なども望ましいものではありません。企業経営の中でこうした差別は、社会的側面の欠如として批判の対象になります。職場で働くのに年齢はそれなりに大きな要素かもしれませんが、特に高齢者の場合には個人差が大きい。そういう人たちも、例えば定年ということで職場から冷たく扱われてしまうなどということは、社会的側面から見直されなければならないような気がします。この経済的側面、社会的側面、環境的側面、この三つをバランスさせた企業経営ということが、これから21世紀に生き残るための条件であるということを考えると、企業は株主のものといった会社観ではもはややっていけなくなります。人類に必要な生産活動をしている事業体として社会的な責任を果たすことがこれからの企業には求められているといえます。そのためには、企業は経済的側面の追求だけに走っているということは許されない。これからの企業は、企業として社会的責任を果たすことが求められています。「トリプルボトムライン」という最近の新しい考え方は、「企業の社会的責任」を具体的に問うものであります。

 おそらく、富士ゼロックスの小林陽太郎会長が企業の社会的責任についてお話されるのではないかと思います。小林さんは長い間経済同友会の代表幹事をやっていて、彼が代表幹事を辞める最後の作品が「企業の社会的責任」でこの問題を扱っています。

グローバルコンパクトについて

 もう一つ、企業に対する新しい要請として「グローバルコンパクト」が提案されています。グローバルコンタクトとは、「地球契約」といった意味で、地球を舞台に活躍している企業に対して、環境、人権、労働基準の3分野の普遍的な原則を守るよう求め、趣旨に賛同する企業に国連と契約を結ぶように呼びかけているものです。国連事務総長のアナンさんが1999年2月のダボス会議で呼びかけたもので、世界の有力企業約1000社が契約してくれることを願っています。パワーポイントはアナン国連事務総長の9原則を示したものです。企業たるものは環境に配慮する、人権に配慮する、労働基準を守るための3分野9原則を「グローバルコンパクト」の形で誓うことで世界の人々から支持される。グローバル企業の中で、アナンさんの呼びかけに応える企業はまだそれほど多くはありません。日本でも数社が署名(契約)しているだけです。しかし、アナン提案に象徴されるように、21世紀の企業には、社会的責任を果たすことが生き残りの条件として大きな比重を占めるようになっていることがおわかりになると思います。

不況に強いエコファンド

エコファンドというものがあります。エコファンドとは何かというと、環境に配慮した企業の株式を集めて組んだ投資信託のことです。ですから、B-LIFE21に加盟している会員の多くはこのエコファンドに組み入れられていると思います。この図は損保ジャパンのエコファンド「ブナの森」の株価の推移です。1999年9月あたりは、環境に配慮した企業の株価(ブナの森)はトピックス(東証株価指数)よりも下にあったのです。しかしながら、企業の環境意識が高まるにしたがって、2000年9月くらいからはむしろブナの森の株価の落ち込みが小さく、不況抵抗力が大きくなっていることが読み取れると思います。環境に配慮した企業の株価は、最近でも明らかにトピックスよりも高くなっています。このことは、環境に配慮した経営をするということが、決して経営的にも不利になっていないということを示しています。

バックキャスティング

 もう一つ、是非この講座を受けるにあたって皆さんに知っておいていただきたいことは、「バックキャスティング」という考え方です。バックキャスティングというのはスウェーデンの環境NGOであるナチュラル・ステップをつくり上げたカール=ヘンリク・ロベールさんという方が提唱している考え方です。将来社会を予想する予測方法として、フォアキャスティングとバックキャスティングという二つの考え方があります。フォアキャスティングというのは、過去の趨勢を将来に引き伸ばすというかたちで将来を予測する考え方です。日本は経済見通しなどを行う場合、このフォアキャスティングという予測手法を取ってきました。フォアキャスティングは、将来、経済社会上の大きな構造変化が起こらないという場合には、好ましい予測方法です。

 しかしながら、地球が限界に直面するなど、将来経済活動を支える地球環境に大激動が予想されるような場合には 過去の趨勢を将来に伸ばすようなかたちで将来像を描くと、破局の道に進んでいってしまう恐れがあります。たとえば、温暖化が非常に深刻になってきた、今のままでいくと30年後には温暖化による異常気象の発生で、深刻な食糧難が起こりかもしれない。そんな破局現象が予想されるような場合、将来の持続可能な社会の姿を想定し、そこから現在を振り返り、破局を回避するために今からどのような取り組みが必要かを考え、対策を取る。具体的には温暖化を避けるためには今から何をしたらよいかを考える。つまり将来から現在を振り返る。それで、将来破局に陥らないために現在何をしていけばいいのかを考える将来予測、それがバックキャスティングの考え方です。これからの企業経営、あるいは私たちのライフスタイルを構築する際も、このバックキャスティングの考え方はだと思います。

99対1の原則

 次に「99対1の原則」という原則について説明します。これは私が主張している考え方です。「時代を変えるには、まず自分が変わらなければいけないのだ。100人がいる社会がどうも閉塞状態の陥ってしまった。その社会を変えるためにどうすればいいか。周りを見てもみんな不満を持っているけれども、自分がその行動者にはなりたくない。」そういうことでは世の中は変わりません。まず、100人のうち1人が変わって見せることが必要です。その1人は他人ではなく自分です。自分でなければいけないのです。もし、時代の方向を間違いなく見据えることができれば、やがて自分の仲間が1人増えて98対2の世界ができます。ISO14001学生会議は2名からスタートしています。しかし、2名ではだめなのです。しかしながら、95対5の世界で5人くらいが積極的に動き始めると、少し将来への明かりが見えてきます。90対10で賛同者が10人くらいになると、時代を動かすことができます。そのようなことで、現状を変えるためには、周りを見ないでまず自分が変わることが必要なのではないかと思います。

 この講義ではアカウミガメを守ってきた馬塚丈司さんというNGOの代表の方も講師に来てくれます。墨田区にお勤めの雨水博士、村瀬誠さんの話もそうですが、まさに「99対1の原則」を実践してきた人達です。まず自分が体を動かすことによって、世の中を変え始め、全体を変えていったということになるわけです。

 ここで、とくに学生に言っておきたいのですが、来週以降、予定通りの講師の方が来てさまざまな話をしてくれます。最後に質疑応答の時間があります。おそらく10分程度宮崎先生がつくってくれると思います。そのときに個人生活に関するような質問はできるだけ避けて下さい。「あなたは環境問題に対して良いお話をされたけれども、家で何をやっているのですか」などという質問は失礼です。他の大学でやったときにそのような質問が出たりして、これは非常によくありませんでした。慶応大学でやったとき、今の宮崎さんの役割をやってくれたのは現内閣で財政金融担当大臣をやっている竹中平蔵教授でしたが、そのような質問が出たときにはやはり竹中さんは真っ赤な顔で怒っていました。では、どういう質問が大学生らしい質問なのかということについて、特に学生の皆さんには考えてほしいのですが、例えば、「効率の高い省エネ技術をある企業が開発した。その省エネ技術を開発した企業が抱え込んでおけば、特許としてそれをほしいという企業に高く売れます。しかし、その技術を一般に公開したほうが全体の環境のためになる。そのような場合に、経営者としてのあなたはどのような選択をしますか」というような質問なら学生らしい良い質問なのです。あるいは、「省エネ型の自動車ができました。それはけっこうなのですが、省エネ型の自動車の数量が増え、社会全体のCO2の量が増えてしまうという場合に、個別の製品開発と全体の総量の間に悩ましい問題がでてきます。つまり、総量と省エネ製品のバランスをどのように取るのか」、このような質問も良い質問です。質疑応答のときにはそのように学生らしい、あるいは市民の皆さんは市民の皆さんらしい理詰めの質問を投げかけてほしいと思います。プライバシーを聞くようなつまらない質問はやめてほしいと思います。

 私の話は以上で終えたいと思いますが、来週以降、各講師の講義に是非ご期待ください。ご静聴ありがとうございました。






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