2002年度寄付講座
環境と経済の新世紀

第20回: 畠山重篤氏(2002.11.6)
(牡蠣の森を慕う会会長)

「森は海の恋人」

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牡蠣を手にすることは世界を手にすること

 世界のいろいろな牡蠣養殖をやっている人が我が家を訪れることがあるのですが、先日牡蠣の養殖で非常に有名なタスマニアの牡蠣養殖業者が、我が家に来て名刺をくれました。その名刺には“the world is my oyster”と書いてありました。何のことだろうと思いましたら、これはシェークスピアの“The Merry Wives of Windsor”(「ウィンザーの陽気な女房たち」)の有名な一説で、“the world is a personユs oyster”という言葉だったのです。つまり、英語圏の人にとっては、牡蠣を手に入れることは世界を手に入れることと同じだというくらい、牡蠣に対する欲求が強いのです。「牡蠣を食べたい」とみんなが思っているのです。ですから、フランス料理でも、この時期に出てくるオードブルは牡蠣を出さなければ話になりません。例えば、世界のお金持ちのステータスは、牡蠣の養殖場を持っているか持っていないかということらしいです。かの有名なロックフェラー財団は自己の牡蠣養殖場を持っていて、いつでも牡蠣を食べられるようにしているそうです。アメリカの牡蠣料理の中に“Oyster la Rockefeller”というものがあります。牡蠣のフタを開け、そこに刻んだパセリとバターを練ったものを乗せて、オーブンで焼いたものです。日本では「焼肉を一緒に食べる仲というのはそういう仲だ」という話がありますが、アメリカでは牡蠣を一緒に食べる仲というのはそういう仲なのだそうです。

 牡蠣の養分の中で一番有名な栄養分はグリコーゲンです。グリコというキャラメルのメーカーがありますが、そのグリコという名前は牡蠣の中に含まれるグリコーゲンのエキスをキャラメルの中に入れたことからできた名前です。パッケージにある「一粒300m」の文字は、そのキャラメルを一粒食べると300m走るだけのエネルギーが得られるという意味で、非常に有名な話です。牡蠣の栄養の中で非常に重要な栄養は、亜鉛分というものです。亜鉛はどのような働きをするかというと、たんぱく質の生合成には亜鉛は不可欠な成分です。人間の器官の中で一番磨耗の激しいところは舌です。あらゆる物を食べるので舌は消耗します。ここに味蕾(みらい)という器官があります。亜鉛が不足してくると、これはたんぱく質でできているので、細胞を復活させる力が弱くなって、亜鉛不足になると味の感覚が鈍ってきます。みなさんもインスタント食品ばかり食べていると、味覚が鈍ってきます。これは有名な話です。ですから、秋になったら牡蠣を食べなければいけないのです。

 今、みなさんくらいの男性の精子数が年々少なくなってきています。男の力が弱くなってきているのです。精子も突き詰めていけばたんぱく質ですので、これの生合成に亜鉛が不可欠なのです。ですから、亜鉛不足になってくると良い子供ができないということにもなります。いずれ結婚するときには、女性の方々もこれから子供をつくろうというときには、亭主に牡蠣を食べさせなければいけないということになります。そのような意味で、牡蠣は世界的に人類を救う食べ物というポジションにあります。ですから、全世界の人が牡蠣というものに対して非常に関心が強いのです。

フランスの牡蠣もアメリカの牡蠣も宮城県産

 フランスやアメリカなどは、今行けば牡蠣を出していますが、例えばフランスで養殖されている牡蠣の9割が宮城県から行った宮城種だということをご存知でしょうか。北上川の河口で採れる牡蠣は味が良く、病気に強く、成長が早いという3拍子揃った非常に優れた性質の牡蠣なのです。大正年代に、当時は移民の時代ですので、沖縄から移民の方をアメリカに連れて行って世話をする方で、沖縄出身の宮城新昌(みやぎしんしょう)という方がいたのですが、その方がアメリカへ行っていたときに、ルーズベルトが「これからの漁業はつくる漁業をしなければいけない」ということをおっしゃったそうです。今から100年も前です。宮城新昌さんはそれに触発されて、シアトル(Seattle)の近くのオリンピア(Olympia)で牡蠣の養殖場に勤めて修業して日本に帰ってきて、アメリカのシアトル周辺には日本のような大きな牡蠣がないので、その種をアメリカに輸出しました。このような理由で、牡蠣養殖のルーツはシアトルにあるわけです。シアトルではイチローや“大魔人”佐々木が活躍していますが、ワシントン州の州都はシアトルではなくオリンピアというところです。オリンピアに行くと国会議事堂のようなものが建っています。そのようなことで、アメリカにまず100年前に宮城県の北上川で採れる宮城種が渡りました。

 昭和40年代に、フランスではそれまでポルトガルからポルトゲーゼという種類の牡蠣を輸入していたのですが、ウイルス性の病気が発生して全滅しました。そのため宮城県の種に目をつけて、輸入しました。ですから、今フランスで養殖している牡蠣も我が宮城種です。みなさんがパリに行かれて牡蠣を食べてきても、それは日本の宮城種がルーツなのです。宮城種はチリのほうにも行きましたし、世界中に行っています。牡蠣というと広島が有名ですが、今、太田川水系にダムを40も造ってしまった弊害から大問題が起きていて、牡蠣の種がだんだん採れなくなってきています。広島で養殖している牡蠣の60〜70%は宮城の種が行っています。ですから、北上川河口の我が宮城県はそのようなポジションにあり、牡蠣の歴史の中で、宮城県の置かれている立場は非常に大事な立場に立っています。それは北上川という川がそこに流れ込んでいるからです。

 私はフランスに行きました。フランスのブルターニュ(Bretagne)は牡蠣が非常に採れるところで、そこにロアール川(Loire)というフランス最大の川が流れ込んでいます。日本の場合はいかだに牡蠣をぶら下げて養殖していますが、フランスの場合は地撒き式といって牡蠣を全部干潟にばら撒いて養殖しています。ですから、ロアール川の河口の干潟に行って牡蠣を見ると、牡蠣が全部砂の上に立っていて、先端が真っ白い花を咲かせていました。牡蠣を開けてみると本当に真っ白い良い牡蠣でした。海の健康度はどこでわかるかというと、牡蠣の殻を開けた内側です。殻の内側を真珠層といいます。日本では、御木本幸吉がアコヤ貝で真珠を養殖したことはご存知だと思いますが、アコヤ貝を開けるとキラキラしています。そこを真珠層といいます。そこにイケチョウ貝などを丸く削った貝殻の玉を中に手術して入れて、真珠層でグルッと巻かせたものが養殖真珠です。中まであのようにキラキラしていません。

ロアール川のシラスウナギのパイ皮包み

 貝の内側の真珠層を指で突っついてみると、海が健康ならば金属音がします。キンキンと硬いのです。海が不健全ならば指をさすと指がズブッと刺さります。そのように海の健康度を私たちは経験から試しています。当然、フランスの牡蠣の真珠層は硬かったです。そして、干潟ですので水溜り(タイドプール)ができます。そこを見ると、小さな生き物(カニ、エビ、イソギンチャク、タツノオトシゴ、カレイの子供など)が本当にたくさんいます。それは私が子供の頃に、三陸のリアス式海岸の目の前の海で生き物を相手に遊びましたので、非常に懐かしい生き物でした。私も結婚して子供が生まれてから、子供にもそのような遊びをさせようと連れていきましたら、三陸リアス式海岸の干潟にはそのような生き物は姿を消していました。ですから、何十年ぶりかにそのような光景を見て非常に驚きました。「この海はなぜいいのだろう」と思いました。それは、ロアール川という川がいいのだといことにすぐに気が付きました。ちょうどその旅はロアール川の河口のところで半分だったので、お祝いをしましょうということでロアール川河口のレストランへ行きました。フランスですから当然フランス料理なのですが、そこで名物料理を出して下さいと注文して出てきたものは何かというと、シラスウナギのパイ皮包みなのです。シラスウナギというのはうなぎの子供です。

 日本人はウナギが非常に好きです。世界のウナギは約20万t採れると言いますが、その約半分は日本で食べています。世界中からウナギを輸入しています。もともとウナギというのはどのような生活をしているかというと、5〜10年川で育って、親が秋口の台風の時期に海へ降りてきます。ここで真水から塩水になるので体を調整してエサを食べて、それからなんと2,000km離れたフィリピンの近くまで行って産卵します。親は死んで子供がまた川に戻ってきて川で育つということを繰り返しています。ヨーロッパのウナギは6,000km旅をします。アメリカのフロリダの近くに、藻の海として有名なサルガッソーシーというところがあり、そこで産卵するということを、今から約80年前にデンマークの科学者のシュミット博士が発見した話は非常に有名です。

 ウナギは森と海をつないでいる重要な生き物なのです。私は気仙沼の水産高校を卒業しましたが、高校時代には目の前の海にウナギがたくさんいました。それを採って売って高校の学費を払うという生活をしていましたので、ウナギは非常に身近なものでした。ところが、そのウナギも昭和40年代から50年代にかけて家の目の前には1匹もいなくなりました。フランスのロアール川へ行ったら、貴重なシラスウナギがたくさんいるのです。今マグロさえも人工的に子供を採ることができるのですが、ウナギはそのような生活をしているので、ウナギは人工的に卵を孵化させて子供が採れないのです。ですから、シラスウナギというのは春先に川から上がってくるのを1匹、1匹すくってそれを集めてエサをやって養殖しているのです。ですから、シラスウナギが採れなくなると、1kgが100万円もするのです。1kgが100万円というのは金の値段と同じです。そのような貴重なものなのです。それがロアール川の河口に行くと、シラスウナギのパイ皮包みといって名物料理として食べているのです。私は非常にショックを受けました。「あ、これは川がいいのだ」ということに改めて気づきました。






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