▽日経平均 4万5000円を超えるか
世界は大きな転換期を迎えているようです。戦後世界を支えてきた欧米先進国では民主主義の根幹を支える寛容、寛大な精神が片隅に追いやられ、「敵か味方か」の選択を迫る分断の嵐が吹き荒れています。一方、中国やロシアのような専制国家では、武力行使による「領土拡大」を辞さず、歴史の歯車が1世紀前の帝国主義時代に戻ったような行動が目立ちます。
ハイテク分野でも、AI技術が急速な発展を遂げ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・システム)経由で様々な偽情報が拡散され、政策決定や企業活動などに悪影響を与えています。
株価や為替レートは経済だけではなく国際情勢の変化、技術進歩、さらに気候変動による異常気象や地震など毎日起こる森羅万象の変化を反映します。それだけに今年の株価展望は、不確実、不明確な要因に左右されかねない要素が大きいことを頭の片隅に置いてください。
そのうえで、株価や為替レートに直接影響を与える経済的な要因については原因分析、予想がかなり可能です。株価は大きく分けて、①世界の景気がどうなるか、②経済活動に影響を与える政策金利の動向、③主要国政府の経済運営、政策当局者の発言―の三つに大きな影響を受けます。
▽世界経済は3%成長が可能
まず、世界景気ですが、昨年10月発表のIMF(国際通貨基金)の世界経済見通しによると、新興国を含めた世界全体では3%台の経済成長が維持出来そうです。国別に見ると、日本の株価に最も影響を与える米国、欧州、そして当の日本の経済成長率は飛び切り良いわけではありませんが順調な回復軌道をたどりそうです。20年のコロナ禍で停滞した中国経済はなお低迷状態を続けているのが少し気になります。とはいえ、ウクライナ戦争の行方などに激変が起こらない限り、世界経済は無難な1年になりそうです。
▽日米金利は逆方向の調整
日本の株価に最も大きな影響を与えると見られるのが、日米中央銀行による政策金利の動向です。今年最初の両行の金融政策決定会合は、今月下旬に開かれます。日銀の政策決定会合は23~24日、米国の中銀、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策決定会合(FOMC=連邦公開市場委員会)は28~29日です。ここで決まる政策金利がその後の株価に大きな影響を与えると見られます。
最初に日銀のこの1年を振り返ってみましょう。日銀は3月の政策決定会合で、それまで続けてきた超金融緩和政からの脱却を目指し、マイナス0.1%としてきた政策金利(無担保コール翌日物レート)を0~0.1%に引き上げました。日銀が政策金利を引上げるのは2007年2月以来約17年振りです。マイナス金利の是正は16年2月以来、約8年振りです。4カ月後の7月31日の決定会合でさらに政策金利を0.25%まで引き上げました。この時は株価の大幅下落を招き、「植田ショック」と言われました。今月末の決定会合で、日銀がさらに0.25%の引き上げに踏み切るかどうかに市場の関心が集まっています。日銀は政策金利の上限を1%程度とみているようです。利上げが遅れるようだと、円安に歯止めがかからなくなるとの懸念が広がっています。今回見送ったとしても、物価や企業の賃上げ状況などを視野に入れ、3月の政策決定会合では踏み切らざるをえないでしょう。その後、年内に2回、1回につき0.25%の引き上げに動くものと見られます。
一方、FRBはインフレ対策から22年3月に政策金利(フェデラルファンドレート)の引き上げに踏み切りました。以後、FOMCが開かれるたびに金利を引き上げ、23年3月にさらに0.25%引き上げました。金利水準は5.25~5.5%まで上昇しました。金利水準がここまで高くなると、企業の設備投資などに悪影響を与えかねません。FRBは昨年後半に入り、物価が沈静化してきたため、9月に0.5%引き下げたのを皮切りに、10月、12月もそれぞれ0.25%引き下げました。金利水準は4.25~4.50%まで低下しました。今年はさらに2回、引き下げる予定です。今月下旬のFOMCで0.25%引き下げに踏み切るかどうかが焦点です。FRBは景気に対し中立的な金利水準を約3%と見ています。年内に合わせ0.5%引き下げても、まだ余裕があります。
今月末、日本は0.25%引き上げ、米国は逆に0.25%引き下げ、と逆方向の決定があれば、円安にかなりのブレーキが働くでしょう。
▽保護貿易主義者、「トランプ2.0」かく乱要因
3番目の各国政府、首脳の政策運営で、最大の関心事は20日にトランプ氏が2期目の米大統領(トランプ2.0)に就任することでしょう。戦前の大恐慌時代、アメリカは40%前後の高い関税の壁を築き、外国からの製品をボイコットしました。それに対抗し、英仏などがブロック経済化に動き、第二次世界大戦に繋がった苦い経験があります。この反省もあり、戦後の歴代米大統領は関税引き下げ、自由貿易推進の旗手として世界経済の発展に貢献してきました。
ところが、今回、戦後初めて、「アメリカファースト」を掲げ、関税を武器に保護貿易の権化のような大統領の2期目が始まります。「トランプ2.0」は中国を初め、貿易赤字国に対し大幅な関税引き上げを迫るものと見られます。日本を含め世界各国の株価に大きな影響をあたえそうです。もっとも、「トランプ2.0}の政策は一歩間違えば、国内インフレを加速させ、米国企業の国際競争力の低下を招き、経済を弱体化させてしまう危険もはらんでいます。「トランプ2.0」が失敗すれば、アメリカの有権者は黙っていないでしょう。どこかで反旗を翻す可能性があります。まずは「トランプ2.0」の展開を注意深く見守る必要があります。
▽4万5000円台に乗せるか、日本株
最後に今年の日本の株価がどうなるでしょうか。大納会、12月30日の日経平均株価の終値は前日比386円安の3万9894円でした。300円以上も下げたので、今年は悪くなるのではないかと気に病んだ方もいるかも知れません。だが、少し長い目でみると、この数字は燦然と輝いて見えます。終値ベースで比較すると、過去最大は、バブル最盛期の1989年の大納会に記録した3万8915円です。今回はそれより979円も高く、史上最高値を更新しました。24年の株価上昇額は6430円(24年大納会―23年大納会)、23年同7370円です。コロナ禍後の2年間で株価は1万3800円も上昇したことになります。「2度あることは3度ある」の楽観論に立てば、今年の株価が4万5000円台に乗せるのはそれほど無理な見方ではありません。
日本経済新聞社が毎年元旦の紙面で掲載する主要企業の経営者20名に聞く「今年の株価見通し」によると、回答者の9割が昨年の最高値(4万2224円)を超えると答えています。また、高値予想の平均は「4万4450円」と回答しています。この数年、東京証券取引所や金融庁の指導、要請もあり、上場企業の多くはPBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)の引き上げ、株式の持ち合い廃止など財務体質の改善に取り組んでいます。外国投資家も日本企業の将来を評価した株式購入が増えています。昨年初めから始まった新NISA制度の導入で若者層の株式投資も急増しています。
今年も年間5000円以上の株価上昇が見込まれる年になると筆者は予想します。
(2025年1月6日記)