石炭火力、廃止時期明記拒否、処理水放出、お墨付き求め失敗
先週15、16日、札幌市で開かれた主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合で、日本の異端振りが際立った。欧米6カ国が石炭火力の廃止時期の明記を迫ったが日本は拒否、さらにCO2(二酸化炭素)を出さないゼロエミッション車(ZEV)の導入目標時期についても明記を受け入れず、日本と欧米6カ国の違いが浮き彫りになった。
会議終了後の16日に発表された共同声明には①温暖化ガスを2035年までに19年比で60%削減、②排出削減策を講じていない天然ガスや石炭などの使用を段階的に廃止、③30年までに洋上風力発電を21年実績の約7倍に、太陽光は現状の約3倍に拡大、④海洋プラごみによる新たな汚染を40年までにゼロへ・・・など会議の成果を印象づける内容になっている。
だが2日間の会議を踏み込んでみると、議長国をいいことに日本が石炭火力の継続や欧米と比べ開発が遅れている電気自動車の導入時期明記を避けるなど欧米から見ると後ろ向きの姿勢を貫き、「温暖化対策に消極的な日本」を強く印象づける結果になってしまったようだ。
G7のような国際会議では、提示された課題に1カ国でも反対すると、共同声明に盛り込めなくなる。国連安全保障理事会に似ていなくもない。もっともG7は任意団体なので、国連とは違うが、それでも7カ国が一致しなければ共同声明に盛り込めない。G7議長国は各国の持ち回りで今年は日本。議長国は会議の議題選定や進行、会議終了後に発表する共同声明の原案作成にもかなりの裁量が任されている。
この議長国の特権を好機と捉えた経済産業省は、石炭火力の継続や電気自動車の導入時期明記を阻止するために積極的に6カ国を説得して回った。
地球温暖化防止対策の国際枠組、パリ協定のCOP(国連気候変動枠気味条約締約国会議)は毎年秋に開かれる。昨年11月にはエジプトでCOP27が開かれたが、石炭火力の削減に消極的な日本にCOP加盟国や国際環境NGOから激しく批判された。
なぜ日本が石炭火力の継続にこだわるのかを説明するいい機会として、経産省はG7
環境相会合を積極的に活用した。同省は①石炭火力にアンモニアや水素を混焼することでCO2の排出量を大幅に削減できる、②石炭火力から排出されるCO2を回収して埋める地中貯留技術(CCS)も実用段階にさしかかっている、③石炭火力の依存率が高い東南アジア諸国に上記の技術を輸出することで、CO2は大幅に削減できるなど、石炭火力延命策を各国大臣に精力的に説明したようだ。
この説明に欧米6カ国が理解を示したとはとても思えないが、経産省としては日本の立場を説明するいい機会になったと自画自賛、満足げだった。
電気自動車についても、ハイブリッド車で成功した結果、電気自動車の開発、普及で欧米と比べ大幅に立ち後れてしまったため、「いつまでに電気自動車100%を実現させる」などの目標を明らかにすることなどできるはずがない。だが努力目標を示すなどで、欧米と足並みを揃える姿勢をもっと見せても良かったのではないか。
元々、今回の気候・エネルギー・環境相会合は、気候変動など地球レベルの諸問題を話し合い、解決の道を探る地球益を目指す会議だ。経済交渉とは異なる。それにもかかわらず、日本が国益を露骨に推進したことにはかなりの違和感がある。
共同声明の原案には、福島原発事故で大量に溜まった汚染水の海洋放出についても、
7カ国大臣が「安全」を保証する、といった内容を盛り込むための働きかけをした。
ドイツ代表などの反対で実現しなかったが、「そこまでやるのか」と不信感が募った。
石炭火力を維持するためのアンモニア生産やCO2の地中貯留技術の開発を支援する資金を太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーの開発に振り向けることで、石炭火力維持をはるかに上回る脱炭素化が実現できる。ドイツの代表は「再生可能エネルギーに恵まれている日本は、もっと利用を強化すべきだ」と指摘している。
今回の環境相会合には、日本から西村康稔経済産業相と西村明宏環境相の二人の「西村さん」が参加した。実力者の経産相の活躍がやたらに目立った一方、環境相の存在がすっかりかすんでいたのも気になった。
西村経産相は「世界中の国々にはそれぞれの経済事情やエネルギー事情がある。カーボンニュートラルへの道筋は多様であることを認めながら共通のゴールであるネットゼロを目指すことが重要であると確認できた」と胸を張った。
「多様であることを認める」ことで、各国の緊張感が薄れ、温暖化防止対策活動が足踏み、ないし後退しないことを祈るばかりある。日本のごり押しだけが目立ったなんとも後味の悪い会議だった。
2023年4月23日記