IPCC, アンモニア

SOS地球号(281) 石炭火力突出する日本、アンモニア混焼唱え、笑いものに

IPCC、温暖化ガス35年に60%減

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は20日、第6次統合報告書を公表した。世界各国の温暖化対策が遅れており、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑えるためには、温室効果ガス(GHG=グリーンハウスガス)の排出量を2035年に19年比で60%減らす必要があると警告した。

 IPCCは世界の専門家で組織されており、最先端の科学的知見に基づき5〜7年ごとに統合報告書公表している。前回の第5次報告書は2014年12月に公表されたが、今回は新型コロナウイルス禍の影響があり、公表が大幅に遅れてしまった。

 GHGの排出量削減に取り組む国際枠組「パリ協定は」、気候変動を抑制するために、産業革命以前からの気温上昇を1.5度以内に止めることを目標にしている。しかし足元の温暖化は凄まじい。15~22年は観測史上最も暑い8年だった。欧州は12~21年の陸地の平均気温が1.9度上がった。22年夏は熱波が欧米を襲った。米テキサス州では過去最高気温の39.4度を記録、エアコン需要が急増し電力供給不足から停電直前まで追い込まれた。フランスでは河川の水温が上昇、冷却水に影響するとして原発の出力抑制に踏み切った。日本も22年6月末から7月初めにかけて猛暑に見回れ、東京都心は9日連続の猛暑日となり、電力需給が逼迫した。

 

 今回公表された6次報告書によると、今のペースでGHGを排出し続ければ、間もなく、気温を1.5度に止めることができない状態に陥ると指摘している。GHGは大気中にたまるほど気温が上昇する。たとえばCO2(二酸化炭素)の濃度が大気中で2倍になれば気温は約3度上昇する。1.5度を維持するためにはGHGの排出量をCO2換算で5000億トンに抑えなければならない。今のままで排出を続ければ、30年頃には5000億トンに達してしまう。

これを避けるためには、GHGの排出量を2035年に19年比で60%削減、さらに40年に69%、50年に84%減らす必要があると報告書は分析している。

 EU(欧州連合)は50年に炭素ゼロを実現するため、30年までにGHG排出量を1990年比55%以上削減、アメリカは2005年比50〜52%削減、日本は30年度までに13年度比46%削減を公表している。各国とも今回の報告書を踏まえ、さらに大幅な削減目標を求められており、35年の削減目標を25年までに国連に提出しなければならない。

 温暖化防止のためにはGHG排出量の約3割合を占める石炭火力発電の削減が急務になっている。ところが、石炭火力削減への日本の取組みは欧米先進国の中で最も遅れている。

 国連のグテレス事務総長は「気候の時限爆弾が針を進めている」と危機感を強めており、「先進国は35年、他の国は40年までに石炭火力を廃止し、新規建設を停止すべきだ」と提案している。EU( 欧州連合)27カ国を含む46カ国・地域がグテレス提案を支持し署名している。日本は署名していない。さらにG7諸国の中で、石炭火力廃止の年限を明示していない国は日本だけとなっている。

たとえば、発電に占める石炭火力について、米国は35年までに、英国は24年、仏は22年、イタリアは25年、独、カナダは30年までに全廃することを明らかにしている。

一方、日本はエネルギー基本計画に記載されている30年度の発電に占める石炭火力比率26%を変えていない。さすがに欧米先進国との格差が目立ち過ぎるため、政府は旧式の非効率な石炭火力を段階的に廃止し、30年度までに19%へ引き下げる計画を示しているが、石炭火力突出の状況は変わらない。しかも現在170基が運転中であり、4基が計画・建設中だ。

 このままでは石炭火力廃止の世界の潮流に背を向け、地球温暖に対する危機意識の乏しい国のレッテルを貼られかねない。

 それにもかかわらず、政府は石炭火力の延命策と思われる対策を次々と打ち出している。

 その一つがアンモニア混焼発電だ。岸田文雄首相は2021年11月に英国・グラスゴーで開かれたCOP26(第26回国連気候変動枠組条約締約国会議)での演説で、石炭火力からの撤退には触れず、石炭火力にアンモニア、水素などを混焼させることでCO2の排出量を削減させる「ゼロエミッション火力」を推進するため、1億ドル規模の事業を展開すると述べた。首相が受けると思ったこの演説は逆に世界のNGO

から厳しい批判を浴び、気候変動対策に後ろ向きの国に贈られる「化石賞」を受賞した。

 この不名誉が応えたのか、岸田首相は昨年11月にエジプトで開催されたCOP27には欠席した。バイデン米大統領など主要国の大統領、首相が軒並み出席する中で、岸田首相の欠席は、温暖化対策に消極的な日本を一段と世界に印象付ける結果になった。

話を戻そう。アンモニアは「燃焼時にCO2を出さない」とされる。石炭火力に20%のアンモニアを混焼しても、CO2の排出量はアンモニア分の20%しか減らない。今の技術ではアンモニアの専焼は早くても2040年後半とされている。従ってそれまでは石炭を燃やし続け、LNG(液化天然ガス)火力を上回るCO2を排出し続けることになる。世界のNGOが「グリーンウオッシュ(見せかけの脱炭素化)」と批判するのもこの部分だ。

さらにアンモニア生成過程で大量のCO2が排出されることにも留意しなければならない。現在、アンモニアは天然ガスから製造されている。最新鋭の設備でもアンモニア1トンの製造に対して1.6トンのCO2が排出される。

国内主要電力会社のすべての石炭火力に20%のアンモニア混焼を実施すれば、年間約2000万トンのアンモニアが必要になり、その製造過程で3200万トンのCO2が排出される。さらに国内のアンモニア価格は天然ガスの2倍(同じ熱量当たり)と高くとても採算ベースに乗らない。

 政府は石炭火力維持のために袋小路に迷い込んでしまったように見える。地球温暖化対策のためには、石炭火力からの早期脱却、太陽光や風力、潮流などの再生可能エネルギーの革命的な技術開発、活用という正攻法で欧米を上回る脱炭素化を達成することが望ましい。それが温暖化対策に不熱心な国とレッテルを貼られた日本の名誉回復の唯一の道あることを政府は認識すべきだ。

2023年3月29日記

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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