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SOS地球号(276) COP27 温暖化対策、停滞は危険だ

異常気象は待ってくれない

 地球温暖化対策を話し合うCOP27(第27回国連気候変動枠組条約締約国会議)が6日から11日まで、エジプトの紅海沿岸の高級リゾート地、シャルム・エル・シェイクで開かれる。この数年世界をパンデミック(コロナ感染の世界的流行)に陥れたコロナ禍に加え、2月にはロシアのウクライナ侵攻で世界のエネルギー、食糧価格が急騰するなど混乱が続き、各国の温暖化対策は後手に回っている。そんな悪条件を背景に開かれるCOP27だが、気候変動による異常気象は年を追って激しさを増し、地球各地を暴れ回っている。停滞は許されない。

 COP27の開催を前に、条約事務局が最近の温室効果ガス(GHG)の排出量と気温上昇に関する報告書を発表した。それによると、各国が掲げるGHGの削減対策では、2030年の世界の排出量は2010年比10.6%増と上昇し、今世紀末には産業革命前と比べ約2.5度気温が上昇する可能性が大きいと指摘している。上昇を1.5度以内に抑える世界目標の実現には不十分で、各国のさらなる削減が求められる。

 

 条約事務局とは別に、国連環境計画(UNEP)が10月末に発表した同様の報告によると、各国が30年の削減目標を達成したとしても、30年時の削減量は5億トンに過ぎない。同年のGHG排出量見込み、524億トンの1%未満に止まる。

気候変動と温暖化の関係を研究しているIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)によると、1.5度目標の実現には25年までに排出量を減少に転じさせ、30年までに半減させる必要があるとしているが、現状では「絵に描いた餅」といわざるを得ない。

 

 理屈をいえば、今世紀末までに1.5度目標を実現する方法は色々考えられる。最大の原因である石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料の消費をストップさせる、太陽光や風力などの再生可能エネルギー依存率を100%にする、水素エネルギーの積極的な活用、気温差を利用するヒートポンプの普及拡大等々だ。

だが現実に目を転ずると、これらの試みの一つ一つの前には大きく高い壁が聳えたっている。化石燃料の消費ストップについては、石炭生産国や産油国などの経済が回らなくなるので激しい抵抗があるだろう。さらに現状では、化石燃料を使わず、寒い冬を乗り越えることは至難の業だ。ウクライナ戦争でロシアがウクライナの火力発電を集中的にミサイル攻撃しているのは、冬の寒さを武器にしてウクライナを追い詰める戦略のためだ。

 100年後に再生可能エネルギー依存率00%を達成するということならやり方によっては可能性があるだろう。だが当面、10年先、20年先の近未来では難しい。水素エネルギーやヒートポンプの利活用についても、製造技術、輸送、適用範囲など検討しなくてはならない難問が山積している。

 現実的な対応としては、これまでやってきた化石燃料消費の段階的抑制、再エネの普及拡大などの対策をコツコツしかし諦めずに推進していく以外の特効薬は存在しないだろう。

 

再度、現実に目を移そう。

 化石燃料の消費などに伴う世界のCO2排出量を国別で見ると、2020年現在、最大の排出国は中国で全体の約30.6%、2位米国13.5%、3位EU(欧州連合)7.5%、

4位インド7.0%、5位ロシア4.5%、6位日本3%などとなっている。最大の排出国、中国はCO2排出量を30年までにピークを付け、その後急速に減らし、60年に実質ゼロを目指すと約束している。インドも70年には実質ゼロを約束している。日本を含む欧米先進国は50年実質ゼロを目指している。

COP27では、上記の国々に追加削減を求めると同時にアジア、アフリカ、中南米などの途上国の排出量削減のために日本を含む欧米先進国からの巨額の資金・技術援助などが必要になる。そのための方法、仕組みなども検討されるだろう。

 日本はCOP3(1992年12月)が京都で開かれたとき、CO2削減について指導的な役割を果たしたが、最近では石炭火力へのこだわりや再エネへの取組みの遅れが目立ち、COP の場では存在感が薄れている。

 

日本の消極姿勢目立つ

パリ協定では30年度に13年度比46%のCO2削減を公約しているが、欧米と比べ傑出した目標とはいい難い。今年の日本は新型コロナ感染対策に加えて、安倍晋三元首相の殺害と国葬のあり方、旧統一教会と政権政党、自民党と癒着問題など内政問題が同時多発し岸田内閣を激しく揺さぶっている。経済政策も日銀の超金融緩和政策に任せっきりでインフレが進み、為替介入をしなければならないほど円安が進んでいる。国民の岸田内閣支持率は不支持率を下回っている。

今日明日に差し迫った問題ではない地球温暖化対策への岸田内閣の関心は大幅に低下している。COP27には参加するだけで済ませたいとの姿勢が見え見えだ。環境省の担当者の中にも「COP27への取組みは例年になく低調だ」と嘆きの声が聞こえる。だが、温暖化対策に手抜き、停滞は許されない。こんな時だけに、逆に日本は削減目標の大幅引き上げなどを提案し、日本の存在感を高めるチャンスにすべきではないか。

(2022年11月6日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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