50年炭素ゼロ, 固定価格買取制度(FIT), 水上太陽光発電

SOS地球号(271) 太陽光発電を主電源に、適地不足のなか、水上設置が伸びる

日本は太陽光で世界一だったが、今は中国がダントツ

 温室効果ガス(GHG)の排出削減を目指すパリ協定に基づき、日本は「2050年炭素ゼロ」を政府の公約として掲げている。その切り札の一つが太陽光発電だ。太陽光発電は元々日本のお家芸だった。 それが今やパネルの生産、発電量で中国やアメリカに大きな差をつけられてしまった。世界に先駆けて取り組んだものの普及・発展過程で大きく出遅れてしまったためだ。その反省を込めて太陽光発電をこれから日本の主力電力に育てるための課題を考えて見よう。

 太陽電池(発電)は,50年代初めにアメリカで発明され、当初、人工衛星に搭載され、通信用の電源として利用された。地球温暖化問題が大きくクローズアップされるようになった90年代初め頃になると、化石燃料に代るクリーンエネルギーとして注目されるようになった。日本は世界に先駆け実用化に向け本格的に取組み始めた。

 通産省(現経済産業省)は1994年に太陽光発電の普及促進のため、家庭用の太陽光発電に補助金制度を導入した。導入当初は設置費用約700万円に対し半分近くが補助金として支給されたため、導入家庭が急増した。2003年までは単年および累積の太陽光発電量は日本が世界一の座を占めた。05年の世界の太陽光発電パネルの生産量の約半分、47%を日本メーカーが独占した。シャープ、京セラ、三洋電機(当時)のトップ3社は日の出の勢いだった。

 だが、2000年に自然エネルギー法を制定し、固定価格買取制度(FIT)を導入したドイツが太陽光発電量を急速に増やし、04年には単年で、05年には累積でドイツに発電量世界一の座を奪われた。

 日本がFITの導入に踏み切ったのは東京電力福島第一原発事故発生の翌年、2012年だった。ドイツに遅れること12年。だがこれが契機となり、家庭向けが中心だった太陽光発電は大型化し企業が事業として取り組むようになった。当然、設置数、発電量も飛躍的に伸びた。この制度を使って導入した太陽光発電量(出力)は20年度末で約56GW(GW=ギガワット、1GW=100万KW)、制度前と比べて10倍に増えた。国内比較で見れば順調に伸びているように見えるが、国際比較で見ると、日本の出遅れが目立つという皮肉な現象が起こった。

中国の発電量(出力)は日本の3倍以上

 IEA(国際エネルギー機関)、IRENA(国際再生可能エネルギー機関)などの資料によると、19年の世界の太陽光発電の累積発電量(出力)は約760GWまで拡大している。発電量のトップは中国で約253GW、世界の約7割を占めている。次いで米国93GW、日本は3位の71GW。国内的には順調に伸びているように見えても、中国の3分の1以下である。当然の結果だが、パネル生産上位10社の大半は中国勢が占めている。日本企業は上位10社に入っていない。

 中国が太陽光発電システムの生産、発電量で群を抜いているのは国策として太陽光発電の育成に力を入れ、パネル製造企業に対して豊富な補助金支給、税制優遇措置を供与している。さらに太陽光発電業者に対しては国、地方が積極的に設置場所を提供するなどの便宜を図っているためだ。

  国家資本主義の中国と違って市場経済国の日本は中国のような方法で太陽光発電を増やすわけにはいかない。しかし「2050年炭素ゼロ」のためには、日本の太陽光発電の設置数、発電量の導入テンポをかなり早めなければならない。

 

経産省、50年までに原発換算で260~370基分の太陽光発電目指す

 経産省は「2050年炭素ゼロ」を目指すためには、50年までに太陽光発電の発電量を260GWから370GWまで増やす必要があると指摘している。現在の発電量71GWの3.7倍から5.2倍に当たる。標準的な原発1基の発電量(出力)は約1GWである。これで計算すれば、50年には太陽光発電の発電量は原発260基~370基分に相当する。これだけの太陽光発電が導入できれば、石炭や原子力発電無しで必要なエネルギーは十分賄える。

 今の日本では「絵に描いた餅」に過ぎないと一蹴されかねないが、日本が「50年炭素ゼロ」を目指し、太陽光発電を主力電源に育て上げようとすればこの程度の野心的な計画があっても不思議ではないだろう。

 日本の太陽光発電はこれまでを助走期間とすれば、これからが本格的なテイクオフの時代を迎える。そのためには過去に縛られない斬新なアイデア、取組みが求められるが、克服しなければならない課題も少なくない。

 第一は太陽光発電事業全体をサーキュラーエコノミー(循環型経済)として位置づける総合政策の展開である。太陽光パネルはガラス、アルミニウムさらに銅、銀などのレアメタル、シリコン、一部には鉛などの有害物質も使われている。太陽光発電パネルの耐用年数は20~30年程度とされている。家庭用太陽光発電の中はすでに寿命を終え、廃棄物として不法投棄されているものも目立つ。12年のFIT導入後、設置された使用済みパネルは30年代に入ると急増し、35〜37年には年間17〜28万トンに達する。産業廃棄物の最終処分量の2%に達するとの試算もある。使用済パネルをごみ扱いせず、再生資源とし循環させる仕組みが必要だ。

政府は7月から出力10KW(キロワット)以上の設備を対象に廃棄費用の積み立てを義務づける。企業の中には使用済パネルを分解し資源を取り出し再利用する事業に挑戦しているところもある。使われる資源の9割以上を取り出し再資源化する機械を開発、販売する企業も出てきた。

太陽光パネルの原材料提供、パネルの作成・生産、発電所の設置と運用、使用済パネルの再資源化などの事業全体をサーキュラーエコノミーとして機能させるガイドライン、仕組みを早急に確立しなければならない。

 第二は太陽光発電の設置場所の拡大だ。中国と違って日本には大型の太陽光発電の設置場所はそれほど多くはない。耕作放棄地、河川敷や堤防敷、駐車場、工場や飲食店の屋根や側面、ゴルフ場の跡地などが利用されている。東京都では新規戸建住宅に太陽光発電設置を義務づける条例を検討している。

 適地不足のため、業者の中には、里山の林や高原の一部を伐採しパネルの設置場所を確保しようとする動きが目立っている。地元住民から生態系を痛める、自然の景観を損なうとして太陽光発電設置反対の動きが強まっている。自然環境を破壊してまで太陽光発電を設置するなどは言語道断、本末転倒だ。

 環境省は1月下旬、埼玉県小川町の山林約86ヘクタールに太陽光発電設置計画に対して環境破壊や土砂崩れの心配があるとして見直しを求めた。大型太陽光発電計画に環境アセスメント(評価)を命じた初めての事例だ。昨年7月静岡県熱海市で起きた大規模な土砂流は盛り土が原因とされている。

 

注目される水上太陽光発電

 最近注目されているのが水上太陽光発電だ。湖沼、ダム、ため池などの水上を設置場所として利用する発電だ。水上利用が可能になれば、面積も広く発電量の拡大に大きく貢献する。もちろん利用する際には増水や渇水の変化への対応、水上設置のための新しい技術の開発、太陽光パネルや配線の防水、環境への配慮、さらに地元の理解など乗り越えなければならない課題は多いが、取り組む価値があるだろう。

第三の課題はソーラーシェアリングの活用だ。太陽光発電と農業を両立させるやり方だ。これまでの太陽光発電は、地面を覆う形でパネルを設置するため、農業用には使えない。ソーラーシェアリングは、太陽光発電を地上2㍍程度の高さに設置し、その下の空間を農地として活用する。すでに全国ベースでかなり普及しているが、これをさらに大規模で取り組むなら発電量はさらに大きく拡大する。

 様々なタイプの太陽光発電が生まれ、発電量を飛躍的に増やすことができれば、さらに電気を運ぶしっかりした送電網の建設・整備、天気に影響される太陽光発電の電気を溜める大型蓄電池の開発など関連業界へも好影響を与えるだろう。

 さらに大きな視点から言えば、太陽光発電を主力電源にする総合的な取組みは新たな経済発展のエンジン役を果たす可能性は大きく、地球環境に負荷の少ない新しい経済発展パターンを生み出す契機にもなるだろう。

(2022年6月1日記)

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です