▽ 若者、現役世代の資産形成に役立てる
いま、100万円を定期預金として銀行に預けると、1年後の利息はいくらになるか?
わずか20円。さらにこの中から所得税と地方税合わせて2割が差し引かれるので、手取りは16円に過ぎない。正確にはゼロ金利ではないが、預金者の多くはこの状態をゼロ金利と受け止めている。半世紀以上の昔、日本が元気だった1960年代の高度成長期には、預金金利が6%を超える時代があった。100万円預金すれば6万円の利息が得られた。今と比べると、天国と地獄の違いである。しかもこの状態が30年近く続いている。
なぜ金利ゼロ時代になってしまったのか。政府・日銀は90年代初めのバブル崩壊後、長引くデフレ経済から脱却するため、金利を大幅に引き下げた。銀行が日銀に預ける当座預金の一部をマイナス金利に据え置いている。にもかかわらず、デフレ経済からは抜け出せず、最近ではコロナ禍で不況がさらに深刻化し、飲食や旅行、観光業界などを中心に失業者が急増している。
▽ 1000兆円の現預金がゼロ金利で凍結
失業してお金が入らなければ、預金を取り崩さなければならない。家計部門の金融資産は現在約1845兆円(日銀調べ、20年3月末現在)ある。このうち約1000兆円が現預金で保有されている。この現預金に1%の金利が付けば10兆円、2%なら20兆円の利子所得が生まれる。利子所得の一部が消費に回れば景気回復を促すはずだ。しかし1000兆円の現預金は金利ゼロで凍結されたままだ。なんとももったいない話ではないか。
政府、日銀に何とかしてくれと頼んでも相手にしてくれない。それなら自助努力で、お金を増やすしかない。どうしたらいいのか。現預金の一部を株式投資に振り向けるのが手っ取り早い。といっても、「ハイリスク、ハイリターン」の株式投資は怖くて手を出せない。素人が手を出せば、結局大火傷をして撤退せざるをえないのではないか。こんな不安をお持ちの方も少なくないと思う。
▽ 投入資金の1~2割を稼ぐ方法
大切なお金を増やすためにはリスクを最小限に抑えたい。できれば元本を減らさず1割強の利益が得られればありがたい。そんなうまい話があるのか。半信半疑の人も少なくないだろう。デジタル革命の進展でネット株取引が可能になった。100株単位の小口で、しかも売買手数料が証券会社の店頭売買時代と比べ格段に安くなった。虎の子の大切なお金。石橋をたたいて渡る用心深さで、元本を減らさず、年間投資資金の1~2割を稼ぐための新発想による投資術(石橋攻略)が可能になった。この考え方を実践した著者が「石橋をたたいて渡るネット株投資術」を1年半前に出版した。本書はその改訂版である。
改訂版では統計数字や資料を最新のものに更新したが、最大の特徴は若者、現役の資産形成に役立つように配慮したことだ。初版は本のサブタイトルが「シルバー世代の小遣い稼ぎ」となっている。定年まで勤めあげ、退職金などを受け取って割と裕福なシルバー世代を念頭に置いていた。生活を支える年金以外に、多少の余裕金を持っているシルバー世代が、それを上手に運用して小銭を稼ぎ、夫婦で年数回の海外旅行、健康ゴルフ、孫の誕生日祝いのプレゼントなどに使える自由なお金があれば、老後の生活が豊かになる。
先行き短いシルバー世代にとっては10年、20年先の将来に向けお金を貯めるより、その年に稼いだお金はその年に使って生活を楽しみたいと願っている人が多い。初版はこんなシルバー世代向けに、短期に株式を売買して、ボケ防止を兼ねた小遣い稼ぎの手段として、「石橋攻略」を提案した。
だが、初版を読んだ読者はシルバー世代より、若者、現役世代が多かったようだ。彼らの感想を読むと、「老後に備えた資産形成に役立つ」との声が目立った。初版が書店に登場した2019年は、金融庁が人生100年時代を楽しく、健やかに暮らすためには「年金以外に2000万円が必要」とびっくりの報告書を出し話題になった年と重なっていた。若者、現役世代が老後に備え、資産形成に真剣に取り組むきっかけになったのかも知れない。
▽ 老後に備え、今から2000万円貯めよう
「石橋攻略」は、「その年に稼いだお金はその年に使って生活を楽しもう」が目的だった。改訂版のサブタイトルは「コロナ下でもしっかり利益」に変更した。稼いだお金を使わず、蓄積して資産形成に役立てることを勧めている。具体的には老後の2000万円獲得のために節約、努力して300万~500万円の原資をつくる。それを石橋攻略で運用して年間10~15%の利益を得る。得た利益は元本に組み込む。この方法で計画的に資産形成に取り組めば、30歳前後から始めても定年までに2000万円が得られる。
改訂版には、コロナショックによる株価暴落への対応もケーススタディとして紹介している。石橋攻略は現物取引と信用取引のベストミックスを提案している。現物取引は自分のお金で売買するが、信用取引は証券会社からお金や株式を借りて売買するので、金利が付く。期間も6か月に限られている。6か月を過ぎても株価が買値以下なら損切しなければならないし、それまでの支払い利息も嵩む。昨年3月、コロナショックで株価は暴落した。日経平均はコロナショック前の2月初めと比べ、株価がボトムを付けた3月中旬までの1カ月半で約7300円も下落した。この過程で追証(委託保証金の追加)に追い込まれる者、損切りして株式市場から撤退する個人投資家が目立った。
石橋攻略では信用取引をする場合信用維持率100%以上を維持することを目標にしている。著者がコロナショックによる株暴落の中で、信用維持率100%を維持するため悪戦苦闘しながらどのような対策を講じたかの内幕も紹介している。
金利ゼロの牢獄から抜け出し、安全第一を心がけつつ、着実に金融資産を増やしたいと願う人達に参考になれば幸せである。