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SOS地球号(252)書評 コロナと共存する知恵を提言

 書名 「メガ・リスク時代の日本再生戦略」 著者 飯田哲也、金子勝、筑摩書房、定価1500円+税

三つのメガ・リスク

  新型コロナウイルスが猛威を振るっている。欧米と比べ感染者、死亡者が少ない日本の対応は成功例との見方もあったが、今月に入って患者数、死亡者数が急増し、医療現場も崩壊の瀬戸際に追い込まれている。欧米の失敗例に枕を並べかねない深刻な状況だ。コロナと経済対策の両立を図るため政府が始めた「GO TO・・・」路線は短期間に人の移動を加速させ,感染者を急増させてしまったことは間違いあるまい。

 医学的に見てコロナウイルスの根絶が難しいということであれば、長期にわたりコロナと共存していくための新しい知恵が必要になる。

 本書は現在日本が抱えるメガ・リスクとして、新型コロナウイルス、原発や石炭火力、古くさい情報通信技術と情報管理の三つのリスクを取り上げている。その対策として地域分散ネットワーク型の経済への大転換が必要であり、それを支えるエネルギーとして太陽光や風力などの再生可能エネルギーに早急に切り換えるべきだと提案している。

 

太陽光や風力の発電コスト,石炭、原発を下回る

 著者の一人である飯田哲也氏は、地球温暖化による気候変動への影響が指摘されるようになった90年代初め頃からいち早く化石燃料に代って再エネへの転換を訴えてきた草分けだ。戦後の日本が石炭と原子力を両軸とするエネルギー政策を採用して来た最大の理由は発電コストが安いということだったが、飯田氏によると、この10年で風力発電の発電コストは70%、太陽光発電は90%も低下し、石炭や原子力を下回るようになったと指摘している。

 石炭や原子力のような大型・集中型の発電システムを再エネに切り換え地域分散型の発電システムを構築すれば太陽エネルギーはタダで調達できるので、電気代金は将来事実上ゼロにできるとも指摘する。すでにその動きは各地で始まっているとして、北海道浜頓別町の「市民風車」、長野県飯田市の「おひさま進歩エネルギー」などの分散,再エネ発電の事例を紹介しているが具体的で説得力がある。

 もう一人の著者、金子勝氏は社会派の経済学者である。2011年の東電福島原発事故後も、原発にこだわり続ける政府を痛烈に批判する。

 

原子力ルネアンスを煽った政府の責任は重い

 温暖化対策として石炭など化石燃料批判が強まる中で、経済産業省は今世紀初頃「原子力ルネサンス」を打ち出した。当時、石炭や天然ガスの価格が高騰していたこともあるが、「CO2を出さないクリーンなエネルギー」として,原発を推進するため2005年に小泉政権は「原子力政策大綱」を閣議決定し、翌年「原子力立国計画」が作成された。実はこの段階ですでに欧米の原発は価格競争力を失い、斜陽化していた。東芝が米国の代表的な原発メーカー、ウエスティングハウスを高額で買収したのはこの時期であり「ババをつかまされた」との見方もあった。

 福島原発事故を引き起こした日本は本来なら世界のエネルギー転換を牽引しなければいけない立場だったはずだが、事故後も「原発再稼働・原発輸出路線を推進している」と批判する。

 

人口の地方分散、教育、医療も地方の特性生かせ

 地域分散ネットワーク型の経済システムへの移行のためには、再エネの導入は一部に過ぎない。東京に代表される人口集中型の都市構造がコロナに弱かった反省からも人口の地方分散化が急がれる。それに伴って教育、医療なども地域の特性を生かす仕組みに切り替える。付加価値を高めるため農業の六次産業化も推進しなければならない。それを支えるのがデジタル革命であり、政治システムも現行の中央集権型から地方に権限を大幅に移す地方分権型に転換させなければならない。

時代が大きな転換期にある時は、微調整の積み重ねでは道を誤ってしまう。

ソ連にゴルバチョフ書記長が登場した翌年の86年、新聞社のロンドン支局長だった筆者は1週間程の日程で、ソ連・東欧諸国の政府、共産党幹部を訪ね、「現行のソ連中心の政治体制、ベルリンの壁は今世紀中安泰か」を取材して回った。15人程にインタビューしたが、ハンガリーの経済研究所のエコノミスト一人だけが「ノー」と答えた他はすべて「イエス」だった。当時の西欧のマスコミはソ連体制の崩壊は秒読みとの論調が支配的だった。

 

自分と異なる意見を聞く余裕を

 時代の転換期には、その体制の中で支配層にのし上がった者は、その体制が永遠に続くと願望するのは当然だろう。今の日本が石炭、原子力にしがみつき、中央集権型の政治・経済体制に固執しているのと似ている。

 米トランプ大統領の登場で、思想的な分断化が世界中に蔓延している。自分と異なる主張に感情的に無視、反発し、冷静に聞く耳を持たない傾向が日本でも強まっている。

本書の二人の著者は、大きく括ると、現政府、体制に批判的な立場からの発言が目立つ。現体制派からは異端者扱いされがちだ。だがこんな混迷の時代だからこそ、偏見を排し、本書を冷静に精読することで、ポストコロナ禍の日本の姿を考える参考にして欲しい。素晴しいヒント、アイデアが満載されていることに気がつくだろう。

                          2020年12月10日記

作成者: tadahiro mitsuhashi

三橋規宏 経済・環境ジャーナリスト 千葉商科大学名誉教授 1964年、日本経済新聞社入社。ロンドン支局長、日経ビジネス編集長、論説副主幹などを経て、2000年4月千葉商科大学政策情報学部教授。2010年4月から名誉教授、専門は経済学、環境経済学、環境経営学。主な著書に「新・日本経済入門」(編著、日本経済新聞出版社)、「グリーン・リカバリー」(同)、「環境経済入門4版」(日経文庫)「サステナビリティ経営」(講談社)、「環境再生と日本経済」(岩波新書)、「日本経済復活、最後のチャンス」(朝日新書)など多数。中央環境審議会委員、環境を考える経済人の会21(B-LIFE21)事務局長など歴任。

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