待った無しの温暖化対策
昨年は地球温暖化に起因する異常気象が世界中を暴れ回り、各地に深刻な被害をもたらした。今年も異常気象が牙をむき出し世界各地に様々な異変をもたらし、多くの人々の生命を脅かす懸念が強まっている。
異常気象を抑えるためには、一刻も早くその原因である地球温暖化をストップさせなくてはならない。パリ協定ではそのためには50年までに「温暖化ガスの排出ゼロ」が必要だとしているが、その実現は遅々として進まない。
今年は温暖化対策の国際枠組み,パリ協定発効の最初の年だ。昨年12月にスペイン・マドリードで開かれたCOP25(第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議)では、「産業革命前からの気温上昇を2度未満、できれば1.5度に抑える」というパリ協定の目標達成のため,排出削減の加速やCO2排出量の国際取引ルールなどについて細則を決めたかったが、各国の利害が対立し見送られた。
中国、米国など主要排出国の自国第一主義が壁に
特に責任が重いのは中国、米国、インド、ロシア、日本などの主要排出国である。この5カ国だけで世界の排出量の6割近くを占める。これらの国が本腰を入れなければ温暖化ガスの大幅な削減は難しいが、米国を筆頭にそれぞれの国が自国第一主義を打ち出し削減に消極的な姿勢を貫いたため合意ができなかった。
見劣りする日本の温暖化対策
日本の場合、政府が閣議決定した温暖化ガス削減目標は2030年までに排出量を26%削減(2013年比)、2050年までに80%削減、そして今世紀後半の早い時期にゼロにするという内容だ。50年80%削減の内容をみると、石炭火力が選択肢の一つとして残されている。石炭火力温存の代案として、再生可能エネルギーの普及、促進の他にCO2の地下貯留(CCS)や有効利用(CCU)を掲げている。だがCCSなどの技術偏重には多くの疑問が投げかけられている。石炭火力の縮小、全廃に本気で取り組まず,技術偏重で乗り切ろうとする姿勢に国際社会からの批判は厳しい。 温暖化対策に熱心なEU(欧州連合)はCOP25が閉幕した直後に2030年の排出削減目標をこれまでの40%(1990年比)から50%へ引き上げ、50年にはそれ以上に削減する方針を決めた。国連のグテーレス事務総長は「すでに77カ国が50年までに実質ゼロを表明している」と指摘している。
日本の温暖化ガス削減目標が国際的にかなり見劣りするのは明らかだ。最近では温暖化対策後進国のレッテルを貼られている。
批判を浴びる政府の温暖化対策を尻目に最近、「温暖化ガス,50年ゼロ」を掲げる地方自治体や企業の活動が目立ってきた。
「50年実質ゼロ」を掲げる自治体が急増
東京都は昨年末、CO2排出量を50年までに実質ゼロにする計画「ゼロエミッション東京戦略」を発表した。この実現のため、30年までの数値目標を掲げている。たとえば、①都有施設の使用電力を30年までに再生エネルギー100%にする、②CO2を排出しない電気自動車やプラグインハイブリッドなどの「ゼロエミッションビークル」(ZEV) の新車販売の割合を2%(2018年度現在)から50%まで引き上げる,などである。都府県ベースでは他に岩手県、神奈川県、大阪府、山梨県、三重県、徳島県、熊本県などが「50年ゼロ」目標を掲げている。さらに市町村ベースだと、横浜市、京都市、那須塩原市、豊田市、葛巻町など環境に熱心な約20市町村が名を連ねている。
再エネ100%で事業運営する企業も増加
企業の取り組みも活発化している。再エネ100%で事業運営を進める企業で結成する国際連携組織に「RE100」がある。英国の非営利組織(NGO)が主導して14年に結成し、米アップルや米フェイスブック、独BMW、スイスのネスレなど世界の有力企業216社(19年12月2日現在)が加盟している。米マイクロソフトなど34社がすでに100%の目標を達成している。
日本からは17年にリコーが加盟した。その後、積水ハウス、イオン、富士通、ソニー,パナソニック、金融の第一生命、城南信金など含め34社が加盟し、「50年ゼロ」を目指している。
大企業が参加する「RE100」に続いて、国内の中小企業や団体が加われる「再エネ100宣言 RE100アクション」も発足した。「5年以内に1万社以上の参加を目指したい」と昨年10月9日、東京で開いたRE100アクションの発足発表会で事務局を務めるグリーン購入ネットワークの平尾雅彦会長は抱負を述べた。
RE100アクションの運営はグリーン購入ネットワークのほか環境省系の地球環境戦略機構(IGES)、温暖化対策に関心のある企業が参加する日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP),自治体の国際組織イクレイ日本事務所の4団体が当たる。
世界の潮流に背を向け政府の温暖化対策に見切り発車の動きを歓迎
RE100に加盟する大企業、RE100アクションに加盟する中小企業や大学などの団体の中で、再エネ100%を実現しているのは城南信金や千葉商科大学などまだわずかだ。多くの企業はこれから50年へ向け,再エネ100を目指すことになる。
世界の潮流に背を向ける政府の温暖化対策に見切りをつけ、地球市民として明確な目標を掲げ、「50年ゼロ」に兆戦する地方自治体、企業の取り組みに大いに期待したい。
(2020年3月14日記)